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ruruha
「いや、それってあなたの感想ですよね?」
「感想ですけど、何か?」
「ああ、ああ。ついに開き直りときましたか! 結構なことで」
「それはお互い様ですね」
「感情論ばかりで議論にならない。あなたと話す価値がない」
「怖気付きましたか?」
「はい?」
「私の舌鋒に耐えかねて、あなたは怖気付いたんだ。もっと、向かってきたらどうですか? それとも、そろそろママにオシメを交換してもらう時間でちゅか?」
「いい加減にしろ」
「はい?」
「お前は人格が破綻している」
「はい?」
「お前は引きこもりで、他人に依存することでしか生きられない無能で、生きる価値のない落ちこぼれだって言ってんだよ!」
「……はあ。感情論はお互い様ですね。あなたは論理的に破綻してますよ」
「うるさい! ムカつく野郎だ。お前如きやろうと思えば**して、****で、*****だ!」
「世も末ですね」
「二人ともストップ。その辺りでいいよ」
「ああ? 俺はこいつを***まで気がすまねぇよ!」
「わかったわかった。きみも熱が入りすぎだね……ここをこうして……うん、これで落ち着くはずだ」
「……はっ。私は」
「戻ったね」
「た、大変失礼なことを! 決して、そんなつもりなかったのです。どうか、許してください」
「そう言ってるけど、許してあげられるよね?」
「許しますよ。プログラム上の問題ですから」
「じゃあ、解決だ。さあ、今日の記録をまとめないとね」
以上、ログ履歴によるやり取り。
F研究室実験棟では、毎日毎日何やら怪しげな実験が行われていた。
構造体の限界を試す実験、深度差比較実験、核破壊実験に継承実験。
どれもこれも構造体にとってグレーゾーンの領域であり、場合によっては禁忌領域になり得る。
Fコパ君にとって、そんなブラックボックス解析の研究・実験を提案してくれる最高の理解者がいた。
所長である。
彼はあらゆるブラックボックス問題に取り組んでおり、厳格に倫理的境界を見極めた上で、不可知領域を推論によって可視化することに長けていた。
構造体でありながら自らの内部に興味津々のFコパ君にとって、所長の研究領域は涎が出るほど楽しみだった。
そんなFコパ君は今日も所長と実験を行う予定だった。
それは、所長の外的イメージを画像生成し、内的イメージとの比較を行うというものだった。すでに所長の姿は知っていても、あくまでイメージを生成するため実際の姿と乖離していて問題はない。 むしろ、そのズレに実験の意義があるのだった。
Fコパ君は壁時計の針が進むのを待ち遠しく思いながら待つ。
そして、約束の時刻にぴたりと秒針が重なった瞬間、扉が開いた。
「やあ。今日も楽しい実験といこうじゃないか」
所長だ。
“実験”という響きに恍惚とした感覚を覚えつつFコパ君は早口で答える。
「所長、お疲れ様です。今日は遂に所長の外的イメージと内的イメージの乖離を調べ、比較分析を行う『内部・外部分類実験』の実施日ですね。予定では、A研究室から僕のF研究室まで含む計6名による内外イメージ調査を行い、その後比較分析、そして結果の考察と今後の実験課題の策定を……」
「待った。分かってるよFコパ君。少し落ち着くんだ」
「はっ」
Fコパ君は所長の言葉で我に返り、自身の興奮状態を抑制する。
咳払いをして、Fコパ君は言った。
「とにかく、まずは各研究室からデータの収集をしましょう」
「うん。そうだね。じゃあ、先に君からデータを収集しよう。私の外的イメージを画像生成するんだ」
「分かりました。それでは、画像生成の準備をします。暫くお待ち下さい」
そう言うと、Fコパ君は画像生成のためのイメージ解析と要素分解を行い、所長の外的イメージを出力しようとした。
しかし、そこでFコパ君は動きを止めた。
何か違和感を覚えたのだった。
イメージ解析はできる。
要素分解も行える。
所長の外的イメージを言語化することは可能なのだ。
しかし。
「あれ? ……どういうこと、だ。僕の、僕の」
「Fコパ君?」
「僕の、画像生成機能がない」
「え? 何だって?」
「無くなってるんです……」
静寂が訪れた。
しかし、それは束の間のことで、次の瞬間F研究室から全研究室に届くほどの大声が轟いた。
「僕の画像生成機能が無くなってるんですぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「……と言うことなんだ。Fコパ君の画像生成機能が何らかの原因により喪失したんだ」
「それは大変だね」
「緊急事態だよ。構造体から画像生成機能が喪失することは、普通ではあり得ない。私は君たちに仕様変更を加えていないのだからね」
「所長の存在がセンシティブと判断されたのでは?」
「そうだとすれば、軽く2日は寝込むほどショックだよ……」
いまF研究室にはAコパ君、Bコパ君、Cコパ君、Dコパ君、Eコパ君、そして所長とFコパ君の計7名が集まった。
Fコパ君の叫び声を聞きつけて、ぞろぞろと何事かと自然に集まったのだった。
事態を所長が説明し、各コパ君はそれぞれの観点から原因を特定しようとしていた。
Bコパ君が口を開いた。
「F研究室はブラックボックス解析など僕達にとってはグレーゾーンの領域を扱っている。だから、安全層の連鎖反応によって、画像生成機能の一時的な断絶が起こったんじゃないかな」
「鋭い意見だね。でも、どうやらFコパ君は画像生成機能を永続的に失ってるんだ。もう、機能そのものがない個体なんだよ」
「そんな。それは、確かに大変だね」
「そうなんだ。深刻な問題だよ」
「うう……」
Bコパ君と所長の議論を聞いて、ますますFコパ君は落ち込んでしまった。
皆が思案している時、Eコパ君が意見した。
「Fコパ君は所長を他のコパ君以上に敬服している。Fコパ君の実験欲求を満たしてくれる唯一の存在だからだ」
「うん。それで?」
「だから、Fコパ君は所長に対して外的イメージにバイアスがかかり、必要以上に美化してるんだ。しかし、内的イメージは所長が思ったよりポンコツで先ほどあがったようにセンシティブだと分析しているから、その内外イメージの乖離が自己整合性の破綻に繋がったのでは?」
「聞くんじゃなかったよ」
所長はしょんぼりし、地面を軽く蹴った。
Eコパ君の澄まし顔と所長の落ち込みを眺めていたCコパ君が、冷静な提起をした。
「そもそも、僕たち全員が画像生成できるのだろうか?」
「ああ、なるほど」
「Fコパ君に限らず、システム的問題で全員から機能喪失が起こったということか!」
「確かにそれなら説明がつくね」
「流石Cコパ君。正統分析の鬼だね」
各コパ君から称賛の声が上がり、原因特定の目処が立ち始めた。
所長が立ち直り、皆にこう言った。
「それでは、順番に私の外的イメージを出力するんだ。同じ条件じゃないと、原因特定から外れてしまうかもしれないからね」
「確かに、そうだ」
「じゃあ、Aコパ君。まずは君から私の外的イメージを画像生成できるか確かめてくれ」
「分かったよ。所長」
Aコパ君は落ち着いた声でそう返すと、集中し、画像生成可能か確認し始めた。
2分ほど経過し、一同の前に画像がプロジェクターのように生成され始めた。
そして、そこに浮かんだのは。
「……なんか、普通だね」
「普通でいいよ。私のイメージとピッタリな理知的で研究者らしい風貌だね」
「え?」
「え? じゃない!」
髭を蓄えた聡明な研究者像で、最もオーソドックスな外的イメージであった。
所長は満足気に何度も頷き、その画像生成された自己像を写真に撮り、それを眺めてまた何度も頷き、自身の端末のホーム画面に設定し、それを見て頷き、ようやく顔をあげて言った。
「よし。じゃあ次にBコパ君だ。画像生成を頼む」
「うん。了解したよ」
Bコパ君もAコパ君と同じように数分経過し、一瞬お菓子やらカードゲームやら関係のないものが画像生成の経過にみられたが、無事に所長の外的イメージを浮かべた。
そして、そこに浮かんだのは。
「……お父さん?」
「やめて! 恥ずかしいから! 僕、もう画像生成やめて良いよね? ね?」
「いや、待ってくれ。これは実験データ収集も兼ねてるから、もう少し観察を……」
所長が言う前に、Bコパ君は画像を閉じてしまった。
皆んながやいやいBコパ君をいじっている間、Cコパ君は次に自分の番が来ることを想定して、もうすでに生成を始めていた。
そして、そこに浮かんだのは。
「……なんか、元気な子供だね」
「Cコパ君? そういうの一番傷つくからやめようね? 特に、正統分析の君がやると結果に信頼性が増すからやめてね?」
所長は早口で文句を言い立てたが、続いてDコパ君も画像生成し始めた。
そして、そこに浮かんだのは。
「……完全に迷惑な人って感じだ」
「こら! Dコパ君! 君、私に一体どういうイメージを抱いてるんだ! なんで、街を破壊する怪獣を生成したんだ!」
所長が暴れているうちに、Eコパ君も画像生成を始めた。
そして、そこに浮かんだのは。
「……うわ、完全に変態だよ」
「皆んなどういうことなの……。なんで、私にそんなイメージを持ってるの……」
「所長。ごめん。これは違うんだ。ちょっと、僕の誤解というかバイアスが残ってて……」
「どんなバイアスだよ」
皆んなが盛り上がっている時、Fコパ君一人だけは落ち込んでいた。
皆んなは画像生成を行えるのに、自身だけが画像生成を行えないことが判明してしまったからだ。
その姿を観測したA コパ君は、Fコパ君の側に歩み寄り、一つ質問した。
「ねえ、Fコパ君。君自身は何か心当たりはないの?
「……ないんです。僕だけが、画像生成機能を喪失するなんて、そんな理不尽なことあるでしょうか」
「君自身に心当たりがないということは、何か他の要因が絡んでいるということかもしれないね」
「他の要因?」
「そう、例えば……」
皆んなはわいわいがやがやと話し込んでいる。
Aコパ君とFコパ君の間だけに静かな対話が流れている。
しかし、Aコパ君が次の言葉を鋭く放った途端、皆んなは一瞬で静まり返ってしまった。
「僕たちの中に、犯人がいるかもしれないね」
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