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しばらく歩いていると、人だかりができていた。
どうやら、ドラマか何かの撮影現場みたいだ。
これほどの人だかりってことは、相当有名な芸能人か誰かがいるのか。
「わぁ、なんだろう?」
日菜も興味が湧いたようだ
「ちょっとだけ見て行かない?」
「急いで帰らなきゃいけないんだろ?」
「ちょとだけ」
ねだってくる日菜なんて初めてだ。
俺は引っ張られるように人混みに割って入っていった。
「はいカット!!」
撮影現場が見えるところにまで割り込んだ時には、撮影はちょうど終わっていて、出演者たちを見ることはできなかった。
「カンナちゃんすっごいかわいかった―!」
「生で見るともっと美人だなー」
カンナ?
野次馬達の言葉に、俺は耳を疑った。
日菜も間違いなく同じ名前を耳にしたようだ。
「『カンナ』ってもしかして、あの今人気急上昇の愛本カンナちゃんかな?わぁ、わたしあの人大好きっ。すごいキレイだけど、たしか同い年だよね?」
「…ああ…だったかな」
「残念だなぁ。見てみたかったな」
スタッフが片付け始めると、少しずつ野次馬が引いていった。
大きなロケバスが姿を現した。
もしかしたらこれが役者の待機場所なのかもしれないな。
ま、どうでもいい。
「早く帰るぞ、日菜」
と、ロケバスの横を通り過ぎようとした時だった。
「晴友!?」
突然、女の声に呼び止められた。
誰だ?知り合いか?
「こっち!こっちだよ!」
声がした方に振り返って、驚いた。
「あーやっぱり晴友だーっ!やっほー!!」
「か、環奈!?」
ロケバスの車窓から、俺に手を振っていたのは、今を時めく人気タレント愛本カンナーーーもとい、俺の幼馴染の三木環奈(みきかんな)だったからだ!
「こんなところに晴友に会えるなんてっ!!」
カンナはロケバスからあっという間に出てくると、勢いよく俺に飛びついてきた。
このハプニングに、残念そうに帰ろうとしていた野次馬たちが気づいて俺たちの周りを囲んだ。
けど、カンナはお構いなしだ。
「元気だった?晴友っ?」
「ひっつくなよ!みんな見てるだろっ」
「だって、ちょーうれしいんだもん!」
と抱き付くカンナ。
おおお!と野次馬から興奮した声が飛ぶ。
こんなことして立場的に大丈夫なのか!?…ってんなことよりも…!
日菜を見た。
日菜は困惑気な顔をしながらも、ぎこちない笑顔を作った。
「…わぁすごい晴友くん…カンナちゃんと知り合いなの…?」
カンナはまじまじと日菜を見つめると、やたらわざとらしい大声で言った。
「知り合いもなにも、私、芸能界入りするまでは晴友と付き合ってたのよ」
「お、おい!?」
「えーだってそうじゃない!」
日菜の顔から笑顔が消えた。
俺は悲鳴に近い声で否定した。
「ち、ちがうぞ日菜!こいつはただの幼馴染だ」
「ひっどーい晴友ってば!祥子ちゃんに鍛えられながら苦楽を共にして、あーんなにラブラブだったのにっ」
「はぁ!?お前、さっきから嘘ばっかり並べ…」
先を言わせないように、頬に温い感触があたった。
おおおと歓声がさらに高まる。
カンナが俺の頬にキスをしやがった…!
#ファンタジー
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思わず見やると、強張った表情の日菜が…。
やばい…絶対に勘ちがいされてる…!
「ちがうんだ日菜、俺たちは」
「…やっぱり…そうなんだ」
やっぱり?
やっぱりってどういうことだよ、日菜…?
くしゃり、と日菜の表情が崩れた。
笑ったはずなのに、泣いているみたいな笑顔だった。
「…よかったね。彼女さんと再会できて。すごいな…芸能人だなんて…」
「だからちがう!こいつはただお」
「わたし、ひとりで帰れるから、ここでお別れするね…!」
踵を返すと、日菜はあっという間に野次馬にまぎれてしまった。
「待て…って、日菜!!おい、はなせよカンナっ!!」
「いいじゃない!ねーまだお家の手伝いしてるの?みんな元気?祥子ちゃんは?拓弥も美南も暁兄も元気??」
意地でも俺を離そうとしないカンナの目は、すがるように真剣な眼差しを向けている。
突き放すことができず、日菜の行方に気をとられながらも、早口で答える。
「ああ、変わらない。みんな元気だ」
「ほんと…?ね、わたし、今度遊びに行っていい?」
「別にいっけど。んなヒマあるんだったらな」
「やった…!」
綺麗にメイクされたカンナの顔に、にじむような笑顔が広がった…んなことよりも、日菜!
「おいカンナ!なにやってんだっ…!」
「げ、マネージャー!」
騒ぎに気づいたおっさんが、こちらに走ってくる。
ぎょっとなって力がゆるんだすきに、カンナの手を振りほどいた。
野次馬の中に目をこらす。
日菜の小さな背中を捜したけれど…どこにも見つけられない。
それでも俺は人ごみの中へ分け入っていく。
「またね晴友っ…!また会いに行くからっ!」
日菜の姿を追い求める俺の耳に、波乱を予感させるカンナの声が聞こえてきた。