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『まだ起きてる? いま駅に着いた。ちょっとだけ話せる?』
亮介からだった。いまは23時半。待ってるねと返事をして起き上がり、冷蔵庫を開けた。見事になにもない。
奥の方から発掘した、しなびかけたバナナを食べて、亮介を待った。
──コンコン
のぞき穴からのぞくと、亮介であった。
ドアを開けると心配そうな顔をした亮介がコンビニの弁当をぶら下げて立っていた。
「もしかしたら、晩ご飯まだなのかなと思って。2つ買ってきた」
亮介って、やさしいな。ありがとうと弁当を受け取る。亮介は部屋にあがって、ちゃぶ台に並んで座った。
「未央、大丈夫だった?」
「疲れてそのままベッドで寝てた。ごめんね、仕事の邪魔して」
「いや、もっと早くに助けに行くべきだったんだ。遅くなってごめん」
「ううん。ありがとう、知世さんはあのあとどうしたの?」
「何も言わずに帰っていったよ」
「そう……」
未央はポロポロと泣きはじめた。亮介はギョッとして「どうした?」と声をかける。
「知世さん、あれ痛いよね。辛いよね。なんか悲しくなってきちゃった……」
あんなに痛めつけられて、それでも自分でやったという知世。実際に自分でやったのかもしれないけど、それをするまでに至った心の悲しみはいかほどか。
「何があったか、しらないけどさ。ひどいよね」
「未央……」
亮介は未央をぎゅっと抱きしめて、涙を拭いた。次の日、知世はレッスンを無断キャンセルした。あの修羅場のあとじゃ、さすがに顔を合わせにくいのだろう。なにかひどいことになってないといいけど。
生徒さんとトラブルになったのは間違いないことだったので、チーフにきのうのことを報告しておいた。DV疑惑も一応。
もやもやした気持ちで一日過ごす。気持ちはなかなか晴れてこない。
きょうは亮介のほうが仕事が早く終わるからと、ごはんを作って待っていてくれた。
「はい、チンジャオロース」
亮介は、最近中華料理にハマっていて、チンジャオロースと餃子、サンラータンを作ってくれた。私より上手いかも……。
「ありがとう! すごくおいしそう!!」
「覚めないうちに食べよ。いただきます」
お腹が空いていたので、ガツガツとふたりで食べはじめた。ビールに合うー!! 絶品だ!!
「亮介、これ味付け何でしたの?」
「難しいことしてないよ。中華ダシ使っただけ」
「へぇー!! おいしい! 毎日作って!!」
「毎日はいや。未央の料理がいちばんすき」
いちばんすき……、それは反則。この甘い生活がずっと続いてくれるといいな。
「そうだ、中川のことなんですけど」
中川……、知世さんのことだよね。
「うん、きょうねレッスン無断キャンセルだったんだ。どうかした?」
「さすがに僕も気になったんで、大学のときに中川と仲良かった友だちに連絡してみたんです。そしたらやっぱりそのケガこと知ってて」
「うん」
「その友だちが聞いても、大丈夫とか自分が悪いからって言って、らちがあかないみたいで、心配してました」
「そっか……」
「大丈夫って言われても、あれは大丈夫じゃないですよね」
亮介はローテーブルに肘をついて遠い目をする。
「やっぱり、気になる? 元カノのこと」
「えっ? 元カノ? 誰がですか?」
「知世さんって元カノじゃないの?」
「中川はサークルで一緒でしたけど、付き合ってません。あいつ、そんなこと言ってました!?」
「えーっ!! そっそうなの??」
キャラ変が気持ち悪くて別れたってのも、幼稚なセックスだってのも、全部嘘ってこと?? こっ怖い……。
「でも、キャラ変のこと知ってたよ?」
「あー、酔うとそうなってたかもしれないですね」
「よっ……幼稚なセックスだって言ってたけど……?」
「はぁ? 幼稚って……たしかに童貞捨てたのは遅かったですけど……って何言わすんですか?」
知世さーーん!! もうついてけません。あなたの幸せ祈ってます!! どうか自分を大切に!!
ご飯を食べ終わり、片付けをふたりですませ、テレビをみる。亮介はいつも未央を後ろからぎゅっと抱きしめながらテレビを楽しむ。この時間がすごく好き。