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皆様こんにちは。芽花林檎です。今回も続きに参りたいと思います。それでは、ご覧ください。
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その日、僕はいつもの通り授業を受けた。今朝、少女が言った言葉が気にかかってはいたが。非現実的な未来が押し寄せてくる感覚。未来視がだんだんと非現実味を帯びていたこと。同じ夢を共有していたこと。そして、少女の身体が少しぼやけて見えたこと。何が、起こっているのだろう。何が、起こるのだろう。僕は、少女の表情、声の真剣さから考えて、少女の言葉がたわごとのようには聞こえなかった。本当に、起こってしまうような気がした。
そんなことないよ。僕の頭の中で、ひとつの考えがはじけた。そんなこと、起こるわけないだろう。大体、この世界はこんなにも平穏なんだし。起こる確率は低いよ。
でも、少女が見る未来、はそう遠くない未来の、現実世界で起こりうること、なのだ。ということは、本当に現実にあれが起こるのか。
そんなことないよ。そんなわけない。でも、しかし、ただ………..頭の中で考えが交錯して交錯して、何が本当で何が虚偽なのかわからなくなってきた。
僕は、その考えを取り払って、必死に授業に集中しようとした。最も、全く頭の中に内容は流れ込んでこなかったが。
僕は、お昼時、また昨日と同じく、少女と屋上でお昼ご飯を食べた。しばらく話しているうちに、少女の肩が震え、何も話さなくなった。僕は、大丈夫?と声をかけたが、少女は、見たこともないような、恐怖が入り混じった顔で、ずっとその一点を見つめていた。僕は、怖くなった。少女の肩を揺らしても、なにも反応がなかったのだ。
「大丈夫、ねぇ、大丈夫?」僕はしきりに声をかけ続けた。
しばらくすると、少女の意識が戻ってきた。すると、少女はこう言った。
「怖い……..」
「えっ…….」僕は固まった。怖い、というのはどういうことだ………?
「視える、見えるんだよ、未来が。未来、が。あのね、今ね、血のような赤い光が目の前によぎってね、そしたら一瞬で目の前が真っ白になったの。そしたら映像が切れてね、でね、あれ、何を言っているんだっけ、私。」
少女は、顔面蒼白で、肩が小刻みに震えていた。
_未来、で赤い光がよぎるの?どういうことだろう。でも、詳細を聞き出す気にはなれなかった。
少女が、心底怯えている様子だったからだ。今すぐにでもそれが起こるかのように。
ふと、変な音を聞いた。
あ、昨日と同じ音だ。
僕らにしか聞こえていないのだろうか。
パキ、パキ、パキ。
校舎に、罅が入る。
硝子、が、割れる音。
その日、僕は授業に集中できなかった。先生に、「今日どうしたの。体調でも悪いの?ずっとぼーっとしていたけれど。」と言われてしまった。僕は、大丈夫です、と短く答えておいたが、僕の頭の中は授業どころではなかった。おかしい。明らかにおかしい。どう考えても。なんだ、どうなっているんだ。何が起こっているんだ。
少しずつ、少しずつ、何かが壊れていく。
少しずつ、少しずつ、何かが零れ落ちていく。
なんだろう、そんな感覚にずっと浸されていた。
週末、僕は家に籠っていた。何もやる気が起きなかったのだ。ただ、視界が揺らめくのを感じていた。
週明け、僕は教室に入った。すると、驚いた。あれ、少女の身体が、透けている?確かに、服を身にまとっている。でも、顔のあたりが、ぼんやりと薄く透けているように見えた。太陽の光が当たると、彼女の身体が半透明に見える気がする。少女は、僕が来たことに気が付くと、何も言わずに僕の制服の裾を引っ張り、校舎裏へと連れて行った。
「どうしたの…….? 」心臓が早鐘を打っていた。
すると、少女は何も言わずに……..自分の身にまとっているものを剥いだ。上も、下も、すべて。
「ちょっと……何しているの…….? 」僕は困惑した。ここ、学校だよね……?僕たち学生だよね…….?僕は慌てて目を手で覆った。すると、少女は、
「見て。」と短く言った。
「どういうこと?」と僕は聞いた。見ろって…….その生身の身体を?何が目的で……?と思ったが、少女は少しだけ語気を強めて、
「見て。」といった。僕は、おもむろに目を開けた。
目の前にあったのは、女性の身体だった。綺麗だった。自分とは構造が違う、身体。
丸みを帯びた全体に、胸のふくらみ。そして先端につく淡いピンク色のもの。
すらりとした細い腕と太もも。おなかの下にある、茂みと、その下に覗くもの。
熱い血がほとばしる。頭の中の思考がとかされていく。理性が壊れていく。彼女を、押し倒したいという欲望が、冷静さを消し去った。今にも手を出してしまいそうだった。何かで読んだことがあるし、興味がなかったわけでもないので、多少は知っていたが、こんなにも綺麗に見えることは知らなかった。
でも、それよりも驚いたのは………
彼女の姿が、透けていることだった。
本当に、半透明になっているのだ。太陽の光が当たると、薄いフィルムのように光が透いて見える。
背景の、年季の入った、少しひび割れた校舎の壁が見えた。
意味が分からなかった。どういうことだ。
「ごめんね、驚かしてしまったよね。でもね、見てほしかったの。あ、いや、別に、裸を見てほしかったわけじゃないの。体が透けているって、いうのを見てほしかったの。たぶん、口で伝えても分からないと思うから。」
少女はどこか寂しげにそう言った。僕は目の前の少女の身体にくぎ付けになっていたが、僕はこう言った。
「透けているの?どうして?」そもそも、人間が透けるなんてあり得るのだろうか。
「私にもわからない。でも、最近、自分の姿が薄くなっているんだよね。さ、授業に行きましょ。こんなとこ見られたら私たち叱責されるだけじゃすまないわよ。たとえそれが目的でなくてもね。女の子が男の子に裸見せているなんてとんでもないでしょ。さ、行きましょ。」
女性の身体を見たことよりも、彼女の身体が透けていることの衝撃のほうが大きかった。あまりの突然の出来事に、僕は抜け殻のようにぼーっとしていた。頭が追い付いてくれなかった。情報を処理しきれなかった。彼女に手を引かれて、授業に向かった。その日の授業の内容は、ほとんど覚えていない。
翌朝、僕は教室に入った。すると、少女の姿がなかった。いや、正確には……..そこにいるはずなのに、姿が見えなかった。席のあたりの空気がわずかに揺れている。光が歪んで、輪郭だけがぼんやりと浮かぶ。
「来てたんだ。」
声をかけると、空気の揺らぎがゆっくりと形を取り始めた。少女は笑った。でも、その笑顔は透けて、背面の黒板が見えていた。すると、少女は、かすれる声で言った。
「あのね、今日、ひとつだけ未来が見えたの。」
どういうことだ?
「最期、の未来。」
「最、期、?」僕はその言葉で思考が停止した。
少女は、こんなことを言った。
「たぶん、もう、私、消えちゃうかもしれない。だから、もうこれ以上は見えないかも。未来が。」
少女の手が震えていた。少女が、僕の手を取ろうとする。でも、指先がすり抜けた。霧に触れたみたいだった。僕は、
「嫌だよ……そんなの………」といった。でも、少女は、こんなことを言った。
「しょうがないよ。」
何で、しょうがなくないよ。こんなこと起こらないよ、普通。おかしいよ。僕は必死に言ったが、少女はこう言った。
「そうだね。でも、しょうがないと思うよ。だって、ここは…………..」
僕は、その言葉を信じたくはなかった。
僕の、考えが、当たっていた気がした。
嘘だと思い込んできたのに。
でも、少女に突き付けられた気がした_____「現実」を。
その日の授業の内容は頭にない。もう、忘れてもいい気がした。
その夜、僕は、また、夢、を、見た。
灰色、の空。
しきりに降り続ける、雪。
焼き焦げた、町。
人骨。
腐敗臭。
鮮血の色に染まった、炎。
灰へと化した、木々。
風が吹くたび、灰、が舞い上がる。
視界が、白くなる。
その、中、に、少女、がいた。
漆黒の髪を持ち、桃色のピンを付ける少女。
だけれど、その顔、は見れなかった。
「いかないで。」
手、を伸ばした瞬間、少女の、輪郭が崩れた。
砂のように、風に溶けた。
僕は、叫んだ。
声、は、灰に吸い込まれ、空へ消えた。
翌朝、教室に入ると、少女の姿はほとんど見えなかった。光の粒が集まって、かろうじて人の形を作っているだけ。
少女の声は、風の音みたいにかすれていた。
「ねぇ、最期の未来言ってもいい?」
僕は答えなかった。少女は、それでも続けた。消え入りそうな声だった。
「現実、に戻るよ。そしてね、最期、になる。」
言葉の意味が理解できなかった。でも、静かにほほ笑んだ。
あ、この笑顔見たことがある。
彼女の身体は透けていて顔もはっきりと認識できなかったけれど、今にも消えそうだったけれど、確かに笑顔を見た気がした。
_出会った時に見た、やさしい笑顔。
「ありがとう。貴方と一緒に過ごせて、良かったな。」
彼女は短くそう言った。僕は、彼女に手を伸ばした。でも、何もつかめなかった。空気しか残っていなかった。彼女は、かろうじて光の粒が身体の形を成しているに過ぎなかった。目頭が熱くなった。頬が濡れる。前から抱いていた、心の奥底にある感情が、言葉になっていく。形を成していく。今なら伝えられる気がする。行かないで。もう少しだけ、行かないでよ…….
心の叫びが漏れたのだろうか。彼女も、切なげに、雫を目からこぼしながら笑って、こう言った。
「大好き。」
次の瞬間、僕が声を発する間を与えずに、少女の姿がふっと空に溶けた。
_____最初からそこにいなかったみたいに。
2026/03/17 芽花林檎
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