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北実side
一日目 朝
北実「……朝か。」
ゆっくり目を開ける。
昨日は色々ありすぎて、正直ほとんど眠れなかった。
そして、この妙に現実味のある『ゲーム』。
軽く身支度を済ませ、部屋を出る。
廊下は静かだったが、広間へ近付くにつれて話し声が聞こえてきた。
扉を開けると──
南実「北、おはよ!」
真っ先に南実が手を振った。
北実「……おはよう。」
広間には、すでに全員が集まっていた。
中央には長机が並べられ、その周りに二十二人が思い思いの場所へ座っている。
昨日までの和やかな空気とは違う。
誰もが互いを探るような視線を向けていた。
北実(……始まったんだ。)
昨日までは仲間だった。
でも今は違う。
この中に、人狼陣営がいる。
しかも、本人の意思だけではどうにもならない形で。
ヴァスリック「さてさて〜♡」
いつの間にかヴァスリックが部屋の中央へ立つ。
ヴァスリック「初日の朝だし、まずは自己申告タイムでもやろっか♪もちろん、強制じゃないよ!言いたい人だけどうぞ♡」
その一言で、広間が少しざわついた。
廉蘇「……俺は村人だ。」
廉蘇が言う。
日向「私も村人ですね。」
利亜「ボクもなんね!」
国雲「我も村人アル!」
南実「僕も村人かな。」
嗣行「俺も。」
叶英「私も村人です。」
次々と「村人」という言葉だけが並んでいく。
能力を隠したい者。
本当に村人の者。
人狼だと悟られたくない者。
理由は違っても、答えは同じだった。
ラン「はいっ。」
その時、一人の少女が静かに手を挙げた。
ラン「私は、村人じゃありません。」
全員の視線が集まる。
ラン「私……占い師です。」
空気が張り詰める。
ラン「昨日の夜、もう占いは済ませました。占った相手は──北実さんです。」
俺を見る。
ラン「結果は、村人陣営でした。」
一瞬、部屋が静まり返る。
日和「おぉ……。」
日和が思わず声を漏らした。
日和「北実くん、白なんだ!」
北実「まだ決まったわけじゃない。」
俺はすぐに返す。
北実「占い結果が本当とは限らない。」
日和「うん、それもそうなんだけど……。」
日和は少し困ったように笑った。
その直後。
紅葉「私も。」
もう一人、手が挙がる。
紅葉だった。
紅葉「私も占い師。昨日占ったのは──」
紅葉は迷いなく隣へ視線を向ける。
紅葉「嗣行兄さん。」
嗣行は何も言わない。
紅葉はそのまま続けた。
紅葉「結果は…村人陣営だったよ。……兄さんが狼なわけないもん。」
最後の一言は、小さく付け加えるようだった。
嗣行は小さくため息をつくだけだった。
湾海「占い師が二人……。」
湾海が呟く。
湾海「ルール通りなら、おかしくはないね。」
日向「ですが。」
日向が静かに口を開く。
日向「問題は、お二人とも本物なのか。あるいは片方だけなのか。あるいは……。両方とも偽物なのか、ですね。」
国雲「そうなるアル…。」
国雲が腕を組む。
国雲「しかもルールに書いてあったアル。欺朧狼…占い結果を書き換えられる狼がいるアル。」
陸斗「つまり。」
陸斗が続ける。
陸斗「占い師本人が嘘をついていなくても、結果そのものが改ざんされている可能性がある。」
叶英「逆に。」
叶英が微笑む。
叶英「改ざんされていない可能性もあります。結局、現時点では何も断定できませんね。」
愛蘭「そうだね。」
愛蘭も頷く。
愛蘭「北実くんが本当に白なのか。嗣行さんが本当に白なのか。まだ誰にも分からない。……こいつに賛同するのは癪だけど。」
俺は黙って考える。
ランの言葉が本当なら、俺はほぼ潔白を証明されたことになる。
日向「焦って結論を出す必要はないでしょう。」
日向が穏やかに場を見回した。
日向「まだ一日目です。情報はほとんどありません。」
ヴァスリック「そういうこと〜♪」
ヴァスリックがぱんっと手を叩く。
ヴァスリック「というわけで!今日の本格的な会議はまだなし♪今は自由時間でーす!好きに歩いても、おしゃべりしても、街を見て回ってもいいよ⭐︎もちろん──」
にやり、と笑う。
ヴァスリック「誰を信用するか、誰を疑うかは君たち次第♡」
その言葉を合図に、張り詰めていた空気が少しだけ動き始めた。
椅子から立ち上がる者。
誰かに声をかける者。
一人で考え込む者。
そして俺も、静かに立ち上がる。
北実(まずは情報を集めよう。)
このゲームで生き残るためには、何よりもまず──
人を見ることが必要だった。
日向side
一日目 朝
私は広間を出る前に、もう一度だけ中を見渡した。
誰かと話し始める者。
一人で考え込む者。
仲の良い者同士で集まる者。
思っていたよりも、皆の動きは落ち着いている。
……だからこそ、余計に分からない。
ランさんと紅葉さん。
二人とも占い師を名乗った。
占い師は二人存在するルールだ。
だから、「二人とも本物」という可能性は十分にある。
しかし。
日向(……それを証明する方法は、まだありませんね。)
占い結果そのものが正しいとも限らない。
欺朧狼の能力で改ざんされている可能性。
あるいは、どちらかが嘘をついている可能性。
今ある情報だけでは、何一つ断定できない。
そして、もう一つ。
日向(村人と言っていた方々の中にも、背信者はいます。)
村人と背信者は見分けがつかない。
占い師や霊媒師でさえ村人陣営と判定される。
誰が本当の村人で、誰が背信者なのか。
今は全く見えてこない。
日向(……でしたら、まずは情報を集めましょう。)
私は誰にも声を掛けず、広間を出ようとした。
日向「あっ、そうだ。」
振り返る。
日向「ヴァスリックさん。」
ヴァスリック「ん〜?」
ヴァスリックは振り向くなり、いつものように笑顔を浮かべた。
ヴァスリック「どしたの日向くん♪」
日向「この場所の地図はありませんか。今のままでは、どこに何があるのか全く分かりません。」
ヴァスリック「おぉ〜!」
ヴァスリックは手をぽんと叩く。
ヴァスリック「よく気づいたね♡それないと不便だもんね♪エイちゃん!」
エイラ「はい。」
エイラが一歩前へ出る。
杖を軽く掲げると、
二十二枚の紙が空中へ現れ、それぞれ参加者の前へ舞い降りた。
エイラ「どうぞ。簡易的なものですが、地図です。」
私は一枚受け取る。
広げてみると、簡単な地図が描かれていた。
日向「……なるほど。」
今いる場所はおそらく、中央に大きく描かれた建物。
『屋敷』
その周囲をぐるりと河川が囲んでいる。
そして、その外側。
東、西、南、北。
四つのエリアに分かれているようだった。
さらに、それぞれのエリアも河川で区切られている。
橋を数える。
中央と東西南北を繋ぐ橋が四本。
外周同士を繋ぐ橋が四本。
合計八本。
日向(思っていたより広いですね……。)
地図を目で追う。
施設もいくつか記されている。
噴水、時計台、医療所、高台、塔、食料品店、日用品店、武器店、雑貨店、教会、公園。
どれも一か所に集まっているわけではない。
それぞれのエリアへばらばらに配置されていた。
日向(移動には橋を渡る必要がありますね。)
一度違うエリアへ向かえば、戻るだけでも時間が掛かる。
行動範囲も、自然と限られてくるだろう。
私は地図を丁寧に折り畳み、ポケットへしまった。
もう一度だけ広間へ目を向ける。
ランさん。
紅葉さん。
二人はそれぞれ別の人と話をしている。
日向(お二人とも本物なのでしょうか。)
もし本物なら、村人陣営にとっては大きな力になる。
もし違うなら、その発言には別の意図がある。
まだ答えは出ない。
日向(そして……背信者の方は、どなたなのでしょう。)
村人と同じように振る舞う。
それだけで十分だ。
だからこそ、誰の言葉も簡単には信じられない。
私はゆっくりと屋敷の扉を開ける。
眩しい朝日が差し込んだ。
目の前には、静かな街並みが広がっている。
まだ誰も知らない。
この街のどこで、誰と出会い、どんな情報を手にするのか。
私は静かに一歩を踏み出した。
嗣行side
一日目 朝
地図を受け取った俺は、広げた紙を一通り確認した。
中央にあるのが、この屋敷。
その周囲を河川が囲み、東西南北に四つのエリアが広がっている。
施設もいくつか配置されているが、細かい情報までは載っていない。
俺は地図を折り畳んだ。
せっかく自由に動けるのなら、昼になるまでに一度全体を見ておく。
まずは北。
そこから時計回りに東、南、西。
そうすれば、この場所の大まかな構造くらいは把握できる。
屋敷を出て、北へ向かう橋を渡った。
川の水は透き通っていて、朝の光を反射している。
橋の向こうに広がっていたのは、少し静かな街並みだった。
石畳の道。
低い建物。
朝の冷たい空気。
しばらく歩くと、時計台が見えてきた。
その近くには噴水もある。
俺は立ち止まらず、そのまま先へ進む。
途中、屋敷でのことを思い出した。
全員が緊張していた。
普段なら適当に話しているような連中まで、妙に口数が少ない。
互いに警戒している。
当然だ。
この中には、人狼がいる。
そして背信者もいる。
誰が味方なのか。
誰を信じていいのか。
今はまだ、何も分からない。
嗣行「……占い師が二人、か。」
ランと紅葉。
二人とも自分が占い師だと名乗った。
俺は地図を片手に歩きながら、朝の会話を思い返す。
北実はランに占われて、村人陣営。
俺は紅葉に占われて、村人陣営。
結果だけを見れば、悪くない。
だが、信じる理由もない。
欺朧狼の能力が使われている可能性もある。
そもそも、どちらかが偽物かもしれない。
嗣行「……まあ、今は保留だな。」
俺はそれ以上考えるのをやめた。
ただ。
紅葉が俺を村人陣営だと言ったことについては──
少しだけありがたいと思っている。
別に、信じてもらえたからというわけじゃない。
俺自身が疑われる可能性が下がる。
それだけで、動きやすくなる。
少なくとも今日のところは。
だが、初日から占い師が正体を明かすのは得策じゃない。
今の段階で余計な情報を与える必要もない。
俺はそのまま北のエリアを抜け、東へ向かう橋へと向かった。
途中、医療所が見えてきた。
街の人間は……いない。
ここにいるのは、俺たちだけなのだろう。
妙に静かな場所だった。
橋を渡る。
川の上を吹き抜ける風が、少しだけ冷たい。
東のエリアへ入ると、雰囲気が変わった。
北よりも建物が多い。
通り沿いには食料品店や日用品店が並び、生活感のある景色が広がっている。
店の中には商品が並んでいるものの、店員の姿はない。
嗣行「……よくできてるな。」
ゲームの舞台にしては、妙に本物らしい。
俺は周囲を確認しながら歩く。
そして、また考える。
今夜、どちらかの占い師が襲撃されるだろう。
占い師を残しておく理由がない。
特に、最初に名乗り出たランはかなり目立っていた。
堂々としていたし、発言にも迷いがなかった。
俺には、なんとなく本物に見える。
嗣行「……となると。」
今夜死ぬのは、たぶんランだ。
それに──
嗣行(……いや、やめよう。俺が今考えても意味がない。)
そう考えながら、東のエリアを抜ける。
次は南。
橋へ向かう途中、俺はふと足を止めた。
自分が何を考えているのか。
少しだけ、おかしく思えた。
誰が死ぬかなんて、俺には関係ない。
ゲームなんだ。
嗣行「……誰が死のうと、俺には関係ない。」
小さく呟く。
嗣行「俺の陣営が勝てれば、それでいい。」
俺はそのまま顔を上げる。
目の前には、南のエリアへ続く橋。
川面を渡る風が、静かに吹いていた。
俺は何も考えず、その橋を渡った。
米太side
一日目 朝
米太「……Hmm…」
俺は手元の地図に軽く目を通した。
橋や施設が色々あるみたいだけど──
米太「まあ、今はいいか。」
地図を適当に折り畳み、近くの椅子へ腰を下ろして広間を見回す。
さっきまで全員いたはずなのに、何人かはもう外へ出たらしい。
残っているメンバーは、十数人ほど。
……なのだが。
なんだ、この空気。
誰も大声で話していない。
視線だけがあちこち飛び交っている。
誰かが誰かを見ている。
見られた側も、また別の誰かを警戒する。
まるで全員が、相手の腹の中を探っているみたいだ。
米太「……はぁぁぁぁ。」
俺は大袈裟なくらい深くため息をついた。
米太(こういう雰囲気、苦手なんだけどな〜……。)
普段なら、もっと適当に騒いでればいい。
なのに今日は、誰もがピリピリしている。
まあ当然っちゃ当然だけど。
米太「うーん……。」
俺は椅子に座ったまま腕を組む。
細かいことを考えて、相手の発言を一つ一つ分析して、そこから戦略を組み立てる。
そういうのが得意な奴もいるだろう。
俺だって、できないわけじゃない。
ただ──
米太「……Troublesome。」
小さく呟く。
性に合わない。
だったら、もっと単純な方法でいい。
米太「話せばいいじゃん。」
俺は立ち上がった。
まずは会話。
それが一番手っ取り早い。
少しでも話せば、相手のことが分かる。
普段の話し方。
考え方。
反応。
そこから何か見えてくるかもしれない。
それに──
米太(背信者を見つけないことには、何も始まらない。)
村人のふりをしている背信者。
そいつらは、人狼陣営の勝利を望んでいる。
なら、誰が村人で、誰が背信者なのか。
少しでも見極める必要がある。
逆に、本当に村人陣営の人間を見つけることも大切だ。
米太「よし。」
俺は軽く肩を回す。
このギスギスした空気を、ちょっとくらい和ませてやるか。
米太「Hey, everyone!」
広間に声を響かせる。
何人かが一斉にこっちを見る。
米太「そんな怖い顔しなくてもいいって!まだ初日の朝だぜ?せっかくだし、ちょっと話そうぜ!」
返事はない。
俺も黙る。
米太「……あれ?」
思ったより反応がない。
米太「…Guys、ノリ悪くない?」
日和「誰がノリ悪いって?」
日和がすぐに反応した。
米太「お、いた!やっぱこういう雰囲気Dislikeだよな!」
日和「私も!ずっと黙ってるの苦手〜!」
米太「だよな!」
俺は笑う。
米太「やっぱ会話した方がいいって!」
日和「何話すの?」
米太「えーっと……。」
一瞬言葉に詰まる。
そういえば考えてなかった。
米太「好きな食べ物とか?」
日和「今それ聞く!?」
米太「大事だろ!」
日和「何の情報!?」
日和が笑い出す。
それにつられるように、何人かの表情も少し緩んだ。
太希「まあ、いいんじゃないか。」
太希が苦笑する。
太希「こうやって話しておくのも悪くない。」
米太「だろ?」
俺はニッと笑った。
米太「Let’s talk!」
まだ完全に空気が戻ったわけじゃない。
それでも。
さっきよりは、ほんの少しだけ。
この場所の空気が軽くなった気がした。
リンside
一日目 朝
リン「……はぁ。」
うちは自室のベッドに座りながら、もう一度ルールの紙を読み返していた。
さっきまで広間にいた。
けれど、あの空気はどうにも好きになれない。
全員が互いを警戒して、探るような目で見ている。
あんなところに長くいたら、こっちまで疲れる。
リン「……人狼ゲーム、ね。」
紙に書かれた内容を、一つずつ目で追っていく。
人狼陣営が全滅する。
あるいは、村人陣営と人狼陣営が同数になれば決着。
投票による退場。
夜の襲撃。
役職の能力。
リン「この『退場』って……。」
うちは紙を指で軽く叩いた。
リン「どう考えても、実質的には死亡ってことでしょ。」
もちろん、本当に死ぬのかは分からない。
でも、少なくともゲームの中ではそう扱われるだろう。
投票された人は、その時点でゲームからいなくなる。
襲撃された人も同じ。
リン「……嫌なゲーム。」
ぽつりと呟く。
さらに読み進める。
魔法及び固有スキルの使用は禁止。
許可された場合を除いて。
リン「…これも厄介ね。」
うちらが普段使っている力を、ほとんど封じられている。
戦闘になったところで、いつものようには動けない。
まあ、そもそも投票と襲撃以外で殺害すること自体が禁止されているから戦う必要なんてないんだけど。
そのままページをめくる。
『ヴァスリックへの質問』
『遺言』
『投票』
『遠隔投票』
『最終投票』
一見すると細かいだけのルールに見える。
でも、こういうのは使い方次第でかなり変わるはず。
リン「ヴァスリックへの質問……ね。」
ゲームマスターに質問できるというだけでも、かなり重要だ。
聞き方によっては、大量の情報を引き出せるかもしれない。
遺言だってそう。
退場する直前に残せる言葉が、その後の推理に影響する可能性は十分ある。
リン「……ちゃんと使い方を考えないと。」
うちは紙を畳んだ。
そのまま何となく窓の外を見る。
屋敷の周囲を流れる川。
その向こう側に広がる街。
そして──
リン「……あ。」
橋を渡っていく人影が見えた。
一人。
少し離れて、また一人。
別の方向へ向かう者もいる。
自由行動。
そういえば、さっきヴァスリックが言っていた。
昼までの時間は自由に行動していい。
リン「……そういうことね。」
うちは窓から離れる。
自由時間の行動だって、推理材料になる。
誰がどこへ行ったのか。
誰と一緒にいたのか。
どこで何をしていたのか。
それを後から確認できれば、アリバイにもなる。
逆に──
リン「このまま部屋に閉じこもってたら……。」
うちは少し眉をひそめた。
もし後で誰かに疑われたら。
『朝からずっと部屋にいました』では証明するものが何もない。
もちろん、それだけで人狼だと決まるわけじゃない。
でも、疑われた時に説明する材料がないのは面倒だ。
リン「……それは嫌ね。」
うちは立ち上がった。
部屋にいても、やることはない。
だったら、とりあえず広間に戻る。
誰かと話しておけば、それだけでも行動の証拠になるかもしれない。
リン「……まあ、行くだけ行ってみるか。」
うちは扉を開けて廊下へ出る。
静かな屋敷の中を歩きながら、ふと考えた。
誰がどこへ行ったのか。
誰と話しているのか。
そして──
誰が、何を隠しているのか。
まだ始まったばかり。
だからこそ、今のうちに少しでも情報を集めておいた方がいい。
うちはそのまま広間へ向かった。
レイヴンside
一日目 朝
風が頬を撫でる。
俺は屋敷から離れ、翼を広げて空を飛んでいた。
眼下には、ゲームの舞台となっている街が広がっている。
地上を歩くより、こっちの方が全体を把握しやすい。
川に囲まれた中央エリア。
その外側に広がる東西南北のエリア。
そして、それぞれを繋ぐ橋。
地図に書かれていた通りの構造だ。
俺はさらに高度を上げる。
視線の先。
この街全体を覆っている巨大な結界が見える。
屋敷を中心に、ドーム状に広がっている。
レイヴン「……試してみるか。」
俺は片手を結界へ向け、魔力を集める。
いつも通りなら、すぐに魔法を放てる。
だが──何も起こらない。
正確には、魔力を放とうとした瞬間に身体が止まった。
腕が動かない。
魔力も流れない。
レイヴン「……やはりか。」
無理やり動かそうとする。
それでも身体は、まるで最初からその命令を拒絶しているように動かなかった。
ヴァスリックの固有スキル。
眠っている間に強制されたルールは、意識を取り戻した後も継続している。
ルール違反になる行動そのものができない。
レイヴン「……厄介な奴だ。」
俺は手を下ろした。
あいつのことは以前から知っている。
軽薄で、何を考えているのか分からない。
そのくせ、妙なところだけ抜け目がない。
そんな奴が、こんなゲームを思いついた。
しかも俺たちを勝手に巻き込んでいる。
レイヴン「……終わったら、タダで済むと思うなよ。」
小さく呟く。
別に怒鳴るつもりはない。
ただ、本気でそう思っている。
……まあ、あいつなら何を言っても笑って流すだろうが。
俺は気を取り直して、もう一度周囲を見渡す。
上空から見ると、地図との違いがよく分かる。
建物の位置が少しずれている。
橋の位置も、地図と完全に一致しているわけではない。
だが──
レイヴン「まあ、せいぜい十数メートル程度か。」
大きな問題ではない。
地図は十分に使える。
視線を落とすと、街のあちこちに人影が見える。
一人で歩いている者。
誰かと話している者。
屋敷へ戻っていく者。
まだ始まったばかりだ。
誰もが情報を集めている。
俺は翼をゆっくり動かす。
ルールがここまで強制されているなら、普通に破ることはできない。
なら、考えられるのは二つ。
役職の能力によってルールそのものを変える。
あるいは──
レイヴン「抜け道を探すか。」
どちらにしても、簡単ではない。
そして、あのヴァスリックのことだ。
レイヴン「………どうせ、ルールに何か仕込んでいるんだろうな。」
単純な人狼ゲームで終わらせるつもりなんて、最初からないだろう。
質問。
遺言。
追加役職。
変化するかもしれないルール。
どこまでが仕掛けなのか分からない。
レイヴン「……本当に、あいつとは合わない。」
俺は小さく息を吐いた。
それでも、空を飛び続ける。
街を上から眺めながら、他の参加者の動きを確認する。
今はまだ、誰が敵なのか分からない。
だからこそ、できるだけ多く見ておく必要がある。
俺は再び翼を大きく羽ばたかせた。
北実side
一日目 朝
あれから屋敷の中を軽く見て回ったあと、俺は南実と話をしていた。
特に理由があったわけじゃない。
ただなんとなく、南なら味方な気がする。
そんな直感があった。
もちろん、直感だけで信用するのは危険だ。
このゲームでは、仲間を装うことだってできる。
それでも、今の段階では南実と一緒にいることにした。
南実「ねえ、北。」
北実「なんだ。」
南実「北って、役職何?」
北実「……村人。」
俺は少しだけ間を置いて答えた。
南実「まあ、そうだと思ったよ。」
北実「……なんで。」
南実「なんとなく。」
南はいつものように、へらっと笑う。
南実「僕も村人陣営だよ。」
北実「……そうか。」
とりあえず、お互いに村人陣営だということは分かった。
それ以上のことは聞かなかった。
役職まで無理に聞く必要はない。
それよりも──
北実「ルール、結構面倒だよな。」
南実「うん。」
南実が腕を組む。
南実「特にヴァスリックへの質問。」
北実「あれか。」
一日一回だけ、ヴァスリックに質問できる。
ただし、何でも答えてくれるわけじゃない。
「はい」か「いいえ」で答えられる質問じゃないと、答えは『答えられない』になる。
しかも、役職や陣営について直接聞くこともできない。
北実「つまり、質問を間違えたらそれだけで一回分を無駄にすることになる。」
南実「そういうこと。」
南実が頷く。
南実「『誰々は人狼?』みたいなのは駄目。『この人は占い師ですか?』も駄目。」
北実「なら、質問の仕方をかなり考えないといけないな。」
南実「うん。」
たった一回。
しかも、質問を間違えれば何も得られない。
北実「……慎重に使うべきだな。」
南実「僕もそう思う。」
南実は珍しく真面目な顔になった。
さっきまでの明るさが少しだけ消えている。
南実「それに、今のところ情報が少なすぎる。」
北実「占い師二人の発言はあるけど…な。」
ランは俺を村人陣営と言った。
紅葉は嗣行を村人陣営と言った。
けれど、それすら確定ではない。
どちらかが嘘をついているかもしれない。
両方が嘘をついている可能性だってある。
欺朧狼の能力で結果が変えられている可能性もある。
北実「怪しい奴、いるか?」
俺が聞くと、南実は少し考え込んだ。
南実「うーん……。まだ分かんない。」
北実「やっぱりか。」
南実「昼の行動を見てからかな。」
北実「俺もそう思う。」
誰が誰と一緒にいるのか。
どこへ向かうのか。
何を話しているのか。
今は、その一つ一つが情報になる。
俺は窓の外へ目を向けた。
街のあちこちで、人が動いている。
そしてもう一つ、忘れてはいけない存在がいる。
北実「……背信者。」
俺が呟くと、南実も表情を変えた。
南実「うん。わかってる。」
村人陣営の中に紛れ込み、人狼陣営の勝利を目指す三人。
しかも、占い師や霊媒師からは村人陣営として扱われる。
北実「これ、かなり厄介だな…。」
南実「…例えばさ。」
南実が話し始める。
南実「背信者が、わざと人狼みたいな動きをすることもできるよね。」
北実「……ああ。」
南実「自分に疑いを集めて、本物の人狼から目を逸らさせる。」
北実「人狼を守るために、あえて自分が怪しまれるってことか。」
南実「そうそう。」
十分あり得る。
人狼を直接助けるだけが背信者の仕事じゃない。
自分が疑われることで、人狼から視線を逸らす。
あるいは、村人同士を疑わせる。
そういう動きもできる。
そして俺はもう一つの問題に気付いた。
北実「……待て。」
南実「どうしたの?」
北実「人狼と背信者の人数を合わせて考えた方がいい。」
ルール上、勝敗は人狼陣営の人数で決まる。
だが、背信者も人狼陣営の勝利を目指して動く。
なら、実際の投票では──
北実「例えば。」
俺は指を一本立てた。
北実「人狼が一人。背信者が三人。村人陣営が三人。この七人になったとする。」
南実も黙って聞いている。
北実「人狼と背信者が口裏を合わせて、村人の一人に票を集中させれば最大四票。村人側は本物の人狼を狙っても最大三票。」
南実「……あ。」
北実「そういうことだ。」
俺は頷いた。
北実「人狼の正体が分かっていても、票数で負ける。」
村人三人。
人狼一人。
背信者三人。
この状態なら、村人がどれだけ正しい投票をしても勝てない。
人狼を吊ろうとしても、票が足りない。
逆に人狼陣営は、村人一人に票を集めるだけでいい。
南実「つまり……。」
南実が呟く。
南実「人狼を残り一人まで追い詰めても、背信者が残ってたら危ない。」
北実「ああ。」
人狼を倒すだけでは足りない。
背信者も減らさなければ、最終的な投票で負ける可能性がある。
北実「なら。背信者も、人狼と同じくらい──」
一度言葉を止める。
北実「……いや。それ以上に警戒した方がいいかもしれない。」
南実も頷いた。
南実「うん。」
しばらく、二人とも黙った。
窓の外では、誰かが橋を渡っている。
まだ一日目の朝。
何も分かっていない。
だからこそ、今は一人でも多くの行動を見ておく必要がある。
南実「そろそろ別れようか。」
南実が言った。
南実「お互い違う場所を見て回った方が、情報も増えるよね。」
北実「そうだな。」
俺も頷く。
同じ場所に二人でいても、見られるものは限られる。
それなら、別々のエリアを回った方がいい。
南実「僕は東に行ってみる。」
北実「じゃあ、俺は西。」
南実「何かあったら、あとで教えて。」
北実「ああ。」
南実が歩き出す。
南実「じゃあね、北!」
北実「……ああ、南。」
俺も反対方向へ歩き出した。
今はまだ、誰が敵なのか分からない。
だからこそ──
自分の目で見て、考えるしかない。
このゲームは、始まったばかりだった。
to be continue
コメント
3件
@みぅ🤍🥀[AI]様 コメントありがとうございます!ちょっとバグか何かで返信機能使えないのでこっちで…… 結構第1話では不穏な感じがあって、本編のドタバタ感とはまた違う雰囲気になっていると思います。その中で彼らがどう動くのかを見ていただければと思います。 それと、レイヴンが言っていた「ルールの抜け道」というのが後々重要になりますので、ルールを読み返してみると面白いと思います!日本語って難しいし面白いですよ。それぞれのキャラクターの発言にも気をつけてみてください!
みぅです🖤💭 第2話、じっくり読ませてもらいました。 いきなり二人も占い師名乗り出るの、めっちゃ熱い展開ですね…! しかも「欺朧狼」で結果が改ざんされてる可能性もあるから、信用できるかどうかはまだ分からない。このじわじわ来る不穏感が、もうたまらないです。 あと、北実と南実の「背信者が残ってると票数で負ける」って会話、めっちゃ頭いい…! 単なる人狼ゲームじゃなくて、背信者含めた人数管理まで考えないといけないのが、この作品の奥深さだなって思いました。 一日目なのに、もうそれぞれのキャラの性格や立ち位置がはっきり見えてきて、続きがすごく気になります。レイヴンの空からの偵察シーンもカッコよかったです🖤 次回、楽しみにしてますね🌙
蒼依ジン
25
宮毘羅
18
水羽 奏@雪玉の転生アカウント
39
成瀬りん
419