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「美花?」
ずっと口を閉ざしたままの彼女は、圭に顔を覗き込まれると、弾かれるように顔を上げる。
「どうかしたのか?」
「私が思ってる事…………本当に……しない?」
「しない。キスは……するけどな?」
言いながら、圭が顔を傾けさせ、美花に触れるだけの口付けを振る。
「美花。今夜は俺と…………一緒にいてくれるか?」
「う……うん……」
「……良かった」
圭がホッとしたように表情を緩ませると、美花に手を差し出す。
男の人と夜をともに過ごすのが初めての彼女は、鼓動が加速していき、落ち着かせたくても落ち着かない。
「今夜は…………俺の部屋で過ごそう」
圭に手を強く握られながら、美花は、射抜かれ続けているクールな眼差しを受け止めながら、ゆっくりと頷いた。
帰りの車の中では、沈黙に支配されている状態。
彼女は、スマートフォンを手にしながら、母の雪に『今日は帰らない』と、メッセージアプリで連絡を入れると、数分後に既読マークが付き、『楽しんでおいで』と返事が届いた。
(けいトンと……何を話せばいいんだろう……?)
漆黒に覆われた景色を車窓越しに眺めながら、美花の緊張はピークに達していた。
二十歳の頃に付き合っていた男とは、身体の関係をやんわりと断り続けてきたから、泊まり掛けで過ごした事は一度もない。
緊張と羞恥のせいなのか、美花の心臓が、どことなく耳障りな音を立てているような気がする。
「美花? どうした?」
ステアリングを握る圭が、前方に視線を送ったまま口を開く。
男の人と、夜を過ごすのが初めて、なんて言ったら、彼は引くだろうか?
美花は、整った横顔にチラリと向けながら、恐るおそる言葉を紡いでいく。
「実は私…………男の人と泊まり掛けで過ごすのが……初めてなんだ……」
「……え?」
焦ったような圭の声音に、またも鼓動が大きく脈を打つ。
ああ、やっぱり言わない方が……良かったのだろうか……。
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