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翌日、柊と花梨は浜田家へ向かった。
別荘の現場調査の報告と、土産を手渡すためだ。
いつものように応接室に通された二人は、土産の日本酒とバウムクーヘンを渡す。
それを受け取った浜田夫人は、嬉しそうにこう言った。
「まあ、ありがとう! この日本酒、主人が好きなのよ~。それに、このお店のバウムクーヘンも娘が好きだったわ~。後でお仏壇へお供えさせてもらうわね」
浜田夫人に喜んでもらえたので、二人はホッとした。
「で、どうだった? 秋の白馬は?」
「それはもう素晴らしかったですよ。空気が澄んでいて、自然を満喫できました」
「水島さんは?」
「紅葉がちょうど見頃で美しくて……本当に感動しました」
「それなら良かったわ」
その後、三人はお茶を飲みながら白馬の話で盛り上がった。
夢中で話し込んでいると、柊に電話が入ったので、彼は部屋の外へ行き応対する。
応接室に浜田と二人きりになった花梨は、ふと思い出したように、別荘で見つけた『羽根』をバッグから取り出す。
そして、小さなチャック付きの透明な袋に入れていた『羽根』を浜田に見せた。
「これは?」
「別荘の寝室のベッドの上に落ちていました。偶然紛れ込んだものだと思いますが、気になったので持ち帰りました」
その瞬間、浜田の表情が真剣な眼差しに変わる。彼女は花梨から受け取った羽根をじっと見つめると、突然嗚咽を漏らして泣き始めた。
「浜田様?」
「ううっっ……きっとあの子だわ……あの子はあなたたちと一緒に別荘へ行ったのよ……ううっ……」
花梨はいきなり泣き出した浜田を見ておろおろし、慌ててハンカチを差し出す。
応接室には、しばらく浜田の切ない泣き声が響いていた。
しばらくしてようやく涙が落ち着いた頃、浜田が静かに語り始めた。
「あの子は、幼い頃から鳥が好きでね……闘病中はベッドの上でいつも鳥の図鑑を見ていたわ。その中でも、北海道にしかいない真っ白なあの鳥……ほら、ふっくらとした……なんて言ったかしら?」
「シマエナガですか?」
「そう、それよ。病気が治ったら北海道に行って見るんだって、いつも口癖のように言ってたの」
「あ……じゃあ、この羽根は……」
「そう……きっとあの子からのメッセージよ。別荘を手放すのを知ったあの子が、合図に送ってくれたのかもしれないわ。『お母さん、白馬の別荘での出来事は、もう思い出に変えていいのよ』ってね……ううっ……」
再び涙を流す浜田を見て、花梨は切ない気持ちになる。そして、少しでも慰めになればと思いこう言った。
「ようやくお母様が悲しい思い出に終止符を打ってくれると知り、お嬢様もきっと安心したのでは?」
芙月みひろ
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その言葉に、浜田は顔を上げた。
「そう思う? そうだといいけれど……」
「絶対にそうです。お嬢様だって、大好きなお母様がいつまでも悲しんでいる姿を見たくはないでしょうから! 優しいお嬢様ですね」
花梨の優しい言葉に、浜田はさらに嗚咽を漏らす。
そして、泣きながら言った。
「その羽根、私がもらってもいいかしら?」
「もちろんです。そのつもりで持って帰ったんですから」
「ありがとう……水島さん、本当にありがとう!」
花梨ももらい泣きをしながら、大きく頷いた。
その時、電話を終えた柊が応接室へ戻ってきた。
そこで泣いている二人を見た彼は、びっくりした表情を浮かべた。
その後、用件を終えた二人は浜田家の玄関を出た。
先に花梨が車へ向かい、その後ろを柊と浜田が歩く。歩きながら、浜田は柊に向かってこっそり聞いた。
「で、どう? ちゃんと捕まえられそう?」
「はい?」
いきなり浜田にそう問われた柊は、戸惑っていた。
「とぼけてもダメよ。好きなんでしょう? 水島さんのこと!」
ずばり指摘された柊は、驚いてこう答えた。
「参りました……すべてお見通しですね。だから、白馬の旅行を?」
「ふふっ、そうよ。あなたにはたくさんお世話になったから、恩返しをしないとね」
「お気遣いありがとうございます」
「恋愛や結婚に興味のないあなたが、初めて見込んだ女性でしょう? だから、うまくいってほしいのよ!」
「ご期待に添えるよう頑張ります」
「ふふっ、まあ私の目の黒いうちに、結婚式に招待してちょうだい」
「そんなに長くはかかりませんよ」
「やだ! 城咲さんったら、本当に自信家なんだから!」
同時に笑い声を上げる二人のことを、花梨が不思議そうに見ている。
「では、買い手の候補が見つかりましたら、またご連絡させていただきます」
「よろしくね」
そして、柊と花梨は浜田の家を後にした。
社へ戻る車の中で、花梨はさきほどの涙の訳を柊に説明した。
「そういうことだったのか」
「はい」
「でも、そうやってお嬢さんからの合図を受け取ったなら、浜田様も潔く別荘を手放せるだろうな」
「はい。表には出さなくても、これまで相当お辛かったんだと思います。でも、ようやくその苦しみから解放されるんですね」
「うん。その手伝いを、俺たちが最後までしっかりとやり遂げないとな」
「はいっ!」
花梨は力強く返事をすると、穏やかな表情で窓の外を眺めた。
コメント
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「ちゃんと捕まえられそう?」 って、一瞬、シマエナガのこと言うてんのかと思うた。んなわけあるか。 「シマエナガ」って、こっちは馴染みがないからよぅ知らんくて、「雪の妖精」て。そら、そんな上品で可愛らしい鳥、こっちにはおらんわ。 【勝手に間違い探し】 さて、次の3つの「白」にまつわるもののうち、間違いはどれでしょう。 ➀白馬 ②シマエナガ ③白タク 正解は、CMの後で。
別荘にあった羽🪽は娘さんが花梨ちゃんを通じて浜田様に暖かいメッセージを送りたかったのでしょうね!思い出の別荘を手放す事への踏ん切りが付かない気持ちを後押ししてくれてるような気がします💕💕 浜田さんは柊さんの気持ちもお見通しですね( *´艸`)フフフ♡
浜田夫人はわかってたんですね🤭 結婚の話までしちゃんなんて✨✨ 白い羽根も渡せてよかった! きっといいご縁がありますね☺️