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#異世界転移
花月夜れん
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ユキ
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第六十二話 桜が咲く頃に
「待つ時間が長いほど、会える日はきっと特別になる。」
三月下旬。
卒業式が終わった学校は、少し静かになっていた。
校庭の桜は、
つぼみだった枝に淡いピンク色をのせ始めている。
風が吹くたびに、春の匂いが運ばれてきた。
湊はカメラを片手に、誰もいない校庭を歩く。
数週間前まで笑い声であふれていた場所。
今は静かな時間だけが流れている。
カシャッ。
咲き始めた桜を一枚。
満開ではない。
それでも、この「始まり」の景色を残したかった。
*
部室へ向かうと、陽菜が写真を眺めていた。
「神崎先輩。」
「もう春ですね。」
「うん。」
「季節が変わるのって、本当に早い。」
湊は壁に飾られた卒業写真を見つめる。
ついこの前まで一緒に笑っていた先輩たち。
でも、その写真を見るたび、
不思議と寂しさより温かさを感じる。
「写真ってすごいですね。」
陽菜がぽつりと言う。
「時間が止まるんじゃなくて、その瞬間に戻れる気がします。」
湊は静かにうなずいた。
「うん。だから俺は撮り続けたいんだと思う。」
*
その日の夕方。
スマートフォンが震えた。
画面には、紬からのメッセージ。
《神崎くん。》
《伝えたいことがあるの。》
少しだけ鼓動が速くなる。
《帰国日、決まったよ。》
湊は思わず画面を見つめた。
《四月三日。》
《やっと帰れる。》
その一文を読んだ瞬間、自然と笑みがこぼれる。
長かった一年。
会えなかった時間が、ようやく終わる。
《おかえり。》
そう打とうとして、少し手が止まる。
まだ帰ってきてはいない。
だから——
《待ってる。》
その一言だけを送った。
すぐに返信が届く。
《うん。》
《私も、早く会いたい。》
*
夜。
ビデオ通話をつなぐ。
「あと少しだね。」
紬が笑う。
「うん。」
「帰ってきたら、最初にどこ行く?」
湊は迷わず答えた。
「桜を撮りに行こう。」
「約束してたもんね。」
「一緒に撮る最初の一枚。」
紬は嬉しそうにうなずく。
「今年の桜は、きっと忘れられないね。」
画面越しの笑顔が、少しだけ近く感じた。
*
通話を終えたあと。
湊は机の引き出しを開ける。
そこには、クリスマスから
ずっと大切にしまっていた小さなプレゼント。
リボンも、包装紙も、そのまま。
「やっと渡せる。」
そうつぶやきながら、そっと箱を閉じた。
窓の外では、春風が桜の枝を優しく揺らしている。
会える日まで、あと少し。
その日を思うだけで、胸が温かくなった。
📷 Photo.062『春を待つ桜』
撮影日:3月24日
満開になる前の桜も、
未来を知っている。
待つ時間があるからこそ、
咲く日はこんなにも美しい。
コメント
1件
第62話、読み終えたよ! 「待つ時間が長いほど、会える日はきっと特別になる」って冒頭の一文からもう刺さったわ。湊が紬に「待ってる」って送ったときの手の止まり方、めっちゃ心情出てた。ビデオ通話で「桜を撮りに行こう」って自然に言える関係、いいなあ。そして最後のプレゼント…やっと渡せる日が来るんだなって思うと胸熱だった。春の匂いがする、優しい話だった🌸