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こんにちは。サクラよ。
今日は──とんでもない発見をしたの。
ノーベル平和賞?
ノンノン。
これはもう、ノーベルボイン賞。
なにがって?
──あてくし、昨日から「貝殻」を具現化できるようになったのよ。
でね?
もちろんやることはひとつしかない。
胸に貼る。
重ねる。
盛る。
「私は令和の“ホタテの女神”よ!!」
《解説:バブル期に貝殻一枚で社会と戦った伝説の女神。たぶん。by 天の声》
女神はホタテ1枚で戦った。
でも私は違う。
ホタテを──何枚でも盛る。
2枚目。
3枚目。
……5枚目……。
理性がそっと囁いた。
……ねぇ、私?
虚しくないの?
今日、天気いいよ?
──その声を、私は聞かなかった。
なぜなら、ここで折れたらFの夢が砕けるから。
……その時、ふと気づいた。
重ねたホタテが、ほんの少しだけ胸を押し上げていた。
“谷”と呼ぶにはギリギリ言えるのかもしれない何かが、確かに──あった。
「……ッ完成。Fカップッ……完成しましたッ……!」
私の両手が天を仰ぐ。
同時に、ふわりと香ばしい磯の香りが漂った。
──貝殻パート、閉廷。
*
「あっはっはっはー!ボインボインよー!」
そんな過酷な試練を乗り越えた私は、
ジルの家の女子部屋の中をスキップしていた。
カチャカチャ……カチャカチャ……
私がスキップをする度に、
胸元の貝殻が重なり合う音が響き渡る。
カチャカチャ……カチャカチャ……
それは、私の業(カルマ)が立てる音のようでもあった。
「お姉ちゃん……」
「サクラさん……」
エスト様も辰美も呆れた声で言った。
二人は汚いものを見るような目で私を見ていた。
「やめろ!そんな目で見るな!」
私はうずくまり、耳を塞ぐ。
「「……虚しく……無いの……?」」
エスト様と辰美が口を揃えて、私の心を物理で潰しにきた。
カチャッ……
「それ以上言わないで!?
……だって……憎かった、羨ましかった!
止められなかったのよ!……Fへの衝動がッ!
……けて……助けて……おばあちゃん……」
カチャ…
私はそのまま、火サスの崖っぷちの犯人のように泣き崩れた。
── 完。貝殻パート、今度こそ閉廷。
*
── 私が床に伏せて自供していたところ、突然!
バンッ!とジルがドアを開けた!
「はぁはぁ……た、大変です!
街でモンスターが暴れてます!」
ジルは息を整えながら言った。
「なんですって!?小娘!辰美!行きますよ!」
カチャッ
私はすっくと立ち上がり、二人に指示を出した。
「辰夫!すぐに準備をして!」
カチャカチャッ
そして隣の部屋の辰夫に向かって叫んだ。
「「カチャカチャうるせー!それ取れ!」」
エスト様と辰美が同時に叫んだ。
「いやだ!」
私は断固拒否した。
これは装備ではない。
魂だ。取れるものか。
*
ジルの家を出ると、人々が逃げ惑っていた。
「こ!こっちだ!早く逃げろ!」
「きゃー!」
「うわぁー!?」
街の人々が叫びながら走ってくる。
私たちは、人々が逃げてくる方向へと急いだ。
カチャカチャカチャカチャ!
すると、モンスターが女の子に向かって拳を振り上げているのが目に入った。
「女の子が危ない!……くっ!間に合えッ!」
私は迷わず、近くにあった “手頃な辰夫” をモンスターに投げつけた!
「……辰夫ロケットーッ!」
ブンッ!!
「ちょッ!サクラ殿ーーーーー!?」
辰夫の悲鳴が遠ざかる。
「手頃だった」
私は辰夫を見送る。
ギューン!!ドガッ!!!!!
辰夫がモンスターに命中した。
モンスターはよろけ、体制を立て直そうとする。
「くッ!まだ立て直しそうね!」
私は咄嗟に、近くにあった “投げやすそうなエスト様” を掴み、構えた。
「これは投げやすそうね」
「ちょ!お姉ちゃん!?」
私の手の中でエスト様がバタバタと暴れる。
そして──
モンスターがよろけてるその隙に女の子は母親に保護された。
一安心だ。
「ふぅ。よかった」
私はエスト様をポイっと下ろした。
モンスターが標的をこちらに移したのが分かった。
“モンスター” と “辰夫” と “エスト様” が、同時に私を睨みつけている。
敵が多い。美しさは罪だ。
「ふふ。上等じゃない……ん……ってあれ…?」
私はモンスターに違和感を覚えた。
「ねね!あれ!……領主じゃない?」
「「「え?……ん……あ!ホントだ!」」」
三人が同時に反応した。
モンスターは領主だった。
その体躯は倍程に大きくなっており、
目が紅く、牙が生えていたが、
その顔は紛れもなく領主だった。
「……見つけたぞ……鬼の女……殺す、殺す殺す!」
モンスター領主は殺意を私に向けた。
「ッはは……私が怖くて、モンスターに……
なっちゃった……のかな……?
さすがの私も、ごめんなさいしないと──」
ガン!!!
モンスター領主が投げた瓦礫が、私の胸に直撃した。
「──かはッ……まだ喋ってるのに!?」
「お姉ちゃん!?」
「サクラ殿!?」
「サクラさん!?」
三人が悲鳴を上げる。
まともに食らえば、肋骨が砕ける一撃だ。
「……ぐっ……くそ……油断した……って……」
あれ?
「……あ……貝殻……痛くない……」
なんと!“ホタテの女神”が私をガードしてくれていた。
5枚重ねた厚みは伊達じゃなかった。
私は口に手を当て、
目をパチクリしながら ビックリ!のポーズを取っていた。
「あービックリした!
……とりあえず退治しますかね!小娘!
周囲にバリアを張って街に被害が出ないようにして!
私の街になるんだしね」
エスト様に指示を出す。
「あいよー!でも、お姉ちゃん?違うよ?
私の街になるんだよー?」
エスト様が嬉しそうに答える。
「ふふふ……こんな時のためにも考えてたの!
その名も──《絶対迎撃魔障壁ちゃんグレート!》!」
エスト様を中心に、強大なバリアが街の広場を覆った。
「ネーミングのクセが強い!!」
私が思わずツッコむ。
「おお……機能は完璧だな……」
辰夫が感心している。
「え、これ自作!?理論構築どうなってんの!?」
辰美が驚いた声を上げる。
「凄いでしょ!?グレートがポイントだよ!」
エスト様が得意げに言った。
「成長したじゃん?ポンコツのくせに?」
私が笑いながら言う。
「魔王っぽくなってきましたな…」
辰夫が頷く。
「ちょっとかっこいい……」
辰美が感心した様子で言った。
「えへへへ〜」
エスト様が嬉しくてクネクネしていた。
いいね。
この娘が嬉しそうだと、私も幸せな気持ちになる。
ざわ……ざわ……
「あのモンスターに立ち向かってる人も鬼……モンスターだよな?」
「ジル様も一緒にいるけど……仲間……なのか?」
「領主様がモンスターだったなんて……」
ざわざわ……
人々はバリアの向こうから、こちらの様子を見ている。
あとで色々と、ややこしいことになりそうだ。
「どうやら私に恨みがありそうだし、
ギャラリーも居るし?
辰夫と辰美がドラゴンの姿に戻ったら……
さらに人々を怯えさせることになるし、
私がやりますか……」
……ほんっと、しょうがないわね。
なんで毎回こうなるのよ。
“魔王軍”って看板、あるけどさ?
実質ボディガードじゃん、私。
……ふふ。でも、いいのよ。
小娘が笑ってるうちは、それでいい。
私がやるわよ。
誰のためでもなく、私のためにね。
私は仕切り直すように袖を捲りあげた。
「この私に不意打ちするなんてね……
テメーは絶対ぶっ潰す──」
そう言いながら、巨大な貝殻を生成し、投げつけた。
シュッ!!
「……ぐがっ!」
領主は飛んできた貝殻を振り払った。
その隙に、私は領主の背後に回り込んだ。
タタタタタッ!
カチャカチャカチャッ!
「あっはー!貝殻めっちゃ便利ー!」
そう言いながら、貝殻を生成し、拳を覆いナックルにした。
領主の後頭部に、右ストレートを放とうとする。
「喰らえ!PTAが激怒する……後頭部パァァァンチ!」
スカッ!
領主は私のパンチを避けると、すかさず反撃のパンチをしてきた!
ガン!!!
「ぐっ……ん!?痛くない……?」
またしても、“ホタテの女神”が私を助けてくれた。
「「「いや!貝殻スキルさ!それ当たりスキルだろ!」」」
エスト様たちのツッコミが気持ち良い。
「鬼の女……お前さえ居なければ……殺す殺す殺すーッ!」
領主の殺気がさらに膨らみ、再度パンチを繰り出す!
ガン!!!
「ぐっ……ゎーぉ……」
また“ホタテの女神”が(略)
「「「何枚付けてんだよ!領主も胸以外狙えよ!」」」
一同のイライラがピークに達していたので、
この天丼(お笑い用語)も、ここまでだなと私は思った。
「な、なんて締まらない戦いなの……」
エスト様が呆れ顔で言った。
「はっはっは!サクラ殿らしいな」
辰夫が笑いながら言う。
「こういうところが好きなんだよなー」
辰美がうっとりした表情で見ている。
「美しい……」
ジルが恍惚とした表情で呟いた。
「鬼の女…私はもう……終わりだ……
だが──最高の気分だ!
破壊こそが快感だ!ふははははは!」
領主が笑いながら叫ぶ。
私の肩が、ゆっくりと上下する。
カチャ、と小さな音がした。
息を整えて、ひとつ、吐き出す。
「……ねぇ、領主?」
声は自然と静かになった。
怒ってるわけでも、叫びたいわけでもない。
ただ、伝えたいだけだった。
今のこの──歪んだ私を。
「わたし、ちゃんと間違えられてるかな?
正しく狂えてるかな?
……あんたの”正しさ”で測ってみてよ。そしたら──」
私は口元を、ゆるやかに笑わせた。
「ぶっ壊してあげる。そのモノサシごとね」
ずっとこっちは壊されてきたんだ。
誰かの都合で、誰かの”正しさ”で、
勝手に決められて、黙って、飲み込んできた。
でもね──
今度は、私の番。
「だから今度は、こっちが壊す番なんよ。
この世界ごとね?お前なんかオ・マ・ケ」
……ふぅ。
「──さ、続きやろっか? モンスター領主さん?」
領主が拳を振り下ろす瞬間、私は真正面から拳をぶつけた。
ガキィィン!!
貝殻と領主の拳がぶつかり合い、衝撃波が走る。
地面に足がめり込む。
私は一歩も引かなかった。
「はッ!いくぞ!!」
……カチャッ
私の業が、乾いた音を立てた。
(つづく)
◇◇◇
──今週のサクラ語録──
「わたし、ちゃんと間違えられてるかな。正しく狂えてるかな」
解説:
正しく生きることに、もう疲れた。
誰かの”正しさ”を守っていたら、
いつのまにか自分の輪郭が、にじんで消えていた。
だからせめて、間違えるなら思いきり。
狂うなら、自分の意志で。
壊れる前に、自分で壊してしまえたなら──
それはきっと、“私”を守る唯一の反撃だったのだ。
……世界征服なんて、たぶんその延長線。
お腹すいた。