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#現代ファンタジー
るるくらげ
第2章 第25話
「宿命血戦」
空気が凍りつき、ゼグレは二つの氷のロングソードを形成した。大気中の水分が一瞬で結晶化し、澄んだ刃となって収束する。月光を受けて淡く蒼く光る双剣。握った瞬間、空間の温度がさらに下がる。
「お前も闘え」
ゼグレはアクラに目すら合わせず、二つのうちの一つをアクラに投げた。無駄のない動作。迷いも焦りもない。
「お、おうよ!」
受け取った瞬間、指先が痺れるような冷気。だがその冷たさが、逆に頭を冴えさせる。
「アクロー!作戦変更だ。お前は赤布のほうを任せた 」
「任せて! …お兄さん。恨みっこなしだよ」
その無邪気さが、かえって不気味だった。
リッパーがまた口元のみ大きく歪ませる。愉悦。狩人の笑み。
「やはり双呪の血が騒いだか?名乗ってみろ。オレはこう見えて武人気質でな」
「……ゼグレだ」
短く、淡々と。
「覚えておいてやろう。オレはリッパーだ。…まぁどうせ今夜限りの命だ。貴様にとっては無意味だったな…!」
その言葉と同時に、地面が砕けるような衝撃。
そしてゼグレとリッパーがぶつかる。金属と魔力がぶつかる高音が森を震わせる。
ゼグレは先程のように魔術展開をしながらリッパーを近づけさせないようにしている。足元、空気、背後。目に見えない制圧。
「バカめ。オレが接近戦だけが得意だとでも思ったか」
リッパーは遠くから空気を剣で斬る。目に見えない軌跡が赤く染まる。
するとそのまま紅い魔術の斬撃がゼグレのほうへ飛んでいく。空気が裂け、圧が押し寄せる。
ゼグレは一瞬で氷を地面から自分を守るように生成した。壁のように立ち上がる氷塊。
その氷は斬撃が当たると同時に粉々に砕けた。破片が散り、冷たい霧が舞う。
「お兄さん、よそ見はよくないよ」
視線を元にもどすとアクロウが蒼い魔術を発動させていた。空間が歪む。武器は一切使わず、魔術だけのスタイルだ。
「ゼグレって人すごいね。リッパーと互角みたい」
「そっちこそ、よそ見してる場合かよ! 」
アクラは何度も剣で攻撃をするが、1度も当たらない。氷剣が空を切る。
「でもリッパーは負けないよ。ぜったい。」
「はぁっ!!」
また外した。苛立ちが募る。
「お兄さんも、僕には勝てないよ」
「くそっ…!!」
アクロウは回避を繰り返したあとに魔術で不規則に攻撃をしかけてくる。蒼い閃光が乱れ飛ぶ。
そのランダムさがこちらのペースを崩してくる。規則がないことが最大の武器。
「氷魔術を極めてやがるな。いい出来だ。誰から教わった?」
斬撃を繰り出しながらリッパーは口に出す。
「別に。独学だ」
今度はゼグレが接近戦に持ち込む。一気に間合いを詰める。
鳴り響き続ける金属と氷と魔術の轟音。夜が震える。
「それでいい。人の真似事なんぞ二番煎じにしかならねぇからな」
2人の動きはまるで人間離れしていた。踏み込み、受け流し、反撃。一瞬の判断が生死を分ける速度。
そしてついにゼグレがリッパーの肩を軽く斬る血が吹き出す。暗い森に赤が散る。
「…くく。上出来だ。貴様の血なら少しは役に立つだろう。…だが」
その言葉と同時にゼグレの脇下が大出血する。いつの間にか、見えない斬撃が通っていた。
「……!」
「まだオレには勝てねぇよ 」
ゼグレは膝に手を付き、息を荒らげる。地面に落ちる血が氷を溶かす。
「あ、あのやろー!!」
アクラの叫びはゼグレに対してなのかリッパーに対してなのかはわからない。
「この勝負、オレの勝ーー」
次の瞬間、リッパーは異変に気づく。
「足が…動かない……!?」
そう。リッパーの足にゼグレの氷がまとわりついていた。足首から膝へ、静かに締め上げる。
ただの氷ではない。魔力によって生み出された氷は通常のとは比べ物にならないほどの強度を誇る。軋む音。
「貴様…、いつの間に…!」
ゼグレは血に膝を着きながら
「最初から…だ」
「!?」
よく周りを見渡すと地面には数ミリほどの氷が敷かれていた。森全体を覆う薄い結界のように。
目視だとまず気づくのは難しい。
「死ぬのは…お前だ」
ゼグレが言い放つとリッパーの背後に巨大な氷柱を魔術で形成し、一気に放出する。地面から噴き上がる白い殺意。
「クソ…!!!」
そして巨大な氷柱はリッパーの左肺を貫通した。肉を裂く音。血飛沫。
「アクラ…今…だ」
ゼグレは出血の影響で地面にゆっくり倒れ込んだ。視界が霞む。
「わかってる!!」
氷柱の衝撃で足枷となっていた氷は解除されリッパーは大きく吹き飛ばされる。地面には赤い血だまりができていた。
「あの…野郎…!! 」
リッパーは這いつくばってでもゼグレにトドメをさそうとしていた。片肺でもなお、殺意は衰えない。
「させねぇよ!!」
なんとか起き上がったリッパーに対し、アクラはかなり助走をつけた体当たりをした。全力。迷いなし。
「ぐはぁッ…!!」
リッパーのうめき声とともにそのまま2人は勢いに逆らえず森の奥へと転がって行った。
そこは急角度となっていて体制を整えようとしてもリッパーがアクラの首を掴んだままのせいで2人はゴロゴロと下へ落ちていった。枝が折れ、石が跳ねる。
そしていきなり空中に投げ出される。重力が一瞬消える。
下を見るとそこにはーー
シャフト洞窟。
底には地底湖があり、ふたりはそのまま落ちていく。月光が縦穴の奥へ細く差し込み、蒼黒い水面が遠く揺れていた。
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