テラーノベル
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路地裏に入ってみると、薄暗くて少しばかり不気味だった。
もし、エッセに襲われても大丈夫なように一応十二村と手は離している。
また俺の意識がなくなったら危ないが……。
もしそうなったら、十二村には逃げてもらおう。
しばらく歩くと違和感を感じた。
この路地裏、なんでこんなに広いんだ?
大抵の路地裏はすぐに行き止まりになることが多い。
だが、この数十分、一度も行き止まりにはたどり着かなかった。
おかしい。
絶対に。
そういえば今までのエッセは海やおもちゃなどだった。
もしかして…この路地裏自体がエッセなのか……?
そう考えると気持ち悪くなる。
急いで出よう。
「おい、十二村ー…一旦帰るぞ」
そう少し後ろにいた十二村に言いながら、振り返る。
すると十二村は俺の方を向き、焦ったような表情へと変わった。
「パイセン!危ないっす!!!」
「は……?」
少ししか離れていなかったので十二村は早く俺の近くへ来た。
そしてそのまま押され、俺は倒れてしまった。
受け身がイマイチ上手く取れず、少し痛い。
「おい、十二村。何があぶない…ん、だ……?」
上半身を起こし、十二村の方へ顔を向ける。
そこには鋭い黒い影と、その黒い影から滴る赤い水、そして倒れている後輩の姿だった。
「は、?十二村……?」
「おい、十二村!!何があった、返事をしろ結!!」
慌てて駆け寄るとまだ浅く息をしていた。
自分の上着を破き、止血をしようとする。
だが、赤い水は溢れるばかりで止まることを知らない。
朝、仕事へ行く時は沢山あった数字が今では0となってしまっていた。
なんでこいつがタヒぬんだ?
神様、なんで俺じゃなくこいつが連れてかれなきゃ行けないんだ?
汚れてしまった俺とは真逆の綺麗なこいつが。
おかしいだろ…。
おかしいという言葉が頭の中でぐるぐるする。
それと同時に、『失いたくない』なんて思いも出てくる。
「ぱい……せん…」
「結、喋るな。今止血を……」
小さく弱い声が聞こえた。
その声に俺は反応し、“十二村”ではなく“結”と名前で呼んでしまう。
救急車を呼ぶという考えはある。
だが、救急車を呼んでしまったら、結の秘密が多くの人間にバレてしまう。
結はバレて日常に戻れなくなるのを怖がっていた。
だから、そうそうに救急車を呼ぶという考えは無くした。
でも、そうとも言ってられない状況でもある。
「ぱ、いせ…ん」
「だから喋るなって……」
「怪我…ないっ…すか………?」
こんな状況でも俺の心配とか……。
笑ってはいけないのに、その言葉だけで口元が緩みそうだ。
いや口元だけじゃない。
目元もだ。
緩んで、透明な水も出てきそうだ。
そんな俺の気持ちも知らずに、言葉を続ける。
ゆっくりと。
「おれ、パイ…センの……役に、た…てた…っすか…? 」
「おれ、そう…だっ…、たら嬉しい…っす」
その言葉が俺が聞いた十二村結の、最後の言葉だった。
コメント
4件
あと小説良かったです! 十二村結がタヒんでしまいそうで焦るが故の名前呼び、あ〜ありそうとか思いながら呼んでました。後編が楽しみです。
あの希咲羅さん、「頭の中をぐるぐるする」のところ「頭の中でぐるぐる回る」の方がいいのでは?と思いコメントしました