テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
〖世界一綺麗なクリスマス〗
✄ - – - – - – - – - – - – - – - – - –
①
名前:奏 / カナデ
年齢:16歳
性別:男性
口調:標準語
セリフ:「」
②
名前:輝哉 / テルヤ
年齢:16歳
性別:男性
口調:標準語
セリフ:『』
③
役割:看護師
セリフ:〈〉
✄ - – - – - – - – - – - – - – - – - –
〔 奏視点 〕
「今日も来たよ〜!」
声をかけると、輝哉は机の下から椅子を引っ張り出して、こっちに向けてくれた。
それだけのことなのに、なぜか胸が痛い。
沈黙が怖くて、口を開く。
「ねー、てるやって何色が好き?」
『なに急に、笑』
咳がまじった笑い声。でもちゃんと、答えてくれる。
『青…かなぁ』
「そ〜なんだっ!」
輝哉は笑っていた。
口角は上がっているのに、目の奥が笑っていない。
何かを堪えるみたいに、唇をきゅっと結んで。
「冬と夏はどっちが好き?」
『夏。でも今年の夏はもう終わったな』
笑いながら言った。
窓の外、冬の空が白かった。
俺は、笑えなかった。
気まずくて、逃げるように「またね」とだけ言った。
『ぁ、うん…また、明日』
扉を閉めて、すぐに壁に背をつける。
ノートを開いて、震える手で書く。
丁寧に。明日の自分が読んでも分かるように、丁寧に。
このノートはもう、かなりくたびれている。
何度も折られたページ、じわっと滲んだインク。
違うページに同じことが書いてあったり、
日付と曜日がずれていたり、
ページごとに字の癖が少しずつ違う。
〈あ、奏くん〉
顔を上げると、看護師さんが立っていた。
〈今日も輝哉くんに会いに来てくれてるんだね。〉
〈こっち、机あるの忘れちゃった?〉
……どのページにも、この人のことは書いていない。
名前も、机の場所も、何も。
愛想笑いを返して、俺は病院を飛び出した。
受付のロビーで、ツリーの飾りつけをしているスタッフが見えた。
そういえば、輝哉の部屋のカレンダーに、赤丸がしてあった。明日がクリスマスだ。
輝哉に、サンタさんは来るのかな。
✄ - – - – - – - – - – - – - – - – - –
朝の光が、カーテンの隙間から差し込んでくる。
枕元にノートがある。
なぜかはわからない。でも手が、自然に伸びていた。
何度も折り目のついたページを開く。
きっと俺が書いた、昨日までの自分の文字。
一番上に、大きく書いてある。
「目標!!輝哉を満面の笑みにする!!」
読み進める。
「毎日、入院中の輝哉に会いに行く」
「輝哉は青が好き」
「俺が輝哉のサンタさんになる」
自分で書いたはずなのに、他人の日記を読んでいるみたい。
でも、この文字は確かに俺だ。俺が、昨日ここにいた。
声に出して、復唱する。
頭に叩き込む。
足は勝手に、病院に向かって動き出した。
街はもうクリスマス一色だった。
綺麗に飾られたツリーやイルミネーション。
すれ違う人たちが、来年の話をしている。
輝哉には関係ない。
来年なんて、俺は考えたくない。
視線を足元に落として、病室に向かう。
扉の前で、足が止まった。
今日は、名前を呼ぶのが怖かった。
それでも、悲しませたくないって気持ちのほうが、少しだけ強かった。
「てるや〜!今日も来たよ〜!」
輝哉は、少し目を見開いてこちらを見た。
病室には小さな飾りと、控えめなBGM。
病室の机の上に、
昨日の俺が置いた青色のネックレスがあった。
「青が好き」
俺が、忘れないための目印みたいな色。
今日、これを渡す理由は一つだけだった。
「メリークリスマス。奏サンタだよ」
差し出すとき、手が少し震えた。
これはプレゼントじゃない。
俺が、今日ここに来た証拠だった。
差し出すと、輝哉は一瞬固まった。
『ぇ、俺に…?』
輝哉はネックレスを胸元に当てるように握り、
離さないまま、指を少しだけ丸めた。
ほんの少しだけ息を止め、青い輝きを抱きしめるように。
涙が、静かに落ちた。
俺は、何も言えなかった。
でも、この涙が『嬉しい』だけじゃないことだけは、痛いほどわかった。
明日が来るのが、少し嫌だった。
面会の時間が終わって、廊下に出る。
今日も、『また明日』を交わした。
壁に背をつけて、ノートを開いた。
震える手で書く。
「輝哉に青のネックレスをあげた」
「泣きながら、笑ってくれた」
窓の外、街のイルミネーションが暗い空に滲んでいた。
冬の空気が、病院の廊下にまで染み込んでくる。
その光の中に、輝哉の笑顔が重なって見えた。
覚えていられない幸せが、
世界一、綺麗に思えた。
明日の病室は、この瞬間を知らない。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!