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玉座の間に、再び静けさが戻った。
冒険者たちの気配が完全に消えたことを確認してから、
アルド・ヴェインは、ゆっくりと息を吐いた。
威圧のために張り詰めていた魔力を解くと、
空気が一気に軽くなる。
それと同時に、身体の奥に溜まっていた疲労が押し寄せた。
「……行ったか」
誰に聞かせるでもなく、呟く。
本物の魔王を倒した時よりも、
今の方が、ずっと消耗している気がした。
アルドは崩れた玉座の名残に腰を下ろす。
そこは本来、世界を恐怖で支配する存在が座る場所だった。
ほんの少し前のことだ。
アルドは、魔王と相対していた。
巨大な魔力。
禍々しい気配。
世界の敵として語られてきた存在。
だが――。
「……はあ」
アルドは、思わずため息を漏らしていた。
杖を、軽く振っただけだった。
詠唱も、構えもない。
ただ魔力を流しただけの一撃。
それだけで、魔王の身体は崩れ落ち、
黒い塵となって床に散った。
あまりにも、あっけない最期だった。
「……報酬に見合わないな」
魔王討伐は金になる。
それだけの理由で、ここまで来た。
それ以上でも、それ以下でもなかった。
だが、その瞬間だった。
――ちっちゃいな。
城の外、遥か遠くから、
かすかな魔力の揺らぎを感じ取る。
「……冒険者、か」
おそらく魔王討伐を狙う連中だろう。
このままここを見られたら厄介だ。
魔王が、杖を一振りで倒されたなどと知られたら――
間違いなく、目立つ。
「さて……どうする」
一瞬考え、アルドは思い出す。
「……ああ、あったな」
昔、遊び半分で覚えた魔法。
役に立たず、結局使わなかったそれ。
変身魔法。
「ペルフィデル(変身)」
魔力を込め、即座に発動。
――だが、何も起こらない。
「……あ」
失敗だ。
理由はすぐに思い出した。
この魔法は、魔法陣を描く必要がある。
だからこそ、
「面倒だ」と遊び半分で覚えただけだったのだ。
遠くの魔力が、近づいてくる。
時間がない。
「……仕方ない」
アルドは杖を強く振り下ろした。
魔法が炸裂し、
壁が砕け、柱が倒れ、床が抉れる。
城を壊す。
戦いがあった痕跡を、無理やり作る。
瓦礫の中で、
アルドは必死に魔法陣を描いた。
崩れる床。
迫る気配。
――間に合え。
最後の線を引いた瞬間、
魔法陣が光を放つ。
身体が軋み、
魔力が歪み、
姿が変わる。
巨大な影。
圧倒的な威圧。
“魔王”という役割。
そうして、
アルド・ヴェインは――
魔王の「フリ」をしたのだ
しかし、これが運命の分かれ道となるのだった