テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
温泉には馬車が止まっていた。 どうやら領主はすでに温泉を満喫しているようだ。
「うわぁ!豪華な馬車だなーいいな!いいな!」
エスト様が目を輝かせながら言った。
「え? そうですか?
こんな馬車よりも、こっちの馬車達は飛ぶし、
ブレスも吐けますよ?」
「馬車……達……?」
辰夫が呟く。
「……辰夫さん。なんかここまで来ると、
逆に気持ち良くなってきました」
辰美は何かに目覚め始めていた。
*
しばらくすると、村長とおじさんが出てきた。
どうやらこのおじさんが領主といったところか。
「いやぁ! ここの温泉は最高だなー! 村長!」
「気に入っていただけたようで何よりです」
「我が領土にこんな素晴らしい温泉が出るとは!
私も鼻が高いよ!
売り上げの税金、期待してるぞ村長!
はっはっは!!」
領主はご機嫌のようだった。
「はは……」
そして、愛想笑いをする村長。
ここでエスト様が切り出した。
「あの。領主様。ご挨拶宜しいでしょうか」
私たちの姿を見た領主は驚き、仰け反った。
「な! なんだお前たちは!? モンスターか?」
領主がすかさず身構えたが、
村長がすかさずフォローに入った。
「お待ちください!……領主様!」
「こちらの方々は過去に我が村を救ってくださった、
リンドヴルム様と、そのご一行様となり、村の大切な客人です」
「さらにこの立派な温泉施設を作ってくれたのもこの方々です」
「……ふむ」
辰夫は少し得意気な顔をした。
そして、そんな辰夫を見た私はイラッとした。
「私の名前はエストと申します。
旅の途中でこちらの村に滞在させていただいております」
領主は鼻で笑った。
「ほう……これが噂の客人か。
だが所詮、温泉を利用して肥え太った余所者に過ぎん」
その視線は冷たく、周囲の村人ですら息を呑む。
エスト様が無意識に肩をすくめたのがわかった。
(……なるほど。これが”増税マン”の本性か)
「領主様、ご挨拶を──」
私は一歩前へ出た。
領主の視線が刺さる。
そのまま、にやりと笑って──
「私はサクラ♪
“領主”に“送る”この“ソウル”♪
“今日”は“領主”にもの“申す”♪」
私も負けじとラップで挨拶をした。
今日も押韻(ライミング)は絶好調だった。
「お姉ちゃん! 何も申さないから!」
「ちぇッ…」
エスト様に抑止されると、私はアヒル口をした。可愛い!
「と! とにかくだな!
いつ襲ってくるかも分からない……
お前たちモンスターの話なんぞ聞かん!」
「私たちはこの村にお世話になってから、
#探偵
橘靖竜
5,596
上野文
7,043
#聖女
桜井正宗@オートスキル1巻発売
7,272
フレミング
611
誰にも迷惑はかけておりません」
エスト様が反論した。
すかさず村長がフォローを入れてくれる。
「その通りです。
先程ご報告させていただいた温泉の工事から、
モンスター討伐・採集した素材の寄付と、
お世話になりっぱなしです」
(へぇ?この村長、なかなかの人物ね)
私は感心した。
そして領主が核心に触れた。
「そ、それで!
私に……い、いったい……な、何の用だ!?」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
私たち全員、固まった。
「…………しッ! 集合ッ!」
エスト様が皆に号令をかけた。
私たちは集まって小声で相談する。
「……え? あれ? 何の用だっけ?
威嚇?顔合わせ?侵略の下見?あれ?全部?」
慌てるエスト様。
「……誘拐では?
イラッとするし、いっそ埋めない?」
しれっと誘拐の提案をする私。
「……ふむ……」
「……ノリって怖い……」
だから嫌だったんだよって顔の辰夫と辰美。
そして4人でアヒル口をした。可愛い!
「ほ、本日は!
領主様にご挨拶をさせていただきたかっただけです!」
エスト様が慌てて取り繕った。
「そ、それならもう分かったから帰れ!」
領主は警戒していた。
「「「「はーい」」」」
私たちはトボトボと帰った。
アヒル口のまま。
◇◇◇
【ここからサクラ不在により、視点変更】
──その日の深夜。
突然! 外から叫び声が聞こえた。
「と、盗賊だー!」
「きゃー!」
カンカンカンカンカン!
叫び声に少し遅れて警鐘が鳴った。
「盗賊!?」
エストは悲鳴に驚き飛び起きると、
辰夫と辰美に指示を出した。
「辰夫! 辰美!
盗賊が村を襲ってるみたいなの!
村人達を助けて来て!」
「承知」
「はい!」
「……あれ? お姉ちゃん?」
「……サクラ殿?……居ないですね?」
「この騒ぎ……サクラさんの仕業だったりして……」
「ま、まままままさかー!
いくらお姉ちゃんでも……」
エストは否定しつつも、心のどこかであり得ると慌てた。
すると、同時に外から不気味な声が聞こえた。
「あーっはっはっは!! 逃げろッ! 逃げろーー!
そうだぁー逃げまどえーー!
この私から逃げられるものならなぁーー!!!」
沈黙。
「ぎゃー!」
サクラの笑い声と誰かの悲鳴が響いた。
「お姉ちゃんだ……あの人……何やってんの……」
その場にへたり込むエスト。
「サクラ殿……ま、まさか!?
いや、サクラ殿だしな……」
納得してしまう辰夫。
「やっぱりあの人ぶっ飛んでる!カッコいい…」
辰美の様子がおかしい!
◇◇◇
【サクラ視点に変更】
3人が慌てて外に飛び出してきた。
……すると!
盗賊団を縛り付けている美しい鬼の姿が目に入った。
「あら? 3人とも遅かったわね。
盗賊団なら全員捕まえたわよ」
私は振り返りながら言った。
「良かったー!
てっきりお姉ちゃんが盗賊団を率いてさ?
村を襲ってるのかと思ったよー!」
エスト様が腰を抜かして座り込んだ。
「うんうん!」
その後ろで辰夫と辰美が高速で首を縦に振っていた。
「そんなわけないでしょ!
小娘ッ! トカゲ共! 後で覚えてろよッ!
むきー!!!!!」
私は地団駄を踏んだ。
*
「ふん。まぁいいわ」
私は気を取り直して、説明をした。
「どうやら盗賊団の狙いは、
そこで縛られて誘拐されかけてた領主だったみたいね」
私は情けない姿の領主に目を移すと、領主が言った。
「な、縄をほどいてくれ……」
すると、盗賊団が言った。
「クソッ! 俺たちは……
そこの領主のせいで苦しんだんだ……」
「税が払えないと家畜や畑を全部持っていきやがった。
そのせいで冬を越せなかった仲間もいる…」
別の盗賊が苦い顔をして続けた。
「俺の家も畑を取られて、村を出るしかなかった…」
「……ふーん……なるほどね」
私は領主に近寄り、領主のアゴに手を伸ばした。
「な! なんだ!……酒クサッ!!!」
領主は怯えながらも虚勢を張った。
そして……私はその手をゆっくりとアゴから頬まで伝わせる。
「……ふふ……領主様?
私はね……権力者が私服を肥やすというのが大嫌いなの。
だからね?これからは善政を心掛けると約束しなさい」
「ひぃ……」
次に頬から首に手を伝わせる。
「それから……この村を発展させる為に全力を尽くしなさい。
技術者や農家、労働者を移住させなさい。
ふふ……お前はさっき盗賊団を捕まえる私の強さを見たわよねぇ……?」
「さらにね? こんな奴らも従えてるのよ?
辰夫ッ! 辰美ッ! へんしーん!」
私は声を張り上げ、辰夫と辰美を見つめる。
そして、首をクイッと上げて指示を与えた。
「ふむ。なるほど」
「はははっ!」
ずももももも……
辰夫と辰美はドラゴンの姿に戻り、領主を睨みつけた。
「ひ! ひいいぃっ!」
「私はこの二体の主。
そして……何よりも美しく強い。
こんな私を敵に回す覚悟があるなら……」
刀を抜き、ゆっくりと領主の首元に向ける。
……刀の刃が月明かりに反射し、
領主の喉元でぴたりと止まる。
その瞬間、領主の目がこちらを見た。
怯えて、縋って、何も言えない目。
──あの目に、似ていた。
昔、土間で、漬物石の下から助け出された時の、
おじいちゃんの目に。
『漬物石をどかしたら、
下にいたのはおじいちゃんだったのよ。忘れてた』
……おばあちゃん、それどういう状況……?
でも、そうね。
権力で押し潰されたものは、忘れられる。
声も、名前も、息づかいも。
私は一瞬だけツッコミを入れたあと、
すぐに表情を戻した。
「……で、どうする?」
その瞬間、領主の顔色が見る見る青ざめていく。
領主は震えながら私を見つめた。
「……わ、わかりました!
な、何でも言うことを聞きます!」
「あら? 何でも?」
「は! はい!」
領主の耳元に顔を近づけ囁く。
「じゃあ……お前の領土を……全部……ちょうだい?」
「そ、それは……」
領主から手を離し仰け反り笑った。
「あっはっは! 冗談よ!
お前が善政を尽くすなら何もしないわよ!」
そして、もう一度ゆっくり領主に近づくと耳元で囁く。
「……今は……ね……? クスクス……」
「ひぃっ!」
これで領主を完全に掌握したと言って良いだろう。
…
さて、次だ。
私はキッと盗賊団を睨み付ける。
「それから盗賊団のお前達!」
「「は! はい!」」
「お前達はこれから、私の配下となり働いてもらう。
“この村は私のもの”なの。
村人に少しでも危害を加えたら?
言わなくても分かるわよね?」
「「は、はい!」」
盗賊団が良い返事をしたと同時に、
村長のくしゃみが聞こえた気がするけど知らん。
この村は私のものだ。
「ああ、断っても良いのよ。断れるものならね」
辰夫と辰美にめくばせをすると、
辰夫と辰美が盗賊団を睨み付けた。
「「わ、わかりました」」
──こうして元盗賊団の人間の配下20人が増え、
村の発展のために人材が送り込まれてくる事になった。
*
「お姉ちゃん! カッコよかったよー」
「うむ」
「サクラさん大好きです!」
辰美の様子がやはりおかしい。
「いえいえ、遅くまで酒場で飲んでたらさ?
たまたま盗賊団が領主を誘拐してて、ラッキーって♪
あッ! そうだ! 辰夫ッ……はいッ♪」
そう言うと、私はスキップで辰夫に近づき、
居酒屋の請求書を渡した。
ドンッ!
「ば、バイト代が……」
請求書を見た辰夫は泣き崩れた。
──そして。
遠巻きにこちらを見ていた領主と目が合った。
(あの領主……
へぇ、あんなに震えてたくせに……
まだ何か考えてる顔ね?
……ふふ、やるならやってみなさいよ。
漬物石になる覚悟があるならね?)
(つづく)
◇◇◇
──【今週のおばあちゃん語録】──
『漬物石をどかしたら、
下にいたのはおじいちゃんだったのよ。忘れてた。』
解説:
重圧(プレッシャー)は人を強くする。
物理的な重圧(漬物石)もまた、人を強くする。
そして権力は、潰した相手を忘れる。
……生きててよかったね、おじいちゃん。