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王である、ジオンが訪ねているにもかかわらず、屋敷には警護の姿がみあたらない。
ジオンがそうさせていた。自分だけの秘園に無粋な兵など入れたくないと――。
ミヒの部屋の露台《テラス》は、小さな中庭に面している。
今は山吹の花が、黄色く鮮やかに息吹いていた。
その一角、染まる底木の脇に、女と見まがう若者が立っている。
「あら!」
「申し訳ない。驚かせてしまったかな?」
「本当に。いつもどこからやってくるの?不思議な人ね」
ミヒは、コロコロと澄んだ声で笑うと、立つ露台から若者に、手を差しのべた。
「まだ、ジオンは眠っているわ。ウォル?こちらへ来たら?」
誘いを待っていたかのように、男はひょいと露台の欄干《てすり》を乗り越え、ミヒの隣りに立つ。
「ジオンを……迎えに来たの?」
「いいえ、ミヒ、安心して。私は、ただ遊びに来ただけだから。おや?信じてもらえないようだね?」
こくりとミヒは頷いた。
ミヒは知っている――。
彼が屋敷に来るのは、宮殿で王が必要になったという事だと。
ウォルは、人知れず、ジオンを迎えに来る。そういう役割なのだと、わかっていたが、格好は市井の人間と変わりない。
宮殿に、さらに、王の側に出入りする者ならば、少なくとも文官か武官かを示す束帯を纏《まと》っているはずなのに……。
宮殿には、細かな約束事がある。
当然、それは出入りする者の装いにも及んでいた。