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エピローグ
第七話 小さな誓い
入口を覆っていたボロボロの布をめくり、二人で中に入る。
薄暗く湿った土の匂い。
変わらない暖かい空気。
「 魔石灯、もうこれが最後やねん…」
そう言ってダイチは、懐から取り出した小さな明かりを灯す。
淡い光が小さな空間を照らした。
照らされた木箱や、並べられた瓶が影を落とす。
二人は肩を並べて腰を下ろした。
「やっぱ狭いなぁ」
「あ!今度来る時はさ、”デンキ”持ってこようよ」
「あぁ!シュンタが見せてくれたやつな!」
「今度市場に買いに行こう」
顔を見合わせ笑う。
昔と同じように。
パンを頬張る。
笑う。
話す。
昔と何も変わらない。
なのに、肩が触れるだけで少し意識してしまう。
指が触れるだけで胸が跳ねる。
そんな自分達が少し可笑しかった。
やがてお腹がいっぱいになる。
暖かな空気に包まれ、眠気が襲ってくる。
「また前みたいに、眠っちゃいそう……」
ジントが小さく欠伸をしながら呟く。
「ええよ」
ダイチはそっとジントの頭を引き寄せた。
肩にもたれ掛かった重み。
温かい体温。
安心しきったように目を閉じる。
長い睫毛が伏せられる。
しばらくすると、規則正しい寝息が聞こえ始めた。
ダイチは思わず笑う。
「ほんま寝るん早いな……」
小さく呟く。
返事はない。
秘密基地の中は静かだった。
外で揺れる木々の音。
時折聞こえる鳥の声。
そして、隣から聞こえる穏やかな寝息。
それだけ。
ダイチはしばらく何もせず、ただジントの寝顔を見ていた。
淡い金色の髪。
長い睫毛。
白い肌。
そこに映える、淡紅色の唇。
穏やかな寝顔だった。
昔から何度も見てきたはずなのに。
今は胸が苦しくなるほど愛おしい。
そっと息を吐く。
そして、懐へ手を入れた。
小さな箱。
何度も開いては閉じた箱。
旅の途中もずっと持ち歩いていた箱。
掌がじんわり汗ばんでいる。
「……緊張するとかアホやろ……」
自分で自分に呆れる。
魔物の群れに突っ込む方がよっぽど楽だった。
けれど、今は手が震えていた。
箱を開く。
中には小さな指輪。
月色の石が、魔石灯の灯りを受けて静かに輝く。
ーー綺麗やな……。
そう思う。
でもその石より綺麗やと思う奴が、今隣で寝とるんやけどな。
思わず苦笑する。
ダイチはそっとジントの右手を取った。
細い指。
昔はもっと小さかった。
森で遊んで。
薬草を摘んで。
傷の手当てをして。
一緒に大きくなった手。
その手を見つめる。
胸がいっぱいになる。
本当は、もっとちゃんと渡したかった。
格好良く。
堂々と。
ジントの目を見て。
言葉も添えて。
でも、無理や。
絶対無理や。
今だって心臓がうるさい。
もし起きてたら、たぶん何も言えへん。
だから。
せめて今だけ。
眠っている間だけ。
そっと指輪を持つ。
薬指へ近付ける。
そこで一度手が止まった。
……嫌やったらどうしよう。
ふとそんな考えがよぎる。
いや。
嫌なわけない。
頭では分かっている。
分かっているのに。
怖い。
自分でも笑ってしまう。
今さら何を怖がっているんだろう。
ジントはちゃんと想いを返してくれたのに。
お互い、命を懸けて呼び戻したのに。
それでも。
好きやから怖い。
大切やから怖い。
ダイチはぎゅっと目を閉じた。
そして意を決したように目を開く。 ゆっくりと指輪を通す。
ーーするり。
驚くほど自然に収まった。
ぴったりだった。
その瞬間、胸の奥が熱くなる。
「……似合っとる」
思わず声が漏れる。
ジントは起きない。
静かな寝息だけが返ってくる。
ダイチはその指をそっと包み込んだ。
薬指に光る月色の石。
それはまるで、ようやく辿り着いた未来みたいだった。
「これからもずっと……」
小さく呟く。
照れ臭くて。
本人が起きていたら絶対言えない言葉。
だから今だけ。
眠るジントへ向かって。
「俺の傍におってな」
ダイチは優しく微笑んだ。
そしてもう一度、薬指の指輪を見つめた。
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コメント
7件
なんかダイチらしくて可愛いですね🤭︎💕 指輪を買った時からいつ渡すのか気になってました!ジントは眠っちゃってるけどやっとこ渡せたんですね!
きゃーーーーっ!!!!!!!!! なんて、なんて素敵な指輪の渡し方!!!💘🥳🎉 朝から素敵なシーンを見させてくれてありがとうございます😭

素敵…指輪、いつ渡すのか気になっていました!