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皆様こんにちは。芽花林檎です。それでは、続きをご覧ください。
その日の放課後。空っぽになってしまった、抜け殻のようになってしまった僕は、なんとなく校舎を歩いていた。理由はない。理由はないのだけれど。
いつもより、校舎は静寂に包まれていた。廊下を歩くたびに、足音が焼けに響く。教室の扉を開けると、だれもいないはずなのに、空気がざわついた。
教室に入った瞬間、視界が揺らめいた。ぐらりとする。激しいめまいに襲われた。グラグラとする。熱い血が、全身を駆け巡る。心臓が早鐘を打っている。今にも倒れそうだ。手足が震える。感覚が薄れていく。身体が言うことを聞かない。窓の外を見た。その空は、夕焼けではなく、灰色に染まっていた。
「果暖!!、果暖!!!!!!!………」
僕は、必死の少女の名前を叫んだ。
返事はなかった。
窓にもたれかかる。
グラウンドの景色と、夢の景色が重なった。
教室の床が、低く震えた。
壁に走った罅が、一気に広がる。
あの、硝子、が割れる微細な音。
天井の蛍光灯が明滅し、光がノイズのように揺らぐ。
積んであった机が、音もなく崩れ落ちた。
世界が、壊れていく。
外を見た。
遠くに、不気味に燃え上がる、鮮血の色に染まった炎が見える。
人影はない。
あたり一面が荒野へと化す。
視界が揺らぐ。
地面が大きく揺れた。
全て、が壊れていく。
この世界、が壊れていく。
激し頭痛がする。
金づちで殴られたかのような頭痛。
身体が張り裂けそうなくらいに痛んだ。
身体が燃えるように熱い。
僕の知っている日常が、音もなく剥がれ落ちていく。
視界がグラグラと揺らめく。
何も見えなくなっていた。
「やめてくれ……….!やめてくれ!………….」
そう叫んだ瞬間、視界が強く、白く弾けた。
気が付くと、僕は地面に倒れていた。
冷たい。
硬い。
そして、ざらついている。
おもむろに目を開けると、そこは教室ではなかった。
灰色の空。
崩れた建物。
ひび割れた道路。
風に舞う白い粒。
廃墟。
灰へと化した木々。
降り頻る雪。
遠くで聞こえる叫び声。
硝子の割れる音。
鮮血の色に染まった炎。
遠くで倒れる、どす黒い影。
焼き焦げた臭い。
腐敗臭。
人骨。
死骸。
鮮血。
息を吸うと、のどが焼けるように痛んだ。
空気は乾ききっていて、焦げた臭いが鼻を刺した。
「ここ、は………」
言葉が震えた。
「夢」でみた景色…………
果暖が見ていた、未来視の断片……..
あの現実、が眼前に広がっていた。
僕は、ふらつきながら立ち上がった。
足元には瓦礫が散らばり、歩くたびに硝子の破片が砕ける音がする。
遠くで、建物が崩れ落ちる鈍い音が響いた。
風が吹くたびに、白い灰が舞い上がり、視界が霞む。
どこを見ても、だれもいない。
学校、家、街、娯楽施設、すべてがすべて焼け落ちていた。
「……..果暖……いるの、返事をしてよ…….」
返事は、なかった。
灰の中に、少女の姿はどこにもなかった。
あの明るい笑顔も、やさしい声も、どこにもない。
胸の奥が、ゆっくりと冷えていく。
崩れたビルの陰に腰を下ろし、空を見上げた。
灰色の雲が、低く垂れこめている。
雪、が降り頻っている。
「いないんだ…….果暖…….」
つぶやいた瞬間、胸の奥がひどく傷んだ。
考えてみた。
果暖のことも、今までのことも。
夢の中でどこか懐かしいにおいがしたのも、果暖が少し切なげな顔をしていたのも、教室の空気がわずかに揺れたのも、空が一瞬灰色に見えたのも、硝子が割れる音がしたのも、まだ時間はあるから、という言葉も……..
全部、この世界の入り口だったということか………
僕は、ふと考えた。
今、僕、は、今、現実、世界、にいるのだろうか。
ずっと、果暖の未来視とか、自分の夢を、非現実的なもの、としてとらえてきた。
でも、非現実的というように考えるためには、現実が何かを知る必要がある。
僕は、感覚的にあの世界を現実ととらえていた。
この世界を現実ととらえ、それを基準として考えてきた。
でも、この世界が現実、だなんてどうやって証明するのだろうか。
自分の感覚に依拠するものでは、根拠としては希薄なのではないか。
自分がいる世界が現実だなんて、本当だろうか。僕は、他人に入り込むことはできない。
他人の視点に入り込むことができない。
物理的には不可能だろう。ということは、今自分を取り巻く世界が、たとえ自分の作りだした空想だとしても、何も不思議に思うことはない。
嫌だ、嫌だ……
こんな世界が現実世界だなんて、信じたくもない。発狂しそうになった。何で、自分はこんな目に合わなければならないんだ。意味が分からないよ。しかも、何で誰もいないこんな荒野にただ一人いさせられているんだ。おかしいだろう。
突然の出来事に混乱し、何に対してかもわからない漠然とした怒りが湧いてきた。ふざけるなよ、なんでこんな世界になってしまったんだ........
.........あれ、僕、知っている。何でこんな世界になったのか。記憶の片隅から、物語がどんどん織りなされていく。
そうだ。第三次世界大戦が起きたんだ。世界中の国を巻き込んだ大戦争。もう、二度と戦争をしないとかいう言葉を口にしていたのに、それがすべて戯言になった。平和、国際協調、人権、そんな言葉を完全に無視して、総力戦となってしまった。原因は知らない。何かの利己主義が行き過ぎたのだろうか。感情を爆発させた馬鹿な上官たちのせいだろうか。いずれにしても、大地は焼き払われ、家は決壊し、人々は戦争へ駆り出され敵兵に殺され、命をどぶに捨てられた。国の名誉とか、そんなもののためだけに命をどぶに捨てさせる人間を、上層部の人間たちを、幼い僕はおろかで仕方がないと思った。やめてしまえば、話し合いすればすべてが解決するはずなのに。
でも、現実の上官たちは悉く馬鹿だった。戦力をつぎ込み、相手の国に勝つことしか考えていなかった。感情に任せて攻撃した。猿か。そんなこと、人間でなくてもできる。圧倒的に軍事力に差があっても。冷静に考えて勝ち目がないとわかっていても。本当に馬鹿だな。そんなことまでして戦争したところで、残るのは空っぽの心と、殺人への罪悪感と、荒野だけだ。これのどこが正義なんだ。僕は、ふつふつと怒りが湧いてきた。
上官を、全員ぶち殺したい。殺したい。殺したい。死ね。地獄の果てまで追いつめてその首根を刈り取ってやる。抉り取てやる、内臓を。身体を大破させて地獄のような痛みを味あわせてから殺してやる。殺したい。死ね。死ね、死ね.......ぶち殺す。絶対に殺す。そいつらのせいですべてが壊れたんだ。殺す。絶対に殺す。死ね、地獄に堕ちろ......汚ねぇ面下げて暮らしている上官を、全員皆殺しにしてやりたい。殺したい。最も残酷な方法で殺したい。あいつらが鮮血を吹き出しながら死ぬところを見てやりたい。頸動脈を斧で切ってやる。さぞかし苦痛に悶えながら死ぬだろう。そして、自分が犯した罪を自覚するのだろう。あはははははははははははは!!!!!!なんて愉快なんだろう。今すぐ向かおう。今すぐ、そいつらの鮮血を見に行こう。そいつらの心臓を抉り取ってやろう。あははははははははははははははは!!!!!!最高の気分だなぁ!!!!!!
__本当か。僕は、そんなことがしたいのか。殺人を楽しんで一生を過ごしたいのか。本当に、それが僕のしたいことなのか。
たぶん、違うだろう。そんなことをしたら猿と同じになってしまう。ここで感情に任せて行動したら、愚かな、愚の骨頂の上官たちと何も変わらなくなってしまう。殺したいけれど、あいつらに自分の罪を自覚させたいけれど、そんなことはどうでもいいんだ。
___今まで見ていた世界は、僕の空想が織りなしていたんだな。そう思った。もう、受容するしかないと思った。
夢を未来視していた。果暖は、僕の夢を未来視していたんだ。彼女が未来視するのは、現実世界のこと。彼女は、僕を現実世界へといざなっていたのかもしれないな。
全部、そうなんだろう。校舎の壁が少しずつ割れている音がしたのも、硝子の音が聞こえたのも。全部、現実世界へ戻す予兆だったのかもしれない。空想世界の崩壊を予兆していたのかもしれないな。
そういえば、僕はなぜ空想世界へ行ってしまったんだろうか。
自分の心を守るためなのだろうか。
でも、もう、いいや。
そんなことを考えるのはよそう。
今更そんなことをしたって、現状が変わるわけないんだ。
理解した。理解したはずだった。でも…….僕が現実に戻った瞬間、果暖は消えてしまった。もう、この世界に果暖はいないんだ___そう思うと、なぜか胸が急に苦しくなった。果暖に会いたい。無性に会いたい。あの、飾らないまっすぐな笑顔をもう一度見たい。微笑んでほしい。果暖、果暖、果暖………..どうしても会いたかった。彼女に、もう一度。もう一度だけでいいから、あの優しい声を、あの姿をどうしても脳裏に焼き付けたかった。それがただ一つ、今僕が抱く願いだった。
風が吹き、灰が舞い上がった。その中に……….気のせいかもしれない。気のせいだったのかもしれないけれど。果暖の声が微かに混じった気がした。
「ありがとう、望海くん………」
幻聴だったのかもしれない。それでも、僕はその声を信じたかった。
涙が頬を伝い、灰と混ざって落ちた。
→後半に続きます。ぜひ最後までご覧ください。
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