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第2章 第26話
「血契覚醒」
「リッパーたち落ちて行っちゃった」
アクロウの言葉に焦りは見えない。
ゼグレはまだ気絶している。
しかし出血は既に止まっている。
気絶する直前に氷魔術で傷口を塞いでいたのだ
「争いなんてなくなればいいのにね」
2人が転がって行った坂道をみつめる。
「でも みんなそれを許してくれないみたい」
首だけゼグレにむける。
そしてゆっくりゼグレに近づく。
「あ痛ぁっ!」
足を踏み入れた瞬間、オートの氷魔術によってアクロウは太ももにかすり傷を負った。
「……こんなとき リッパーがいればなぁ」
「てめぇ!離せよ!!」
「……この野郎…!」
2人は地底湖へと落ちた。
水しぶきが高く舞う。
気がつけば夜が明けてきて少しずつ洞窟に光が刺してきた。
その洞窟の穴は大きく、中身も広々としていた
そして先に洞窟内の陸にあがったのはアクラ。
「ガハッ…はぁっ…はぁ」
ゼグレからもらった剣もどこかに行ってしまった。そして反対岸のほうからリッパーがあがってきた。
「ゴホッゴホッ……貴様…!!」
湖のせいで体はずぶ濡れ。アクラは動きやすくするため上着を脱ぎ捨てた。
リッパーはまだ肺から血を流している。
ローブも水で完全に濡れてしまっているため動きずらそうだ。
「ボルムみたいにすぐは治らないらしいな…!」
「うるさい…!貴様もすぐに地獄送りにしてやる……!」
リッパーは息を切らしながら、また武器を形成して、湖をジャンプで飛び越えこちらに攻撃をしかけた。
アクラは素手で戦うしかない。
動きが鈍くなりつつあるリッパーの剣を回避しながら反撃の隙を伺う。
時々地上から差し込む朝日が眩しい。
その光がアクラの髪とリッパーの肌を照らす。
フェイントをかけられたアクラはリッパーの斬撃を太ももにうけてしまう。
「うっ…!!」
負けじと拳をリッパーの腕に当てる。
痺れたのか剣を握る手を少し弱めるリッパー。
その隙を逃さず剣を奪い、地底湖へ投げ捨てる。
両者とも満身創痍であった。
「早く…死ねよ…!」
普段なら言わないであろう台詞をアクラは口にする。 しぶとさに苛立っていたのだ。
「死ねるわけ…ねぇだろ。アクローの命がかかってるからな…!」
言葉を途切れ途切れにしてリッパーは言う。
「はは…あいつならお前なしでも…生きてけるだろ…」
実際、アクロウの回避能力は群を抜いていた。
「ダメだ……!あいつは…オレがいないと…」
目が覚める。
まだ耳鳴りがする。
すぐ近くには、黒ボブの魔族、アクロウ。
「お兄さん。僕たちの秘密、知りたい?」
「僕が死ぬ訳には行かない理由」
「オレたちはーー」
「僕たちもーー」
「ーー双呪だから」
「……あ?」
アクラは耳を疑った。
ーー双呪。こいつらも。
だが考えてる余裕はない。
とにかく。一刻も早くケリをつけないと。
そう思い、リッパーにむかって走る。
勢いよくリッパーにぶつかり、殴る。
リッパーも口から血を流しながら殴り、蹴る。
アクラは腕に噛み付いた。
そのまま地底湖へとまた二人で転がり落ちる。
もはや殴る力すら残っていなかった。
「離せッ…!!」
水中にて肘でアクラは殴られ、アクラは息が続かず岸へと手を伸ばす。リッパーも追いかけそのまま地に這い蹲る。
リッパーは馬乗りになり、さらに殴り始める。
ーーそして最後の気力を振り絞ってリッパーはガラスの破片程の小さな刃物を形成し、アクラの首目掛けて振り下ろす。
グサッ!!!
ーー刺さったのは首ではない。
アクラの左手だった。
手を犠牲に首を護った。
刃物を手に刺したまま、今度はリッパーの首元に突き刺す。
ーーが。
「ヨムロ界人風情が…!!」
リッパーの血だらけの両手でアクラの首元を抑える。
「かはっ…!」
「このまま絞め殺してやる…!!!」
手が届かない。力が抜けていく。
最後のアクラの抵抗は殴るでもなく叫ぶでもなく、ただ涙することだった。
「なんだ貴様…!」
心の中は憎悪でいっぱいだった。
「おれが……もっと……」
「強…ければ……」
視界はぼやけ、痛覚すら感じない。
「…また」
「守れ…なかっ…た…………」
リッパーは両手を離す。
実に奇妙だった。この赤布の少年の最後であろう感情が自分に対する憎しみではなく、力の渇望であったこと。
そして、それは長年忘れていた己の強さへの野望のきっかけを思い出させた。
あの時救えなかった命。そしてとにかく強くなろうと自分ばかり責めていたあのころ。
ーーじゃなければヴァレンは……。
またそれはたまたまなのか運命なのか、その感情はかつてのリッパーと同じであった。
「……もっと強ければ…か。」
「…渇望。思い返せばこいつと同じ……」
リッパーはふらつきながら立ち上がり、自らの腕を噛みちぎり、その血をアクラの口元へ注ぐ。
大量の魔族の血を飲み込んだアクラの心臓は急激に激しく鼓動し、意識が復活する。
骨が軋み、音が繊細に聞こえる。
リッパーは倒れ込んでるアクラの頭を軽くける。
アクラは体の異変を即座に感じる。
まるで、不思議なパワーで溢れかえったかのように。
「な、なにしやがった、てめぇ!」
アクラは叫ぶ。自分は確かに瀕死だったはず。
「オレが助けてやったんだ。感謝しやがれ」
「なっ……!」
あの状況からなぜ…?
「な、なぜだ!意味わかんねーぞ!…てかここまでボロボロにしたのお前だろ…!」
「……知らん。気が変わっただけだ」
かつての自分と重ねていた、なんて言えない。
「…いいのかよ。おれが今からお前に攻撃するかもなんだぜ」
「ハッ。やってみろよ。どうせ結果は変わらん 」
「て、てめぇ…!!」
しばらくの沈黙。
「…お前、何か企んでたろ」
「貴様ら、そもそも何で呪われたのか、誰が原因なのか何も知らないだろ」
はっと気付かされる。こいつらも双呪。
おれとゼグレの呪いを解除する方法を知っているのかもしれないのだ。
「なんか知ってんのかよ…!」
「知ってるも何も、オレの仇がその呪いの元凶だ」
アクラが地面から起き上がり、洞窟の壁に背中を預ける。
「それって…バグラドってやつか…!?」
「ああ。ヤツはオレとアクローに呪いをかけた張本人だ」
「まてまて。てことはあの包帯の紫ヤローのことか!?」
「包帯…?さっき言ったばかりだろ。紫のやつはネクロアだ。要するにバグラドの薄汚えペットだ」
はじめてこのリッパーの毒舌に共感できた瞬間かもしれない。
「つまり…えーと…どっちも倒せばいいってことか? 」
「簡単に言うな。それが難しいから貴様らを今回殺しに来たんだろうが」
「…で?なんでわざわざ殺しに来たんだよ。血が何とかって話だったよな」
リッパーは地底湖に足のみ入れ、座る。
「バグラド。ヤツには魔術がきかない」
「…え!?」
「ただし、双呪をのぞいてだ」
「まてよ…!じゃあ血ってのはなんだったんだ!?おれの血が必要だったらしいじゃんか」
「それはヴァレンの推測だ」
「なっ……!!」
「とにかく、双呪じゃないとヤツに魔術はきかない。だから貴様らの力も借りることにした」
「まてまてまて!じゃああと数秒でも力入れて首絞めてたら……!」
「貴様らは2人とも死んで、オレは血だけ利用していただろうな 」
その口元は少しニヤついていた。
魔族というものは不謹慎なことでしか笑えないのだろうか。
「…おれも戦うよ。ネクロアとかいうやつをぶっ倒して、バグラドってやつに呪いを解除させてやる…!」
こうして奇妙で最悪な出会い方をしたアクラとリッパーは互いに警戒しながらも地上を目指そうとした…が。
「貴様に血を与えすぎたせいで体力がない」
などと言い出す始末。
「貴様のせいだ。どうにかしろ」
「無理だろ!せめてゼグレをまつしか…」
「チッ…。使えない野郎だ」
「あっ!てめぇっ! 」
つい一時間ほど前まで殺し合いをしていたことが嘘みたいになってしまった。
互いの目的が一致したためか、殺し合う必要がなくなったからである。
しかし不思議と肩の力がぬけていく。
しばらくすると地上から大きな明るい声がひびきわたる。
「リッパー!大丈夫ー!?」
アクロウはアクラとリッパーが争ってないことを見て安心する。
アクロウはそのまま地底湖へ飛び込み、リッパーの元へ駆け寄る。
「無事でよかった」
この時だけ純粋に微笑むリッパー。
「実はね、ゼグレとも話したんだけど、みんなで協力しないかって…」
「それはこっちでも話が着いたとこだ」
こうしてリッパーはアクロウに全てを話した。
アクロウは大袈裟気味に口元を手で抑えたりジャンプしたりして話を聞く。
「そっかぁ!だからお兄さんも生きてるんだね!」
「お、おうよ…!そういえばゼグレは?」
「今上で休んでるよ〜!2人とも連れてってあげるね」
アクロウはリッパーとアクラを両肩でささえながら、魔術を地面に放ち、その衝撃で地上へと上がって行った。
アクロウは地上につくなりゼグレの元へ走っていった。
「…どうだ」
「どうだってなにが」
「あれがアクローだ。あいつだけは…オレが何がなんでも護る」
「…はは…いいじゃん。それ」
「だが貴様にアクローを愛でる資格はないからな」
「なんだその言い方…!」
ちょっと笑いそうになる。
あのリッパーがすこし恥ずかしそうに顔を背けていたからだ。
「…てかお前、あんま近づくなよ。まだ完全に許したわけじゃねーからな」
「貴様もだ。アクローに近づいてみろ。ぶっ殺してやるからな」
2人はやっとゼグレがいた場所へと戻る。
ゼグレは木に寄りかかって寝ていた。
その寝顔は暗殺者とは思えないほど穏やかで、まるで普通の少年のようだった。
「思い返せば変なやつばっか」
恨みしか無かったゼグレ、死闘を繰り広げたリッパー、完全に油断し危うく殺されるところだったアクロウ。
だがたった一つの目的。
それがあるから協力しなくちゃならない。
ーーある意味、こいつらに出会えたのも呪いあってのことなのか?
だとしても…そもそも出会わない方が幸せだったに違いない。
違いない…のに、妙に達成感を得た自分がいる。
これからどうなっていくのかすらわからない。
だけど一ついえるのはこれはまだ通過点ってことだ。
これからまだ道のりは険しいだろう。
でも少し。ほんの少しだけやっと希望が見えてきたような、そんな気がするーー
第2章 [完]
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#現代ファンタジー
るるくらげ