テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
無事にオーミヤの街に入った私たちはジルの家に着いた。
「さて、着きました。ここが私の家です。
とりあえずはここを拠点にしてください」
ジルがそう言うと、分厚い門を開けた。
その目に飛び込んで来たのは大豪邸!
「「「えぇっ!?」」」
「なにあれ? 水たまりの真ん中から水が飛び出てる!」
エスト様が興奮気味に叫ぶ。
「敷地だけで東京ドーム1個分はあるんじゃ…?」
私が呆然と呟く。
「これは凄いですな……」
辰夫が感心したように言った。
「ほぇー……」
辰美は口を開けたまま固まっている。
私たちはとても驚いた。
ジルが案内してくれた家は大豪邸だったのだ。
「ジル! あなたは貴族ってやつなの!?」
私が問うと、ジルは照れ臭そうに答えた。
「えぇ。まぁ、そうなります……ね」
「そ、そうなんだ……ふーん……」
このままジルと結婚すれば…大金持ちよ? 左団扇よ?
高級料理…3食昼寝付き…ッッ
でも私は“ボウズヒゲマッチョの人”しか愛せないッ!!
「──ダメだーーーッ!」
首をブンブン振って、私は煩悩ごと吹き飛ばした。
「はふぅ……危なかった……ふふ、ジルよ!
……そんな事では私の心は動かなくてよ!
この私も安く見られたものねッ!」
「え……? 私は何も……」
私がジルを睨みつけると、ジルは激しく動揺した。
「なんか凄い葛藤してた……」
エスト様が笑いながら言う。
「玉の輿とか考えてたのでは」
辰夫が冷静に分析する。
「強力なライバル出現だわ……」
辰美が呟いた。
ツッコミトリオは今日もちゃんと仕事をしている。
良い傾向だ。
「……ま、まぁ、とりあえず中に入りましょう」
ジルが仕切り直した。
*
屋敷の中に入ると、執事らしき人が出迎えた。
「お帰りなさいませ。ジル様」
「アルフレッド。ただいま戻りました。
この方々は私の大切なお客様です。
丁重にもてなしてください」
ジルが言うと、執事は私たちにお辞儀をした。
「畏まりました」
執事のアルフレッドは、とても柔らかな口調で話した。
「ジル様の執事のアルフレッドと申します。
皆様の身の回りのお世話をさせていただきます。
宜しくお願い致します」
「「「あ! はい! 宜しくお願いします」」」
私たちもつられてお辞儀をした。
フルネームが“アルフレッド・カツ・丼之介”とかだったら、
私は耐えられない。
*
これからの事は明日考えることにし、
旅の疲れを浴場で流すことにした。
浴場にはエスト様と辰美と入った。
「ふんふんふーん♪ 人は皆ー♪
悲しみをー♪ 抱いているのさー♪ お山が無いよー♪
ぺったん♪ ぺったん♪ ぺったんこー♪」
エスト様が歌いながら、チラッチラッと私を見る。
「おい、小娘ッ!今すぐその不快な歌をやめろッ!」
「さ、サクラさんとお風呂……は、鼻血が……」
辰美がチラッチラッと視線を送ってくる。
「辰美! お前の視線が気持ち悪いッ!」
ズガッ!! ズビシッ!!
「「ぎゃーす!?」」
エスト様と辰美が同時に悲鳴を上げた。
湯船の縁に、二人の頭が仲良くヒットし、湯船が赤く染まった。
小娘と辰美の血で。
今後、こいつらと一緒に入ることは無いだろう。
「掃除代は二人で払っておけよ!!」
私は湯船に浮くエスト様と辰美を見下ろし、
浴場をあとにした。
*
そして、ディナーの時間となった。
ジルが自慢気に料理の紹介をする。
「今日は珍しい”ダイヤシェル”という高級湖貝が手に入りまして。
硬すぎて調理に2本包丁を折りましたが、味は保証します」
「へぇ……海鮮料理かー!!
初めてだね!エスト様」
「うん!」
モグモグ
「美味しい!?」
モグモグ
私が海鮮料理に舌鼓を打っていると、突然!
天の声が脳内に響き渡った。
《サクラは スキル :【殻体】 を習得しました》
「ん……なんかスキル覚えた……けど……」
「お! 久しぶりだね!」
エスト様がわくわく顔。
「……嫌な予感しかしない……
とりあえず確認する……
ぁ! ステータスッ! オープンッヌ!」
「その掛け声も久しぶり」
目の前にステータスウインドウが展開される。
スキル欄に新たな文字列が浮かび上がる。
私は恐る恐る【殻体】の詳細を見てみた。
【殻体(シェルフォーム):自身の内部資源を活性化し、
超硬質の天然装甲を生成可能 ── ただし貝殻。
せいぜいカルシウムたくさんとっとけ】
「……………ッ!?」
なんだろう。
目から火花が出るってこういうことなんだなって、今わかった。
私は静かに目を閉じた。
そして、目を開く。
「か!? 貝殻!?………を作れる!?
カタカナ名だけはカッコいい!?」
「「「!?」」」
三人が同時に反応した。
「お姉ちゃんが貝殻作れるようになっちゃったwww」
エスト様が笑いを堪えきれない様子で言った。
「……くッ……ふッ……ぶははーッ!!」
辰夫が爆笑している。
「ごめんなさいサクラさん!これは笑う!あはは!!」
辰美も涙を流しながら笑っている。
「え? え?」
ジルだけが状況を理解できていない。
人の不幸を爆笑する3バカと、
何がなんだかわからないジル。
よし。コイツらは明日、貝殻で殴り続けると決めた。
それにしても……なんということだ。
またしても【究極生命体(アルティミット・シイング)】に近づいてしまったのだ。
この世で自分1人だけ特殊な生態系に分類されてしまった私は、
ただ静かに箸を置いた。
……もう、笑うしかないよね、って。
最終形態、巨大なシジミだったらどうしよう。
誰かのフォークがお皿を叩く音が響きわたる。
《天の声:なお、カルシウム不足だと発動しません》
「牛乳パック片手に戦場に!?
新しすぎだろ! スポンサーつくわ!」
みんなが私を見ている。
私は自分の手を見つめながら呆然としていた。
……貝……貝殻て……
いや、これは……お笑い要素……
いや、ギャグ……いや、私がギャグ……?
私、ネタキャラ……?
自分の存在が根底から揺らぐような感覚が私を襲った。
《天の声:注記:ずっとネタ属性です》
「うぅ……うわぁぁ……ジ、ジル……!
アンタ、盛ってくれたね!? 私にッ!」
次の瞬間、私は気づけば床に倒れ込んでいた。
「ええぇ!? いえ、私は何も!」
ジルが慌てて否定する。
「お姉ちゃん!?」
「サクラ殿!?」
「サクラさん!?」
三人が同時に叫んだ。
……そして思い出してしまった──
貝で思い出してしまった……
地球のOL時代にいつも観察していた総務の綾様を……。
*
【綾様観察日記 vol.715356】
午前11時。社員食堂にて。
綾様が、昼食の貝汁を啜っていた。
……その所作に異変があった。
普通の人は、食べ終わった貝殻を残す。
しかし綾様は、一枚一枚、並べた。
大きさ順に。左から右へ。
ぴったりと、直線で。
誰かが「几帳面ですね」と声をかけた。
綾様は静かに言った。
綾様「違うの。これは”殉職者の数”よ」
食堂の空気が止まった。
……その日、会議で部長が泣いた。
*
「なんでこんな時に綾様のこと思い出してんだ私……」
やがてこの記憶は過呼吸を誘い、
私の意識を遠くへと誘った。
バタン……キュー……
私は気絶した。
「えーッ?」
完全に八つ当たりで濡れ衣を着せられたジルは、
何がなんだかわからず立ち尽くしていた。
*
──その後。
目覚めた私は日本酒の【鬼ころし】を飲みながら泣いて寝た。
「チクセウ……チクセウ……
何なのよこの身体は……うっうっうっ……」
「いつもの飲んだくれモードだ」
エスト様が呆れた声で言う。
「朝までダメなやつですな……」
辰夫が溜め息をつく。
「サクラさん面白いなー」
辰美が楽しそうに笑っている。
「てやんでぃ、ばーろー……」
「もう寝た方が……」
エスト様が心配そうに言った。
「ふふ……私はね……
この世界のどこかで……
巨乳のサキュバスが風呂入ってることを……
想像するだけで……涙が止まらないの……」
「寝ろ」
エスト様が無表情ツッコミ。
「……私から良い出汁が出ると思うよ……Zzz」
私はごろりと横になり、そのまま眠りに落ちた。
「寝た」
エスト様が無表情で確認。
*
一方その頃、領主の館では。
領主は焦っていた。
討伐依頼をした王国騎士軍精鋭部隊と
音信不通になっていたからである。
「ううう……まさか……全滅……したのか?」
領主は震えながら呟いた。
「このままでは、あの鬼が……
また私の前に来る、来てしまう!!」
「あああ……どうすれば……
どうすればいいのだー!?」
領主が震えていると、
部屋の空気が”軋む”ような音を立てた。
何もない空間が、ねじれ、ひび割れる。
そして──
その裂け目から、“何か”が這い出てきた。
長い脚。艶めいたシルエット。
影から浮かび上がるのは、異様に整った女の輪郭だった。
……なのに、笑っていた。
人間には絶対できない、
“顔の中央から耳の端まで裂ける笑み”で。
「ふふ……遊びましょう。かわいい鬼さんと──」
「……ひッ……うわあー!
うわあああああああああああああ!」
領主が悲鳴を上げる。
「……鬼? ええ。会いに行くわ。」
謎の女は領主ではなく、壁の向こうを見て不気味に笑った。
──翌日。
館に領主の姿は無かった ──。
(つづく)