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『僕の恋の病はステージ4に近いらしい』←この表現すこ過ぎる
「暑い…」
隣からそんな声が聞こえてくる。
もう季節は梅雨から夏に傾いていた。
時が進むのは早いなぁと思いつつ、
テスト結果の日を思い出す。
僕の点数は相変わらず平均点近くをとっていた。
が、畑葉さんはほとんどの教科で高得点をとっていた。
僕より悪いと思っていたのに…
そうガクリと肩を落としながら帰ったのを今でも鮮明に覚えている。
夏と言っても8月のような暑さの夏ではなく、
少しの風が吹いて涼しいが、
時たま風が止まるあの夏。
今は7月の始めで、
太陽はあまりギラギラとしていない。
夏と言ったら海やお祭りが浮かぶが、
そんなに暑くない日に行っても楽しくない。
から、
最近は畑葉さんとの遊びのネタも切れてきている。
「花火する?」
「花火?する!!」
「どこでする?」
僕がそんな提案の声を上げると、
元気が戻ったかのように畑葉さんも声を上げて興奮する。
「僕の家の前で」
「今日の夜しよっか」
元々、家族内の会話で『小寒い夏の日こそ手持ち花火だよね〜』だなんて話していたし。
それに、
母さん達も畑葉さんに会いたがってるし。
「あ、でも私、古佐くんの家の場所分かんないよ?」
「僕が向かいに行くからあの桜の木で待ってて」
「分かった!!」
自分から誘ったのはいいものの、
今からするのは『好きな人と一緒にする手持ち花火』
まぁ、家族も一緒だけど…
そんなことは置いといて、
案外外は真っ暗に近い。
スマホの光が無いと周りが見えないほどだ。
こんな中、
畑葉さん一人で待ってるって危なくないか?
そう思うと僕の足は無意識にいつもより早足で桜の木へと向かっていた。
そうして大きな桜の木がある丘に来たのはいいものの、畑葉さんの姿は無かった。
まさか…
ドタキャン?
それとも何かあったとか?
畑葉さんがドタキャンするとは思えないし、
やっぱり後者だろうか…
そう心配していると
「あ!!古佐くん!」
と畑葉さんの声が聞こえた。
キョロキョロと辺りを見回すも、
人影は一切ない。
『まさか…』と思いながら桜の木の上を照らすと
「待ってたよ〜!!」
とこちらに手を振る畑葉さんの姿があった。
「なんで木の上に…?」
慎重に木から降りてくる畑葉さんにそんなことを聞くと
「夜って危ないじゃん」
と正論を返される。
そりゃあそうだけども…
「桜の木が可哀想じゃん」
そう呟くように言うと
「違うよ?桜の木がいいって言ったから登って待ってたんだよ?」
と不思議な答えを返される。
『桜の木がいいって言った』?
畑葉さんが言うと冗談なのか冗談じゃないのか分からない。
「それより早く行こ!」
と僕の腕を引き、家の方向へ向かう。
なんで家の方向知ってるんだろう…
そう一瞬思ったが、
桜の木の上から見ていたならどちらの方向から来たなどの情報はある程度分かるか…
と1人で納得する。
「着いたよ」
僕がそう言ったと同時に
「あなたが凛ちゃん?!」
「よろしくね〜!!」
とハイテンションの母さんが飛んでくる。
そして僕の耳元でこんなことを呟く。
「あんた、案外可愛いんじゃないの!」
と。
声が案外大きかったから本人に聞こえてそう。
「よ、よろしくお願いします…!」
少し緊張しているような雰囲気が伝わってくる。
「普段、琉叶のことなんて呼んでるの?」
「古佐くん…ですかね」
「じゃあ私のことは古佐くんママって呼んで!!」
「あとあっちのおじさんは古佐くんパパね!」
そう言いながら母さんは遠くで手持ち花火の準備をしている父さんを指差す。
『おじさん』て…
そう声に出そうになったが、
慌てて飲み込み我慢する。
「おーい!準備出来たぞ〜!」
そう遠くから父さんが言い、
僕は花火を取りに行った。
畑葉さんは母さんに呼び止められて、
何か話しているようだった。
何話してんだろ…
会話の内容が気になったが、
気にしてないふりをして花火に火をつける。
「古佐くんのお父さんって嘘吐きなんだね」
母さんと父さんから少し離れた場所で一緒に花火をしてる際にそんなことを言われる。
「嘘吐き?」
「うん」
「だって___、__てるし」
今、わざと濁したような気がする。
何か聞かれたくないとか?
でも聞かれたくないなら言わなきゃいいのに。
そう思いながら
「嘘…っていうか父さんはよく冗談は言うけどね」
と流す。
内心めっちゃ気にはなっているが、
聞くに聞けない。
「冗談…」
「でも嘘でもあるよね?」
「まぁ…うん……」
『冗談』と『嘘』…
うーん…
心の中でも口でもそう唸りを零す。
「ねぇ、これ何?」
そう言って畑葉さんが指差したのは手持ち花火の袋のパッケージに描かれている線香花火の絵。
「線香花火だよ」
「線香…?」
そう言いながらハテナマークを浮かべる。
何となく畑葉さんが思い浮かべている『線香花火』が予想できる。
名前の通り『線香』のようなものを思い浮かべているなら中々にシュールだ。
気づくといつの間にか線香花火に火をつけている畑葉さんの姿が。
そして
「何これ!!綺麗!」
と子供のようにはしゃいでいた。
「火が落ちる前に願い事を言うと願いが叶うっていうジンクスがあるんだよ」
そう言いながら自分の線香花火にも火をつけ、
畑葉さんの隣へ行く。
「願い事?え〜!!どうしよう…」
そう言いながら眉間にしわを寄せながら悩んでいるところだが、
畑葉さんの線香花火の火は既に落ちていた。
『いつ気づくんだろう』
とか
『どんな反応するのかな』
とか
気になっていると、思わず口角が上がる。
「何笑ってんの?」
ふと、そんなことを言われ
「悩んでるところ悪いけど、もう遅いかも」
と言いながら火を亡くした線香花火を指差した。
「え?!あれ?!」
「いつ落ちたんだろう…」
「てか気づいてるんだったら早く言ってよ!!」
と、なぜか僕に八つ当たりが飛んで来る。
「ごめんごめん」
と笑いながら返すも、
予想通りの反応すぎて笑いが収まりそうになかった。
ちなみに僕の線香花火はまだ生きている。
長すぎる気が…
「もー!!もう1回しよ…」
そう言いながら畑葉さんは2本目の線香花火に火をつける。
と、線香花火はパチパチと小さい火花を散らしながら鳴き声を響かせる。
あれ?
線香花火の色に桃色ってあったっけ?
そう思いながら畑葉さんの線香花火を見た後、
手持ち花火の袋を見る。
が、線香花火の色はオレンジのみ。
そういえばさっきの線香花火も桃色だった気が…
僕のはオレンジだし…
何か違うとか?
結局、
線香花火が桃色だった謎は分からないまま畑葉さんとの時間は終わってしまった。
「凛ちゃん、こんな時間までごめんね?」
「案外私たちも楽しんじゃって…」
そう。
母さんと父さんも花火に夢中だった。
それで時間を忘れて、
星がキラキラ輝く時間まで楽しんでいた。
「大丈夫です!」
「親御さんに連絡した方がいい?」
そう母さんが言い、
『親居ないって言うのかな…』
と思っていると
「いえ、大丈夫です!!」
「古佐くんママと同じで心広いので!」
と言う。
『あ、嘘ついた』そう思っていると、
畑葉さんは唇に人差し指を当てた姿を僕に見せた。
しかも、僕にしか見えないような角度で。
その瞬間、僕の体温は一気に上がる。
どうやら僕の恋の病はステージ4に近いらしい。
じゃないとこうはならないはずだし。