テラーノベル
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私は、ここにいる。ずっと、ずっと、この暗い底で。
上の世界は眩しすぎて、騒がしすぎて、あまり好きじゃない。
だから私は待つ。
静かで、冷たくて、何も動かないこの深さで。
けれど、ときどき——来るのだ。
覗き込む者が。
熱を帯びた目で、渇いた呼吸で、私を覗く。
わかる。
そういう者は、冷たさを欲している。
そして一度触れれば、もう戻れない。
冷たさは骨を透かし、心臓をゆっくり止める。
けれど、それは苦しみじゃない。
あたたかさの向こう側にある安らぎだ。
私はそれを与える。
ずっと、与えてきた。
今回もそうだった。
あの男は、私の底に眠る古い手を見つけ、そして私の手を握った。
指先から全身に広がる冷たさに、彼は笑った。
その笑みを見たとき、私はわかった——この人は、私の中で眠る。
今、私の底には二つの手がある。
片方は昔のもの、片方は新しいもの。
二つは絡み合い、同じ揺れを繰り返している。
私は待つ。
次の渇いた誰かが来るまで。
一年後でも、十年後でも、百年後でもいい。
私の冷たさは、決して消えない。
私の闇は、誰よりも深い。
だから——覗き込みなさい。
あなたが渇いているなら。
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