テラーノベル
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気づいたら俺は知らない空間にいた。どこまでも続く真っ白で何も無い空間。
打ったはずの頭は不思議と痛くなかった。
(……なんだよ、ここ)
起き上がって辺りを見回すと、あの忌まわしいおっさんもいた。おっさんは起き上がるとすぐに大声を張り上げる。
「んだよ!!! ふざけんな」
すると、目の前に神々しい光を纏った女性が現れた。
「誰だよ、お前!」
「私はこの世界の神です。貴方たち二人とも命を落としました」
「はぁ!? 死んだって???」
相変わらずおっさんは怒鳴り散らしている。
(死んだ……?)
俺は即座に家族のことを思い出す。
(俺が死んだら……家族はどうなる……?)
一番下の弟がついに就職した。もう学費に困ることもない。
(それに俺が死ねば、会社から手厚い労災と死亡保険金が下りて、母さんの老後も安泰なんだよな……)
家族のことを思い浮かべながら、 震える手を強く握りなおす。
(思い残すことはないはずだ……でも……)
「実は貴方たちにお願いがあるんです。世界を救って欲しいのです。魔王に侵食された世界を救ってください。魔物と魔王を倒すのです」
(魔物と魔王……?無理だろ、そんなの)
「けっ!! そんな言うこと聞いてられっかよ。俺様はとっとと元の世界に戻るぜ」
おっさんはまだ怒鳴り続けている。
「死んでしまった肉体は元に戻せません。もし私の願いを叶えてくれるのなら、次の世界で役立つスキルと願いごとをひとつ叶えましょう」
「なんだと!?」
おっさんは女の方を向く。
「貴方は生前、どんな力がありましたか?」
「俺様はなぁ、腕っ節には自信があるんだ。今はこんな姿だけどよ、若い頃はそりゃあ美人にモテモテで……」
(嘘つけ)
俺は心の中で思わずツッコミを入れてしまった。どう考えても油にまみれたあの顔からは、モテている姿が想像できない。
「腕っ節ですか。いいですね。それでは貴方には剣聖というスキルを付与しましょう。」
「剣聖? 強いのか、それは」
「はい、最強のスキルです。願い事はどうしますか?」
「若い頃に戻してくんねぇかな、どうせ強くなるなら若返りてぇ」
「はい、昔はどんな姿でしたか?」
「身長は180cmで、スラっとした体つきで、顎もシュッとしてな。髪はサラサラの金髪で……」
#恋愛
ばたっちゅ
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雪 @無期限休暇中
37,669
モブD
66
21
(絶対嘘だろ)
今の姿からは想像できない容姿を話し始め、俺は呆れた顔をした。すると、おっさんの体が眩しいほどに光り輝き、姿が変わっていった。
「おぉ!! 体が軽い!!」
その姿を見て、俺はぎょっとした。おっさんの姿が、先程の希望通りの姿になっていたのだ。
(おいおい、マジかよ。本当に叶うのか……!)
「貴方は勇者になるといいでしょう。剣と盾もお渡しします」
キラキラのイケメンになったおっさんの服装が変化し、勇者の見た目になった。
「これが、俺様の姿……!」
「次の世界では何て名乗りたいですか?」
「俺様は粕谷カズヤ……いや、カイザーだ!!」
(さすがに痛すぎるだろ……)
心の中で突っ込んでいると、女がこちらを向いた。
「貴方はどうしますか?」
「あぁ、俺はユウトでいいっすよ」
「ではユウト様、希望の願いとスキルを……」
俺は考えた。正直新しい世界でやりたいことなんてない。それに、新しい世界とやらで何かに縛られるのは嫌だ。
……そして何よりも、残した家族が気がかりだった。
「……俺は」
拳を握りしめた。そして、覚悟を決めたように話す。
「残した家族に、一生遊んで暮らせるくらいの幸運と金を送ってやってください」
呟くように小さな声だった。
「……弟も就職決まって、これからは兄貴の自由に生きてって背中押してくれましたし。あいつらが俺の分まで笑って暮らせるなら、それでいいっす」
「随分とすごいことを言いますね。可能ではありますが」
(……よかった)
ほっと胸を撫で下ろす。
「あ、魔王は倒してくださいね。スキルはどうします? 生前得意だったものは?」
(得意なもの……)
俺は家族のために、家事と便利屋の仕事に打ち込んだだけだ。来る日も来る日も歯を食いしばって、掃除したり草むしりしたり。
「……ありません」
「それは困りましたねー。付与できるスキルがありません。何か本当にないですか?」
必死に思い出す。
何かなかったか……
(俺は、美味しいご飯を作って喜ぶ弟たちの顔を見るのが好きだった。部屋を綺麗に掃除して喜ぶ母の顔が好きだった。)
「……家事」
「か、家事!?戦闘スキルではないですね……ん、まぁ、なんとかスキルとして家事を用意しますねっ」
(待て。家事スキルなんて役立つのか? 魔王を倒すとか言ってなかったか……?)
「待って、やっぱりスキルは……」
言いかけた瞬間、俺とおっさんの体が眩い光に包まれた。
そう、俺は家事スキルという何に役立つかわからないゴミスキルで、この異世界に転生してしまったのだ。
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