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――オルビス神の生誕祭の2日目。
この日も引き続き、怪しげな信徒が地下の礼拝堂に集められていた。
アリアはあちこちの通気口に忍び込み、可能な限りの情報を集めていく。
ザインはアリアを待ちながら、要所要所を監視する役目を任されていた。
「……うーん。
多少、目がヤバイやつが多いような……」
行き交う信徒を見ていると、基本的には穏やかな目付きの人が多い。
大聖堂までわざわざ来るのだから、多少なりとも余裕のある人が多いのだろう。
しかし例の入口に向かう信徒は、どうにも目が血走っているというか……。
そんな信徒たちは、神職者に連れていかれる前に、何かの紙を見せている。
やはり、誰でも参加できる……というわけではないのだろう。
「……たまには、ヤンチャなことでもしてみるか」
ザインは入口に向かう信徒に近付いていく。
「すいません、道を教えて頂けますか?」
「あん? 俺はそれどころじゃないんだよ!」
「まぁまぁ、助けてくださいよ~」
「うるせぇッ!!」
信徒の拳はザインに軽く触れたが、ザインはわざと大きく吹き飛んだ。
「ふぎゃぁっ!? ひぇー、お助けぇ~」
「ったく、こんなめでたい日に何だってんだ。
――あれ? 俺の持っていた紙が無くなってる……?」
建物の屋根に上がったザインは、信徒が戸惑うさまを見てから、目立たないところに移動する。
奪ったばかりの紙を見てみると、この入口までの地図だけが書いてあった。
……書いてあるのは、それだけだった。
「おいおい……。情報の管理が徹底されてるなぁ……」
表面を見ても、裏面を見ても、特に怪しいところは無い。
透かしもなく、あぶり出しのような古典的な仕掛けも見当たらない。
紙質は普通で、印刷も特におかしいところは見つからない。
改めて建物の下を覗き込んでみると、先ほどの信徒は中に入れてもらえないようだった。
「……一応、念のため」
ザインは建物の上から地図を落とした。
地図はひらひらと宙を舞い、やがて信徒の足元に落ちる。
信徒は安心したようにそれを拾い、改めて入口に持っていくと……今度は無事に、入れたようだ。
「やっぱり、地下の礼拝堂への入場券……みたいなものなんだな」
ひとまずの成果を手に入れると、ザインは再び怪しそうなところを巡っていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
約束の時間になると、アリアとザインは建物の上の、目立たない場所で落ち合った。
「はぁ、通気口は汚いねぇ……」
「そりゃ、碌に掃除なんてしてないだろうからな。
……でも、そこまでは汚れていないから安心しろって」
「できるだけ汚れないように、気は付けていたからね。……それで、そっちは何かあった?」
ザインは地図のことを、アリアに伝えた。
それを聞くと、アリアは帽子の中から紙の束を取り出す。
「もしかして、これのこと?」
「そうそう、これこれ。……って、もしかして知ってた?」
「ううん。忍び込んだ部屋に、置いてあったから。
折り目がそれぞれ、違う感じに付いてるでしょ? これ、来た人から集めた地図じゃないかな」
「なるほど、そうみたいだな。
……って、持ってきちゃったの!?」
「証拠はたくさんあった方が良いでしょう?」
「うん、まぁ、そうなんだけど……。もしかして、他にも何か持ってきた?」
「えぇっと、あとは……昨日焚かれていたお香、くらいかな?
幻覚系の、怪しいやつ」
「さすがにそれは、持ってきたらダメだろう……。
……いや、むしろ良いのか……?」
アリアの行動に、ザインの考えはごちゃごちゃになってきた。
「それでさぁ、情報屋ってこういうお香……薬みたいなものだけど、詳しい?」
「有名なものなら、名前が分かればな。
……いや、袋にちゃんと書いてあるな。いろいろと混ざっているみたいだけど」
「あはは、親切だねぇ♪」
#シェアハウス
rindou
1,998
#あやかし
がくじゅつてき・あかげ
232
#下手くそ注意
「やってることは、全然親切じゃないんだけどな……。
……解毒薬は、少し調合する必要はありそうだけど、用意はできそうだ」
「ふむふむ。ちなみに、あらかじめ予防する方法はある?」
「基本的には対処療法だからな。
完璧ではないが、解毒薬をずっと飲み続けるとか……」
「力技だねぇ……」
「かといって、ずっと飲み続けるわけにもいかないからなぁ」
アリアは通気口から中を覗くことを考えていたが、それも難しそうだ。
「うーん。いっそ、忍び込んじゃう?」
「え? どうやって?」
「それは情報屋が調べてくれたでしょ? 地図を持っていけば良いんじゃないの?」
「まぁ、それはそうなんだけど……。
でも俺たち、顔はもう覚えられてるだろうからなぁ」
「確かに……。よし、ここは発想の転換で――
情報屋は、女装でもする?」
「お前はどうするんだよ! っていうか、やらねぇよ!!」
「……残念。他にアイディアはない?」
「つまるところ、通気口は危険なお香が来るからダメ……、ってことだよな?」
「うん、そうだね」
「通気口のところを、透明な板で塞いじゃう……とか」
ザインの発想に、アリアは意表を突かれた。
確かにそれなら、礼拝堂の換気はできないものの、自分たちに影響が出ることはないはずだ。
「うん、それ採用! それじゃそこの窓ガラスを切って――」
「おお……? 杖でなぞったところのガラスが、すっぱりと切れてる……。
これは一体、どうなってるんだ……」
「神様の意思ぃ~」
「いや、それは説明になってないだろ……」
アリアは手際よく、透明な長方形のガラス板を作り出した。
両手に持って、満足そうに眺める。
「確か、これくらいの大きさだったよね?
通気口の中は、また情報屋の上に乗っていくとして――」
「俺、次はアリアの後ろを付いていくわ」
「えー? それだと、いざというときに逃げられないじゃん?」
「俺の上にいても、いざというときは逃げられないぞ?」
……それも然り。
アリアは素直に納得するのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
通気口に潜り込み、地下の礼拝堂まで這って行く。
アリアは前回と同様、部屋を一望できる位置を確保した。
反面、ザインはアリアの後ろにいる……ので、前を見てもアリアのお尻と足しか見えない。
「……これはこれで、あたしが嫌、っていうか……」
「安心しろ。俺は真下の埃しか見てねぇから」
そう言われても、アリアはザインの姿を確認できない。
とりあえずローブの下は長いスカートだから、どう転んでも中までは見えないのだが……。
少し微妙な気分でいると、礼拝堂に居並ぶ信徒たちの前に、神職者の男性とメルヴィナが姿を現した。
……メルヴィナは、今日も顔色が悪い。しかしアリアは、飛び出すのをぐっと我慢する。
前回と同様、信徒たちは歓喜の声を上げた。
「本日はよくぞお集まり頂きました。私は責任者のバイロンと申します。
どうか我らの悲願を……本日、達成いたしましょうッ!!」
「「「うおおおぉーッ!!!!」」」
バイロンの言葉を、信徒たちは大きな声で迎えた。
そんな中、メルヴィナはふらつきながら、美しい光の紋様を描き出す。
今日も今日とて、どこか植物的なモチーフの……樹、のようなもの。
……しばらくすると、香の匂いがアリアたちの鼻をくすぐった。
「おっと、透明な板をはめないと……。っしょ、っと」
小さな隙間からは空気が少し漏れてくるが、解毒薬をちびちびと飲みながらやり過ごす。
さて、ここからの展開は初めて見ることになる。ここで一体、何をするのか――
「おーい……。今、どうなってる……?」
「信徒たちが、メルちゃんの光の紋様に向かって……拝んでる、のかなぁ?」
状況としてはその通りで、信徒たちはメルヴィナの前の光の樹に向かって、一心に祈っている。
光の樹自体に、魔力のようなものは感じられない。
ただ……あれは、何かを意味している。ただの象徴などではない。何かを促すような――
「……ウぐォ……? あアぁ……光が……見え――
グギャアァアアアーッ!!!!」
ひとりの信徒が、パァン……と弾けた。
それに続く形で、まるで連鎖をするように……他の信徒たちも弾けていく。
何かが見えた瞬間に、何かに至った瞬間に――
……ああなってしまう。おそらくあの紋様は、見てはいけないものだ。
床は大量の血で覆い尽くされ、メルヴィナは当然のように気を失った。
気が付けば、信徒たちは全員……骸になっていた。
「――……今回も失敗か。
せっかく用意した信徒を、また失ってしまった……」
バイロンはひとり呟き、肩を落としながら壁のスイッチを押した。
すると、一部の床が大きく開き、深い闇を覗かせた。
恐らくは、証拠隠滅のための、死体の廃棄場所――
――ズガァアンッ!!
突然、そんな音がした。
ザインの目の前からは、アリアの姿が忽然と消えている。
ザインは急いで、通気口を這って進んだ。
通気口の出口は、何かが爆発したように破壊されており、比較的スムーズに出ることができた。
そしてザインが見たものは――
一面に広がる血の海と……壇上でバイロンの胸倉を掴み上げる、アリアの姿だった。
「――ここで、何をしている?」
「お、お前どこから!? 確か、異端諮問局の――」
アリアはバイロンを、血の海に放り投げた。
こんな事態は想定していなかっただろう。バイロンは、溺れるように手足をもがく。
ザインは血の海をよけながら、とりあえず……香がこれ以上広がらないように、火を消した。
アリアはバイロンに近寄り、杖を出して頬を叩いた。
バイロンはそのまま、勢いをつけて血の海を転がっていく。
彼の頭からも、血が出ているだろう。しかし、他の血に紛れてよくは分からない。
「……ひ、ひいぃッ!?
わ、私に手を出すと、大司教様が放っておかんぞ……!?」
「そう。黒幕は、大司教殿なんだね?」
アリアはゆっくりと、バイロンの元へ歩いていく。
白いブーツも、徐々に赤く染まっていく。
アリアはバイロンのみぞおちに杖を叩き込み、通気口の下まで吹き飛ばした。
バイロンはそのまま、あっけなく気を失う。
「アリア……。何が起きているんだ……?」
「まだ分からない。
ただ、この男とメルちゃんは……ここから連れ出すよ」
アリアは通気口の中に戻り、メルヴィナを引き上げた。
ザインもバイロンを何とか引き上げてから、粗雑に外へと連れ出した。
礼拝堂の外には、バイロンの仲間がいたはずだ。
扉から普通に出られれば、こんな苦労はしなくて済んだのだが――
……ザインは通気口から出ると、外の空気をいっぱいに吸った。
ようやく、狂気の場所から解放されたのだ。
――……ただ、胸糞は悪い。
青空の下、暖かな日差しを浴びても――ザインには、そんな感想しか出てこなかった。