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わたしのこと「グズ」とか「生意気」って思ってるのは本当だと思う。
けど、わたしのこと、ちゃんと「お店の一員」って思ってくれているんだね…。
ありがとう…晴友くん。
さっき、はぐれないようにしてくれた時も思ったけれど、
晴友くんは、ほんとはやさしい人なんだよね。
お客さんに見せていたやさしさは、演技でもなんでもなくて、晴友くんの本当の姿…。
ねぇ、晴友くん…。
わたしこれからもがんばるから…がんばって、あなたに認めてもらえるようになるから…
そしたらいつか、あなたに『好き』って伝えてもいい?
ずっとずっと大好きでした、って伝えてもいい…?
「ね、晴友くん」
「ん」
「指ももう平気だし、その荷物、少し持ってあげようか」
わたしは晴友くんとわたしの間に置いてある荷物を指差して微笑んだ。
「は?いいよ、こんなの重くないし」
「だって美南ちゃん言ってたんだもん。『晴友はケーキに対して以外は乱暴だから、荷物を持たせるのが不安』って。だから、これはわたしが持ちます」
と、荷物を膝の上に乗せると、わたしは少し晴友くんとの距離を縮めるよう座りなおした。
「…ったく。…そういう所が生意気だって言うんだよ」
と、ぶっきらぼうに言うと、晴友くんは諦めたように溜息をついて、そして、ちょっと口端を上げた。
わ…晴友くんが…笑った…。
わたしに笑ってくれた…!
それは、ほんの10センチ程度の距離。
でもわたしには、とってもとっても大きな前進だった。
「ところで…美南ちゃんたち遅いね。すぐそこのお店に行ったのに、まだかかってるのかな?」
「レジが混んでるんだろ」
でも、もう20分は経っている。
とそこで、チャラン、とラインが鳴った。
『ごめーん、急用思い出したから、別の出口から出て地下鉄乗っちゃった!買い物はこれで終わったから、後はふたりで自由にしていいよ!』
え…?
晴友くんも同じようにあんぐりしている。
「まっじありえね、あのバカども…余計なことを…」
余計な?
怪訝に思ったところで、晴友くんが勢いよく立ち上がった。
「帰るぞ」って言うのかな?
もわっ、と胸がうずく。
ごめんね、美南ちゃん拓弥くん。わたし、正直「やった!」って思っちゃった。
だって晴友くんとふたりっきりになれたんだもん。
けど、晴友くんはこのあとお仕事だし、もう帰りたいかな…。
「…日菜」
「は、はい?」
「おまえこの後空いてるか?家には大丈夫か?」
「あ、うん大丈夫。今日はアルバイトあるって言ってあったし」
「そっか。…じゃあ、これから飯でも食いに行く?」
え…!?
思いがけない誘いに胸が高鳴った。
「え、だって…晴友くんこの後もお仕事でしょ?疲れてない…?」
晴友くんは、わたしを見ずにぶっきらぼうに続けた。
「いいよ別に。どっちにしろ食ってから行こうと思ってたし。…って、べ、別に嫌ならいいけど…!美南も拓弥もいないし、俺といても面白くないかもしれねぇけど」
「そんなことないよ!!」
…しまった。
ついうれしくて叫ぶように言ってしまった。
そしたら、晴友くんの方がもっとヘンな反応をした。
顔を真っ赤にして、怒ったようにそっぽを向いてしまった。
「…じゃあ早く、ついてこいよ」
そしてそのまま歩き始めてしまった。
スタスタと人混みにまぎれこんでいく高い背を、わたしはあわてて追いかけた。
※
晴友くんはどんどん先に行ってしまう。
わたしよりずっと足が長いし、いつも動きはキビキビして速いし…それに帰宅ラッシュと重なって、人がさらに増えているから見失いそうになる。
待って…!
って叫びたくてもできない…。
晴友くん、晴友くん…!
そうしたら、念じたのが届いたみたいに、くるりと晴友くんが振り向いた。
良かった…!
とほっとしたのも束の間、横断歩道からやってきた集団に阻まれてしまう。
わーん、晴友くーん!!
思わずぴょんぴょん飛び跳ねる。
集団が通り過ぎると、晴友くんが呆れた表情を浮かべて、そばに来てくれた。
「…ったくなにやってんだよ、グズ」
「ご、ごめんなさい…!晴友くん足が速くて…。それに人も多いから…」
「まぁ、確かにこの時間じゃな…」
晴友くんは溜息まじりにあたりを見回した。
そして、
「仕方ねぇな…」
と、乱暴にわたしの手を握ると、歩き出した。
引っ張られながら足早に歩くわたしは、目の前の光景に目を疑った。
わたし、晴友くんと手つないでる…。
夢、じゃないよね…?
わたし今、好きな人と手繋ぎしてる…!
うれしいよぉ…。
と言っても、晴友くんの握る力はとても弱かった。かろうじて引っ掛けているくらい…。
これじゃあ、ちょっと人にぶつかったらほどけちゃいそうだった。
そんなの嫌だな…。もっともっと、この時間が続いてほしいよ…。
ぎゅと、わたしは強く晴友くんの手を握った。すると…
ぎゅう…って、晴友くんがさらに強く握り返してくれた…。
びっくりして、うれしくて…今度は胸がぎゅっと締めつけられた。
晴友くんの手は、夏だというのに冷たかった。
けど、身体が火照るわたしには、むしろ心地よかった…。