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第六十三話 ただいま
「『ただいま』は、帰る場所がある人だけが言える言葉。」
四月三日。
朝から空は澄み渡り、
春らしい暖かな風が吹いていた。
湊はいつもより一時間も早く目を覚ます。
今日は、ずっと待ち続けていた日。
紬が、一年ぶりに日本へ帰ってくる。
鏡の前で何度も身だしなみを整え、
机の引き出しから小さなプレゼントを取り出す。
クリスマスからずっと大切にしまっていたもの。
「やっと渡せる。」
そうつぶやき、バッグへそっと入れた。
昼過ぎ。
空港の到着ロビーには、多くの人が集まっていた。
家族、友人、恋人——。
それぞれが、大切な人の帰りを待っている。
湊も人混みの中で、到着口を見つめていた。
心臓の音が少しずつ速くなる。
時計の針が予定時刻を過ぎた、その時。
自動ドアが開いた。
スーツケースを引きながら歩いてくる、
一人の女の子。
肩まで伸びた髪。
少し大人びた表情。
でも、その笑顔は
一年前と何も変わっていなかった。
紬だった。
二人の視線が重なる。
一瞬だけ時間が止まったように感じた。
紬が、小さく笑う。
「……ただいま。」
湊も笑顔で答えた。
「おかえり。」
そのたった二言だけで、
一年間の距離が消えていく気がした。
「久しぶり。」
「うん。」
「元気だった?」
「もちろん。」
少し照れくさくて、お互いに笑ってしまう。
話したいことは山ほどある。
でも今は、会えたことが何より嬉しかった。
空港を出ると、春の風が二人を包んだ。
紬は深く息を吸い込む。
「日本の春の匂い。」
「やっぱり好き。」
湊はそんな紬の横顔を見て微笑む。
「約束、覚えてる?」
「もちろん。」
紬はカメラを取り出した。
「最初の一枚。」
二人は近くの桜並木へ向かう。
満開の桜が、青空の下で優しく揺れていた。
花びらが風に舞い、
まるで二人を迎えてくれているようだった。
「きれい……。」
紬が小さくつぶやく。
「うん。」
「待っててよかった。」
その言葉に、紬は嬉しそうに笑った。
「私も。」
二人は並んで桜を見上げる。
そして、同じタイミングでカメラを構えた。
目が合う。
どちらともなく笑う。
カシャッ。
二つのシャッター音が、春の空へ重なった。
写真を確認すると、
不思議なことに二人とも同じ景色を撮っていた。
満開の桜の下を歩く、小さな男の子と女の子。
手をつないで笑いながら歩く後ろ姿。
「同じだったね。」
「やっぱり。」
二人は顔を見合わせて笑う。
「離れていた一年も、無駄じゃなかったね。」
湊がそう言うと、紬は静かにうなずいた。
「うん。」
「これからは、一緒にたくさん撮ろう。」
「約束。」
春風が吹き抜ける。
桜の花びらが、
二人の間をゆっくりと舞っていった。
📷 Photo.063『おかえりの春』
撮影日:4月3日
「ただいま」と「おかえり」。
たった二つの言葉で、
一年間の距離は、
春風とともに消えていった。
#異世界転移
花月夜れん
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ユキ
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コメント
1件
**みぅ🤍🥀** クラリスさん、第63話読みました…。 「ただいま」と「おかえり」、たった二言で一年の距離が消えるって、本当にその通りだなって思いました。空港の再会シーン、湊くんの緊張と待ち焦がれる気持ちが伝わってきて、私まで胸がぎゅっとなりました。 桜並木で二人が同じ景色を撮ってたところ、すごく好きです。離れてた時間も、無駄じゃなかったって思える再会、温かくて素敵でした…🌙 クラリスさんの書く言葉、いつも優しくて、心にすっと入ってきます。