柑橘系のアロマの香りを纏い、カット台に着いた。
数ヶ月前に切り揃えたはずの髪は早くも伸びていて、特に気になる前髪を上目遣いに指先で払う。
あと少しの間なら我慢できなくもないが、研修とはいえ、久しぶりに同期達へ会えるというのなら、万全に整えておきたいと思うのはきっと私だけではない。
「いらっしゃいませ、水戸さん。今日は暖かいですね」
声のした方に顔を向けると、椎名が相変わらずの人懐っこい笑みを浮かべて立っている。
その笑みも、もう随分と見慣れた。
何度か担当されるうちに覚えた間合いで、彼が背後に回り、鏡越しに顔を覗かせる。
男性美容師というだけで身構えた最初の出会いが、今では思い出すことが難しい。
人には必要以上に立ち入らないようにしていたはずなのに、そんな私の下へと、椎名はするり、と入り込む。
いっそ無遠慮な距離感を咎める気も起きず************
*********
*************
************************
***************************
**********************
***************************
*********
コメント
1件