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「俺の娘を汚しおってぇぇぇっ!」
大剣が振り下ろされる。俺はギリギリのところでかわした。
(あ、危ない……っ)
あまりの風圧に背中がゾクリとする。喰らえばひとたまりもないだろう。
(でも……)
男は次の一手を繰り出す。だが、動きがスローモーションのように見えた。
刃が向かう先が見え、俺はスっと体をズラす。
ドガァァァァァン!!
爆音とともに床と棚が破壊された。
木の屑が床に飛び散る。俺はそれを見て軽くため息をついた。
(あぁ……また片付けて掃除しないといけないな)
次から次へと繰り出される剣技。俺は不思議と全て見切ることができた。
(あぁ、そうか)
目の前に繰り出される大剣を見つめながら思う。
(怒り狂ったおっさんの相手は、沢山してきたもんな……)
あまりにも体に染み付いたクレーマー処理技術。異世界でまさか役に立つとは。
自嘲するように笑うと、男は狂ったように叫び出す。
「ちょこまかと……! なぜ避け切れるんだ……!?」
男は大剣を握り直して構えた。
空気が一瞬にして変わる。まるで全身に刃を突きつけられるような殺意が、肌に刺さった。
(なん、だ……!?)
明らかにただ事じゃない。全身に鳥肌がたった。
(役立たないかもしれないけど……使うしかない!)
「……家事スキル」
ボソッと呟くと、手から光が放たれる。
出てきたのは大きなほうきとチリトリ。
右手でほうきを握り、左手にちりとりを盾のように構える。そして目の前の男を睨んだ。
「この技を使うのは久しぶりだ。……小僧、褒めてやるぞ」
「お父さん、やめてっ!!」
サフランの叫び声が耳に刺さる。男はその声を無視して、剣を大きく振りかぶった。
「奥義――剣花の舞」
男が一歩踏み出した瞬間、近くにあった棚が切り刻まれていた。
だが今度は止まらない。絶え間なく繰り出される剣が、周囲を壊し続けていく。
「オラぁぁぁぁぁっ!!!」
ガラガラと崩れ落ちる棚と商品。
細かな木屑が宙を舞う。
「あぁ、せっかく掃除したのに。追加料金請求するっすよ」
俺はほうきを強く握る。するとほうきから光が放たれていく。
連続で繰り出されるとはいえ、大剣の軌道は読みやすい。その隙間を縫って、破壊された棚の木屑を掃除していく。
掃除した箇所が淡く輝き、その光が男へと広がっていく。
「くぁっ……」
男の動きが止まる。ハッとして確認すると、顔を赤らめていた。
足をガクガクと震わせている。
「お、おかしい……なんだ、この感覚は」
(やっべ……)
ほうきを握る手を軽くすると、光が落ち着いた。男を包み込む光も消える。
(ふぅ、危ない。おっさんを絶頂させるとこだったぜ……)
男は大剣をおろし、不思議そうに辺りを見回す。
「空気が澄んでいる……店内の瘴気が消えている」
男は足元を見て、戦慄した。床に散らばっていたはずの木屑が、一欠片も残っていない。あれだけ暴れ回って棚を壊したのに、埃や木屑は舞っていなかった。
「小僧。お前が瘴気を浄化したのか」
「あぁ……そうっすよ。これで許して貰えないっすか?」
俺は軽く返すが、内心ヒヤヒヤだ。次、暴れられたら避けきる自信がない。
「体が軽い。まるで昔に戻ったようだ……だがな、小僧」
「!?」
目の前の男が剣を構え、握る手に力を加える。
メキメキという音と共に、筋肉が肥大化していく。
(待てよ、なんだよあれ……!)
「再びこの姿になれたことには礼を言う。……だが、素性の知れぬ男に、ワシの大事な娘は渡さぬ!!」
怒声がビリビリと頭に響く。怒気が波のように押し寄せてくる。
その瞬間、男が大剣を振りかざした。
(避けきれなっ……!)
ガキィィィィンン!!!
凄まじい金属音が鳴り響く。
恐る恐る目を開けると、サフランが店に飾ってあった重い大剣で、男の一撃を受け止めていた。
「やめて、お父さん! この人は命の恩人なの!」
彼女の悲痛な叫びが響く。
「サフラン……お前、その大剣を……体は、体は大丈夫なのか!?」
「ユウトがお店を掃除してくれたおかげで、体が凄く軽いの。咳もくしゃみも出ないし、息も苦しくないの!」
「な、なんと……」
男は手に力が入らなくなり、大剣を地面に落とした。冷たい金属音が部屋に鳴り響く。
「サフラン……」
娘の元気な姿を見て、滝のようにボロボロと涙を零した。
「治ったのか……本当に治ったのか……!」
男はその大きな体でサフランをそっと抱きしめた。
俺はほっと胸をなでおろす。
「誤解が解けて良かったです、お父さん」
俺が思わずそう呼ぶと、男がピクリと反応した。
「そう呼ぶのはまだ早いぞ、小僧」
男は、突然真顔になってこちらを睨みつけてきた。全身に緊張が走る。
「店内の瘴気を祓ったことは深く感謝する。……だが。それとこれとは話が別だ。大事な娘を預けるのだ。貧弱な男など絶対に認めん!」
(待ってくれ、話が飛躍していないか?)
「小僧には試練を与える!」
「し、試練……?」
声が震える。正直そんなこと想定していなかった。ごくりと唾を飲み込む。
「村の外に生息する小型龍を倒し、爪と鱗を持ってくるのだ。力を証明せよ。貧弱な男に娘は嫁にやらん!!」
「いやー……俺はただの便利屋っすので危険作業はお断りっす……あと別に娘さんと付き合ってるわけじゃ」
言いかけた瞬間、サフランに後ろから力強く腕を掴まれた。俺は目を見開いた。
「行こう、ユウト! 今の私なら勝てるよ!」
振り向くと笑みを浮かべて、こちらを見つめてきた。純粋な笑顔に頬が僅かに熱くなる。
(ちょっと待て。本気で行く気か!?)
気づくと俺はサフランに引きずられていた。
「いや、引っ張る力強いって!? ちょっと待てぇぇー!!」
家の外まで俺の叫び声が響いていた。