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ミケイラ
#ギャグ・コメディ
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俺が埃を取れば取るほど、彼女の体はビクビクと跳ねる。次は、棚の奥にハタキを突っ込み埃を絡め取る。
「あぁんっ♡ そんな奥まで……っ♡」
その声を聞いて、俺は大きくため息をつく。
(どう聞いても、別の行為だろ。これ……)
毎回こうなるのは、一体どういうことなんだ。こんなスキルを付与した神様に、文句を言いたくなる。
(……ん?)
磨き上げた古い盾や剣が、新品以上の輝きを放つ。綺麗になっただけではない。
光が収まった後、武器が虹色の薄い膜を纏っていた。
(……気のせいか。まぁ、綺麗になったからいいか)
ハタキを動かしていると、ふと彼女自身も全身埃まみれなのに気づいた。
「……ってか、あんたの服も埃まみれじゃないっすか。ちょっとじっとしてて」
俺は、彼女の大きな胸の谷間や太もも周辺を、ハタキでパタパタと払い落とす。
光に包まれながら、彼女は一際甲高い声をあげた。
「ひゃんっ!? な、なに……っ、あっ、あぁぁぁぁぁんっ♡」
彼女は体を震わせながら、そのまま座り込んでしまった。
あまりに切実な絶叫に、武器屋の前を通りかかった人が次々と集まってくる。
「おい、ここって武器屋だよな? どんなハードな修行してるんだ?」
「いや、店から光が漏れてるぞ……。浄化魔法の儀式か……?」
「待て、今の声……修行のレベルじゃないだろ! 昼間からなんて破廉恥な……!」
俺は集まってくる人を無視して、仕上げの雑巾を取り出し、完全に真顔で目の前の汚れと戦っていた。長年積もってこびりついた盾の汚れを、手に力を入れて拭きあげていく。
「あ、いや。こびりついた埃なので強めに擦らないと落ちないんすよ」
「ひゃんっ、もっと、もっと強く……っ♡」
俺が強めに擦れば擦るほど、彼女の反応は強くなっていく。
俺は気にせずに、床の雑巾掛けまでしていった。便利屋時代、ゴミ屋敷の清掃で培った、無心で汚れを落とす集中力だ。
――
夕日が沈む頃、武器屋の店内はピカピカに綺麗になっていた。
(カイザーのおっさんの部屋みたいに、散らかってなかったからよかった。思ってたより早く終わったな)
部屋の中を見渡すと、魔物の瘴気とやらはもうなくなっていた。口元につけたハンカチを取ると、澄んだ空気が肺に入ってくる。
「ふぅ……」
額の汗を拭う。
「よし、完了っす」
やりきった充実感。どれだけ理不尽な世界に来ても、最後に見るこのピカピカの空間だけは俺を裏切らない。
俺は満足げに、虹色の輝きを放つ剣を見つめた。
体に残る疲労感と引き換えに、綺麗になった部屋を見るのは幸せだ。不思議と笑みが溢れる。
彼女の方を見ると、床に寝転んでいた。
服が少しはだけて、完全に放心状態で顔を真っ赤にしている。足をピクピクと痙攣させ、荒い息を必死に整えていた。
「おい、終わったっすよ」
「はぁ、はぁ……こんなの初めて……体が動かない……」
彼女は焦点の定まらないトロンとした瞳で、床に転がったまま俺を見上げる。
その潤んだ瞳と、乱れた服の隙間から覗く白い肌。俺は大きくため息をついた。
(……いや、これ完全に誤解されるやつだろ)
「……あの」
突然、女の子から話しかけられた。
「ありがとう……鼻のムズムズが治まったよ」
「あ、あぁ……ならよかったっす」
まるで事後のような多幸感のある表情をして見つめられ、俺はそっと目線を外した。
「こんなに綺麗なお店、見たことなかった……私、サフラン。貴方の名前は?」
「お、俺っすか? 俺はユウト」
「ユウト……ふふ、変わった名前ね」
(この世界だと変わった名前なのか……)
サフランは力なく微笑むと、そのまま満足げに目を閉じてしまった。
(……いや、寝るなよ。せめて服を整えてからにしてくれ)
彼女を起こそうとした瞬間、店の扉が勢いよく開き、大きな影に視界を遮られた。
「サフラン! 瘴気で倒れたって聞いて急いで戻って……」
店に入ってきた男の言葉が止まる。
男の視線の先には、これまでにないほどピカピカに輝く店内。
そしてその中央で、服をはだけさせ、顔を赤らめて床に横たわっているサフラン。
その横で、額に汗をかきながら立ち尽くす男。
――すなわち俺。
「……あ」
俺の脳裏に最悪な予感が走る。
「……おい貴様。俺の可愛い娘を、こんなにトロトロにして……何をしてくれたんだ?」
「はい……? いや、掃除を……」
目の前に現れたのは、顔に大きな傷がある筋骨隆々の男だ。
口ぶりから武器屋の店主で、サフランの父親だろう。父親の顔は怒りで真っ赤になっていた。
(うわー、すごい怒ってるな、これ)
父親は腰につけた大剣を抜いた。刃先がこちらに向けられる。
「掃除だぁ!? そんな姿にさせておいて、よくもそんな白々しい嘘を!! ぶち殺してやる!!!」
俺はため息とともに大剣を見上げた。
(……やれやれ、そのへんのクレーム客より面倒そうだ)