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周囲の話振りから稲岡の一押しの女性は-渚美央-というらしい。
自分たちの卓で酒が進み楽しい会話で盛り上がっている中、先ほどから
そわそわしている稲岡が俺の腕を軽く叩いた。
「加納、アレ……」
そう言うと顎をしゃくらせ、奥のBOX席のほうを見ろと知らせてきた。
『……?!』
俺は何度も目を凝らしてそのホステスの顔をガン見した。
もっともっと、目を皿にして確認したかったのだが、生憎
その人物の顔は見えなくなってしまった。
「どうだ、見えた?」
「ああ、たぶん」
「いい感じだろ? あとで来てもらえそうならもっと間近で見れる」
「稲岡さんったら、随分ご執心なんですね。
そんなふうに思われてる渚さんが超羨ましい~」
本心からなのか、営業からなのか、よく分からない調子で俺たちに付いている
愛理というホステスが羨ましがって見せた。
「いやいやいや、俺は愛理のことも好きだよン」
「稲岡さん、あ・り・が・とう。ウッフン」
二人の遣り取りで笑いに包まれている中、もう一人の季々というホステスが
話を俺に振ってくる。
「加納さんも、渚ちゃん狙いかしら?」
「いやぁ~、友だちと被るのはちょっと……」
「あらっ、加納さんったら今どき珍しくいい人なんだ」
「何々? 加納がいい人ってどういうこと?」
愛理と話をしていたはずの稲岡が俺たちの会話に割り込んできた。
「加納さんも渚ちゃんのこと『いいなぁ~』って思うのに、稲岡さんのために
身を引くってことですわよ」
恐るべしっ、そんなふうに話を大きく捏造して、季々というホステスが
話をモリモリ盛って伝える。
「いやいや、そうでしょ―。初めに唾を付けたのは俺なんだから」
『唾って、どこにだよ……内心で俺は呆れた』