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『医療行為』として記憶を消し、いくら当事者達の間では『何も不都合な出来事など無かった』事にしようとも、約十年の間に三度も離婚し、一時的にではあれども元夫達全員が精神科の病棟へ入院していたという事実までは隠し切れない。身分の高い『侯爵令嬢』でありながら、貴族達の間では『地雷』扱いされている。こんな状態では次の結婚相手を探す事も困難だ。 そのため、スリエ自身は既に結婚へ興味を失っていた。しかし、北尾の血を繋ぐ者を望む両親の必死の願いを受け、結局は四度目の結婚相手を渋々探し始める事となった。
『何度結婚してもぉ、“夫”の子供なんか絶対に産まれないのになぁ』
そもそもスリエは、自分を愛していた歴代の『夫』達と一度も性行為をしていない。北尾家の正統な後継者となる子供が生まれるはずも無いのだが、そうとは知らぬ両親へその事実を打ち明ける気は、この先も更々無かった。まったく、とんだ親不孝者である。
——もっとも、どうでもいい赤の他人との子供を宿し、『夫の子よ』と言い張る真似だけは、する気はないようだ。その一点だけは、せめてもの救いと言えるのかもしれない。
四度目の結婚相手を探すにあたり、両親とスリエはまず生活に困窮している貴族や、積極的に結婚相手を探している家を調べ始めた。支度金の名目で多額の金を積むか、『侯爵』という地位を背景に婚姻を成立させようと考えたからだ。そうでもしなければ、新たな結婚相手は見付からない所まで来ている事を、北尾家の者達は全員理解していたのだろう。
その結果、白羽の矢が立ったのは、『男爵』位を持つ『剣』家の末息子、『叶糸』だった。
かなり優秀だった先代のおかげで生活に困窮している様子はまだ無い。しかし四人兄弟の中で唯一の養子であり、その立場ゆえか随分と厄介者扱いされている。その様な立場の者であれば、話は容易くまとまると踏んだのだ。
(今のご時世。貴族であっても恋愛結婚が随分増えたから、事情持ちじゃないと親同士の話し合いだけで婚姻を決めるのは難しいんだよね)
叶糸について調べてみると、北尾家の者達は彼がこの上なく優秀な人物である事をすぐに理解した。
(ちなみに、この件に『南風家は関わっていない』と明言出来る。南風家が引き抜こうとしている人材の情報は、求められても売らない決まりだからだそうだ)
幅広い分野の英才教育を受け、魔力量は膨大過ぎて測定不能。そのうえ全属性の魔術検定を高校在学中に取得済みという優秀な魔術師でもある。現在は国内トップクラスの魔術大学の薬学科へ在学しており、医療系の名家である北尾家にとっては、是非とも迎え入れたい逸材だった。
結婚話を持ち掛けると、剣家の当主からは随分と高額な支度金を吹っ掛けられた。しかし、それでも十分お釣りが来ると思える程の成績を、叶糸は今なお取り続けている。見目も体格も申し分なく、剣術にも通暁しており、『狼の獣人』である点も大きな魅力だ。
養育された家が男爵家である事、十歳も年下である事、そして平民の血筋に生まれたという欠点さえ容易く覆せる程の秀才であると判断し、北尾家の両親は『剣叶糸を娘の新たな婚約者に』と強く望んだ。
正式な婚約の申し入れを受けた叶糸の養父は、諸手を挙げて喜んだ。侯爵家である北尾家と縁を結べるうえ、莫大な支度金まで手に入る。そして叶糸を『入婿』として家から追い出す事も出来る。
しかも相手は貴族達の間で『地雷』とまで呼ばれる悪名高い女だ。過去三人の元夫達と同じ様に、叶糸もいずれ出戻って来るに違いない。
『その時は今まで通りに温かく迎え入れてやろう!』
そんな算段を胸に、剣家当主・惺流の高笑いはいつまでも止まらなかった。
一度目の失敗を教訓とし、穏便に家を出たい叶糸は、二度目の人生で婚約者だった『西條ソリア』の時と同じく、この婚約を素直に受け入れた。
『北尾スリエ』という女性の悪い噂は耳にしていたが、実際に親睦を深めるため会ってみると、その時の彼女は至って普通の女性にしか見えなかった。
(比較対象がソリアじゃ、全員そう見えそうな気がする)
精神科医という職に就いている割には話し方がどこか子供っぽく、二十九歳という年齢にしては随分と若い娘が好みそうな服装をしている。その点に少し違和感を覚えた程度だったようだ。
ソリアの時は何度訪問しても会う事すら出来なかった事を思えば、日時を決めればきちんと会ってくれるだけでも良識ある人物に思えた。
ただ、スリエは本業が医者だからか仕事が忙しく、叶糸と実際に顔を合わせたのは最初の数回だけ。それ以降は、もっぱらメールやSNSのDMでのやり取りが中心となった。それも最初のうちは、二、三日に一通程度だった。
しかし、それは次第に変わっていく。
『一時間置きに連絡が欲しいの。会えない時間の溝を埋めたい』
そう叶糸にねだるようになり、更には、『愛してるって言って。好きって毎日毎分毎秒言われたい♡』などと言うようにもなった。
時折、家へ荷物や手紙が送られてくる事もあったが、その中身はGPSの小型発信機だったり、スマートフォンへ入れる位置情報アプリの説明書だったりと、そんな物ばかりだった。
『婚約者が今何処で何をしているのか知りたいの。愛しているなら当然よね?』
——だが、叶糸はそんな要求を素直に受け入れる様な男ではない。
指定されたアプリと連携出来る様にGPSの小型発信機を改造したうえ、それ自体を自走可能な魔導具へ作り替え、常に適当な位置情報を送信し続ける事で、自分の正確な居場所だけは決して知られない様にしていたのだから、叶糸の方が一枚上手だった。
もっとも、向こうも向こうで浮気をしていない事さえ確認出来れば良かったのだろう。何ヶ月も位置情報が大学と家を往復するだけだったからか、早々に確認もしなくなった。
そのため、位置情報アプリやGPSを頼りに突然押し掛けて来て『来ちゃった♡』などと言われたり、『嘘のデータを送っていたのね⁉︎』と激怒されたりする様な騒動は、一度も起こらなかったそうだ。
コメント
2件
ああ、このお話……叶糸くん、また厄介な婚約者と当たっちゃいましたね。前回のソリアさんも凄まじかったけど、今度は「一時間おきに連絡が欲しい」「愛してるって毎秒言って」って……スリエさんの執着の仕方が既に不穏でぞわぞわします。でも、GPS発信機を改造して自分で魔導具にしちゃう叶糸くんのしたたかさに救われました。一枚も二枚も上手で笑う。この世界の面倒な婚約者シリーズ、毎回じっくり読まずにはいられない……次も楽しみにしてますね🌷
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#エッチなの書けないから
m k .(nrkr
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瑠璃マリコ
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