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温泉には馬車が止まっていた。 どうやら領主はすでに温泉を満喫しているようだ。
「うわぁ!豪華な馬車だなーいいな!いいな!」
エスト様が目を輝かせながら言った。
「え? そうですか?
こんな馬車よりも、こっちの馬車達は飛ぶし、
ブレスも吐けますよ?」
「馬車……達……?」
辰夫が呟く。
「……辰夫さん。なんかここまで来ると、
逆に気持ち良くなってきました」
辰美は何かに目覚め始めていた。
*
しばらくすると、村長とおじさんが出てきた。
どうやらこのおじさんが領主といったところか。
「いやぁ! ここの温泉は最高だなー! 村長!」
「気に入っていただけたようで何よりです」
「我が領土にこんな素晴らしい温泉が出るとは!
私も鼻が高いよ!
売り上げの税金、期待してるぞ村長!
はっはっは!!」
領主はご機嫌のようだった。
「はは……」
そして、愛想笑いをする村長。
ここでエスト様が切り出した。
「あの。領主様。ご挨拶宜しいでしょうか」
私たちの姿を見た領主は驚き、仰け反った。
「な! なんだお前たちは!? モンスターか?」
領主がすかさず身構えたが、
村長がすかさずフォローに入った。
「お待ちください!……領主様!」
「こちらの方々は過去に我が村を救ってくださった、
リンドヴルム様と、そのご一行様となり、村の大切な客人です」
「さらにこの立派な温泉施設を作ってくれたのもこの方々です」
「……ふむ」
辰夫は少し得意気な顔をした。
そして、そんな辰夫を見た私はイラッとした。
「私の名前はエストと申します。
旅の途中でこちらの村に滞在させていただいております」
領主は鼻で笑った。
「ほう……これが噂の客人か。
だが所詮、温泉を利用して肥え太った余所者に過ぎん」
その視線は冷たく、周囲の村人ですら息を呑む。
エスト様が無意識に肩をすくめたのがわかった。
(……なるほど。これが”増税マン”の本性か)
「領主様、ご挨拶を──」
私は一歩前へ出た。
領主の視線が刺さる。
そのまま、にやりと笑って──
「私はサクラ♪
“領主”に“送る”この“ソウル”♪
“今日”は“領主”にもの“申す”♪」
私も負けじとラップで挨拶をした。
今日も押韻(ライミング)は絶好調だった。
「お姉ちゃん! 何も申さないから!」
「ちぇッ…」
エスト様に抑止されると、私はアヒル口をした。可愛い!
「と! とにかくだな!
いつ襲ってくるかも分からない……
お前たちモンスターの話なんぞ聞かん!」
「私たちはこの村にお世話になってから、
誰にも迷惑はかけておりません」
エスト様が反論した。
すかさず村長がフォローを入れてくれる。
「その通りです。
先程ご報告させていただいた温泉の工事から、
モンスター討伐・採集した素材の寄付と、
お世話になりっぱなしです」
(へぇ?この村長、なかなかの人物ね)
私は感心した。
そして領主が核心に触れた。
「そ、それで!
私に……い、いったい……な、何の用だ!?」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
私たち全員、固まった。
「…………しッ! 集合ッ!」
エスト様が皆に号令をかけた。
私たちは集まって小声で相談する。
「……え? あれ? 何の用だっけ?
威嚇?顔合わせ?侵略の下見?あれ?全部?」
慌てるエスト様。
「……誘拐では?
イラッとするし、いっそ埋めない?」
しれっと誘拐の提案をする私。
「……ふむ……」
「……ノリって怖い……」
だから嫌だったんだよって顔の辰夫と辰美。
そして4人でアヒル口をした。可愛い!
「ほ、本日は!
領主様にご挨拶をさせていただきたかっただけです!」
エスト様が慌てて取り繕った。
「そ、それならもう分かったから帰れ!」
領主は警戒していた。
「「「「はーい」」」」
私たちはトボトボと帰った。
アヒル口のまま。
◇◇◇
【ここからサクラ不在により、視点変更】
──その日の深夜。
突然! 外から叫び声が聞こえた。
「と、盗賊だー!」
「きゃー!」
カンカンカンカンカン!
叫び声に少し遅れて警鐘が鳴った。
「盗賊!?」
エストは悲鳴に驚き飛び起きると、
辰夫と辰美に指示を出した。
「辰夫! 辰美!
盗賊が村を襲ってるみたいなの!
村人達を助けて来て!」
「承知」
「はい!」
「……あれ? お姉ちゃん?」
「……サクラ殿?……居ないですね?」
「この騒ぎ……サクラさんの仕業だったりして……」
「ま、まままままさかー!
いくらお姉ちゃんでも……」
エストは否定しつつも、心のどこかであり得ると慌てた。
すると、同時に外から不気味な声が聞こえた。
「あーっはっはっは!! 逃げろッ! 逃げろーー!
そうだぁー逃げまどえーー!
この私から逃げられるものならなぁーー!!!」
沈黙。
「ぎゃー!」
サクラの笑い声と誰かの悲鳴が響いた。
「お姉ちゃんだ……あの人……何やってんの……」
その場にへたり込むエスト。
「サクラ殿……ま、まさか!?
いや、サクラ殿だしな……」
納得してしまう辰夫。
「やっぱりあの人ぶっ飛んでる!カッコいい…」
辰美の様子がおかしい!
◇◇◇
【サクラ視点に変更】
3人が慌てて外に飛び出してきた。
……すると!
盗賊団を縛り付けている美しい鬼の姿が目に入った。
「あら? 3人とも遅かったわね。
盗賊団なら全員捕まえたわよ」
私は振り返りながら言った。
「良かったー!
てっきりお姉ちゃんが盗賊団を率いてさ?
村を襲ってるのかと思ったよー!」
エスト様が腰を抜かして座り込んだ。
「うんうん!」
その後ろで辰夫と辰美が高速で首を縦に振っていた。
「そんなわけないでしょ!
小娘ッ! トカゲ共! 後で覚えてろよッ!
むきー!!!!!」
私は地団駄を踏んだ。
*
「ふん。まぁいいわ」
私は気を取り直して、説明をした。
「どうやら盗賊団の狙いは、
そこで縛られて誘拐されかけてた領主だったみたいね」
私は情けない姿の領主に目を移すと、領主が言った。
「な、縄をほどいてくれ……」
すると、盗賊団が言った。
「クソッ! 俺たちは……
そこの領主のせいで苦しんだんだ……」
「税が払えないと家畜や畑を全部持っていきやがった。
そのせいで冬を越せなかった仲間もいる…」
別の盗賊が苦い顔をして続けた。
「俺の家も畑を取られて、村を出るしかなかった…」
「……ふーん……なるほどね」
私は領主に近寄り、領主のアゴに手を伸ばした。
「な! なんだ!……酒クサッ!!!」
領主は怯えながらも虚勢を張った。
そして……私はその手をゆっくりとアゴから頬まで伝わせる。
「……ふふ……領主様?
私はね……権力者が私服を肥やすというのが大嫌いなの。
だからね?これからは善政を心掛けると約束しなさい」
「ひぃ……」
次に頬から首に手を伝わせる。
「それから……この村を発展させる為に全力を尽くしなさい。
技術者や農家、労働者を移住させなさい。
ふふ……お前はさっき盗賊団を捕まえる私の強さを見たわよねぇ……?」
「さらにね? こんな奴らも従えてるのよ?
辰夫ッ! 辰美ッ! へんしーん!」
私は声を張り上げ、辰夫と辰美を見つめる。
そして、首をクイッと上げて指示を与えた。
「ふむ。なるほど」
「はははっ!」
ずももももも……
辰夫と辰美はドラゴンの姿に戻り、領主を睨みつけた。
「ひ! ひいいぃっ!」
「私はこの二体の主。
そして……何よりも美しく強い。
こんな私を敵に回す覚悟があるなら……」
刀を抜き、ゆっくりと領主の首元に向ける。
……刀の刃が月明かりに反射し、
領主の喉元でぴたりと止まる。
その瞬間、領主の目がこちらを見た。
怯えて、縋って、何も言えない目。
──あの目に、似ていた。
昔、土間で、漬物石の下から助け出された時の、
おじいちゃんの目に。
『漬物石をどかしたら、
下にいたのはおじいちゃんだったのよ。忘れてた』
……おばあちゃん、それどういう状況……?
でも、そうね。
権力で押し潰されたものは、忘れられる。
声も、名前も、息づかいも。
私は一瞬だけツッコミを入れたあと、
すぐに表情を戻した。
「……で、どうする?」
その瞬間、領主の顔色が見る見る青ざめていく。
領主は震えながら私を見つめた。
「……わ、わかりました!
な、何でも言うことを聞きます!」
「あら? 何でも?」
「は! はい!」
領主の耳元に顔を近づけ囁く。
「じゃあ……お前の領土を……全部……ちょうだい?」
「そ、それは……」
領主から手を離し仰け反り笑った。
「あっはっは! 冗談よ!
お前が善政を尽くすなら何もしないわよ!」
そして、もう一度ゆっくり領主に近づくと耳元で囁く。
「……今は……ね……? クスクス……」
「ひぃっ!」
これで領主を完全に掌握したと言って良いだろう。
…
さて、次だ。
私はキッと盗賊団を睨み付ける。
「それから盗賊団のお前達!」
「「は! はい!」」
「お前達はこれから、私の配下となり働いてもらう。
“この村は私のもの”なの。
村人に少しでも危害を加えたら?
言わなくても分かるわよね?」
「「は、はい!」」
盗賊団が良い返事をしたと同時に、
村長のくしゃみが聞こえた気がするけど知らん。
この村は私のものだ。
「ああ、断っても良いのよ。断れるものならね」
辰夫と辰美にめくばせをすると、
辰夫と辰美が盗賊団を睨み付けた。
「「わ、わかりました」」
──こうして元盗賊団の人間の配下20人が増え、
村の発展のために人材が送り込まれてくる事になった。
*
「お姉ちゃん! カッコよかったよー」
「うむ」
「サクラさん大好きです!」
辰美の様子がやはりおかしい。
「いえいえ、遅くまで酒場で飲んでたらさ?
たまたま盗賊団が領主を誘拐してて、ラッキーって♪
あッ! そうだ! 辰夫ッ……はいッ♪」
そう言うと、私はスキップで辰夫に近づき、
居酒屋の請求書を渡した。
ドンッ!
「ば、バイト代が……」
請求書を見た辰夫は泣き崩れた。
──そして。
遠巻きにこちらを見ていた領主と目が合った。
(あの領主……
へぇ、あんなに震えてたくせに……
まだ何か考えてる顔ね?
……ふふ、やるならやってみなさいよ。
漬物石になる覚悟があるならね?)
(つづく)
◇◇◇
──【今週のおばあちゃん語録】──
『漬物石をどかしたら、
下にいたのはおじいちゃんだったのよ。忘れてた。』
解説:
重圧(プレッシャー)は人を強くする。
物理的な重圧(漬物石)もまた、人を強くする。
そして権力は、潰した相手を忘れる。
……生きててよかったね、おじいちゃん。