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「くにみちゃーんっ」
「とおるさん…こんばんわー」
こんな日常にはすっかり慣れてきていたが、今日は一段と疲れていた俺は、今にも寝そうな視界に入ったそのかわいらしい男の子に、言葉を返した。
「くにみちゃんおつかれなの?」
「…まぁ、そんなとこです」
そう言いながら、近くのベンチに座る。
とおるさんは立ったままだ。
「そっかー…よしよーし」
そう言って彼は俺の頭を撫でてきた。
ちなみに、外すタイミングを逃したというのもあって、敬語はそのままだ。
「小二のくせに中二になにを…」
俺より六年も遅く生まれてきた、その小さい手は、まだまだ大人に近しいとは言えないけれど、暖かくて気持ちが良かった。
「ふふ、ありがとうございます…」
そう言って、俺はやわらかく笑った。
和やかだなぁ…。
「くにみちゃん、けっこんしたい」
「やです」
「ぶーぶー」
「ふふっ、やでーす」
やっぱり子供なんだなと感じて、何だかそれが面白くて吹き出してしまった。
こんな日常が、楽しくて、幸せだ。
「あ、とおる 」
しばらく話していると、とおるさんの友達らしき人が話しかけてきた。
あ、あの黒いギザギザ頭の『イワチャン』って呼ばれてる子だ。
「いわちゃん!」
「とおる、そのひと…」
見た目は『元気なわんぱく少年』という感じだが、見た目に反して気は使えるらしい。
彼は、心配な様子で小さく俺を指さした。
とおるさん大好きなのかな…すっごいいい子だ…。
「くにみちゃんだよ!」
「そうか。…いいひとか?」
「いいひとだよ!」
「おれ、おっきくなったらね、くにみちゃんとけっこんするんだ!」
あれ、なんか今とてつもない日本語聞こえた気がするけど気のせいか。
「…ん、そうか、がんばれよ」
「うん!」
それからなにか二人で話していたが、俺が入るのは違うなと思い、そっとしておいた。
「…くにみ、おれもよろしくしていいか?」
「いいですよ」
「やった、ありがとな」
うわぁ、小二とは思えないほどの男前だ…。
「あ、くにみちゃん!いわちゃんだよ!いわいずみはじめ!はじめはね、いちってかくの!」
「岩泉一さんね。二人は仲良いね」
「えへへ、でしょ」
「まあな、くされえんってやつだ」
二人は誇らしそうに、でも、少し照れくさそうにそう言った。
「おぉ…」
今は、小二でも難しい言葉も使えるんだなぁ、と中二ながら感心してしまう。
「呼び方、はじめさんでいいですか?」
「おう、いいけどなんでだ?」
言い方はきついし、頭もとげとげだし、肌も焼けているけれど、やっぱり基はきちんとしているんだなと感心する。
「とおるさんって呼んでるので…」
「…そうか、じゃあおれはあきらってよぶ」
いろいろイカついのに、まだ声変わりのしていないその少し高めのやさしい声。
「改めてよろしくお願いします」
「あらた…?…まぁ、よろしくな」
難しい言葉使うんじゃなかった…と後悔したが、少しかわいかったのでまぁいいだろう。
「ふふ、はじめさんは、とおるさんのこと、大事なんですね」
「まぁな、だいじにきまってんだろ、おさななじみだし」
一瞬びっくりした表情を見せたが、すぐにそっぽを向いてそう言った。
俺が、この間に入っていいのだろうか、と思ってしまった。二人でこれからも仲良くやっていってくれた方が…と。
「あきらのことはこれからしりたい」
「俺もですよ、よろしくお願いします」
「ん、よろしくな」
そう言いながら微笑んだはじめさんの顔は、やっぱり小学生なんだなぁと改めて確認させられるような、かわいらしい笑顔だった。
「ちょっと、おれのことわすれてるでしょ!」
「「…あ、」」
「も〜!!」
とおるさんを忘れていたことは、はじめさんと一緒に無かったことにしよう。
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