テラーノベル
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「ねぇ、未央」
後ろから声がする。
「なに?」
「きのうmuseで、未央が言ってたことなんだけど」
えっと……どれのことだろう。かなり修羅場だったので、未央はあんまり詳しく覚えていなかった。
「一緒に喜びあったり、苦しみを分け合っていけたらいいなって言ってたの……ほんと?」
ぴぇー!! そうだ、そんなことも言ったっけ。亮介聞いてたんだ……。未央は顔から火が出そうだった。
「うっうん……。あっいや、私はそう思ってるよ。亮介のこと大好きだし、その……えっと」
付き合ってまだ日が浅いのに、これは重いよね!? 亮介ごめんっ。
「……、うれしいです。僕も、そうなりたいと思ってます」
思わず後ろを振り向く。亮介はいつものやさしい笑顔だ。
「そのときが来たらちゃんと言いますね」
亮介は唇を重ねた。やさしくて、大事にしてくれてるのがわかる、しあわせなキスだった。「そうだ、いまから試してみますか?」
「なにを?」
「僕のセックスが幼稚かどうか」
「ええーっ!! いいよ、幼稚……じゃないの……しってるし……」
語尾がごにょごにょしてはっきり言えない。いや、あれは間違いなく幼稚じゃないよね。
「未央、しよ? もうこんなになってるし」
亮介は未央の手を取って、自分の硬くなったものをズボン越しにさわらせた。
「ひゃっ……、もう?」
「幼稚かどうか、途中で聞くから。教えてよ?」
いじわるく笑う顔は、あきらかに楽しそうだ。ベッドに押し倒されて、激しくキスされる。
Tシャツをめくり上げて、ブラをガッとずらされ、胸の先端を音がするくらいぎゅっと吸われた。
いつもより、激しくない? もうちょっとゆっくり……。
「ごめん、入れていい? がまんできない」
「えっ、ちょっと待っ──!!」
戸惑っているうちに、亮介は奥まで入ってきた。なんか、ムキになってる? きょうは激しすぎるよぉ……っ!!
「ああっ……だめっ亮介っ……そんなにしたら、こわれちゃう……あんっ」
「いいよ、めちゃくちゃにしてあげる。どう、これ幼稚?」
未央はふるふる首を横に振る。
ムキになった亮介は、何度も何度も未央の頭を真っ白にさせた。
知世は、3日振りにスタジオにやってきた。事情があって退会したいという。
未央は自分のレッスンがあったので、顔を合わせずにすんでホッとしていた。
レッスンを終えると、帰ったと思っていた知世が、休憩室から玲奈と一緒にでてきた。頑張ってください、とか応援してますとか、玲奈は知世を励ましているようだった。
知世は、泣いているようでハンカチで目を押さえている。未央にも気がついてペコリと頭を下げてスタジオから去っていった。
「玲奈、なんかあったの?」
「あぁー……、もう休憩入れる? こっちで話そ」
玲奈は未央を休憩室へと誘った。
「どうしたの?」
「チーフから、知世さんのDV疑惑のこと聞いたの。ちょっと人ごととは思えなくて……」
「うん……?」
「私も昔、彼氏にひどいDV受けてたことがあってね。自殺未遂までしたんだ。今思えばバカバカしいけど」
強くて明るい玲奈にそんな過去があったのを未央は知らなかった。あまりのことに驚いて言葉が出てこない。「だから、知世さんとちょっと話がしたくて、休憩室借りたの」
「どうだって?」
「もしDVを受けてるようだったら、支援団体とか、区の相談機関を進めようと思ってた。でも、もう自分で支援団体に相談して、しばらくシェルターで過ごすことに決めたみたい。
知世さん、未央に感謝してたよ。自分を大切にしてって言われて、相談に行くふんぎりがついたんだって。
ここを離れて、少し遠くに引っ越すから、退会の手続きにきたって言ってた。
たぶん命の危険があったんじゃないかな。さっきも支援団体のひとに付き添われてたしね」
「そう……なんだ」
「やられてる時はなかなか正気になれないものでさ。
私が悪いんだ、私が行動を改めればきっと相手も変わってくれるって思いこんじゃうんだよ。
たぶん知世さんもそうだったと思う。傷、見せてくれたけどあれはかなりひどい。きっかけがなければ最悪のこともあったかもしれない」
「そう……なんだ。玲奈は? いまは大丈夫なの?」
「うん、それは学生の頃の話だから。そのあと旦那と知り合って、大切にされるってこういうことなんだなってはじめて知ったの。旦那には感謝してる」にこにこ淡々と語る玲奈。
ここまでくるのにどれだけ悲しい思いをしたのだろう。
大好きな人に痛めつけられて、どれだけ辛かったのだろう。
それを乗り越えていくことが、簡単だったとはとても思えない。
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