テラーノベル
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男の名は、スブタイ。
貧しい鍛冶職人の家に生まれた彼は、若き日のテムジンと出会った。
それは、彼の生涯を決定づける運命の出会いだった。
やがてテムジンのもとで騎兵を任されるようになり、
幾度もの戦いを経て、仲間たちの信頼を集めていった。
幕僚たちの中では、まだ若い方だった。
だが、スブタイには一つ、他人とは少し違うところがあった。
人の心を読むことができたのである。
もちろん、相手の考えが本当に聞こえるわけではない。
表情。
声。
軍の動き。
布陣。
わずかな沈黙。
そうしたものを眺めていると、相手が何を考え、何を恐れ、
次に何をしようとしているのかが、不思議なほど分かった。
だからこそ、スブタイには逆に理解できなかった。
なぜ、他の者には分からないのだろう。
敵がどこへ逃げようとしているのか。
なぜ、そこに兵を置いたのか。
何を待っているのか。
見れば分かるではないか。
そう思っていた。
そんなスブタイと、まるで正反対の男がいた。
ジュベである。
ジュベは、何も考えていないように見えた。
戦の前だというのに冗談を飛ばし、細かな軍議には退屈そうな顔をする。
スブタイが地図を前に考え込んでいると、
「そんなもん、やっちまえばいいんだよ」
そう言って豪快に笑った。
スブタイには、それが理解できなかった。
何も考えずに戦場へ出れば、死ぬ。
戦とは、考えるものだ。
敵の動きを読み、逃げ道を塞ぎ、弱い場所を探し、そこへ兵をぶつける。
ところが――。
ひとたび戦が始まると、ジュベは別人になった。
馬を駆れば鬼神のように敵陣へ飛び込み、
誰に教えられるでもなく、最も脆い場所を見つけ出す。
敵の将が迷えば、そこを突く。
隊列がわずかに乱れれば、その隙間へ突撃する。
敵が退こうとすれば、その瞬間にはすでに退路へ回り込んでいた。
スブタイが何刻も考えて見つけた敵の急所を、
ジュベはまるで獣のような勘だけで見抜いてしまう。
「なぜ、そこを攻めた?」
戦のあと、スブタイが尋ねたことがある。
アドラル皇国
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#日常
寿命㌫(主) 🔮🖤ᩚ
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ジュベは不思議そうに首をかしげた。
「そこが弱そうだったからだ」
「なぜ弱いと分かった?」
「見れば分かるだろ」
スブタイは黙った。
まったく話が噛み合わない。
平時に二人が話をしても、いつもこうだった。
一人は考えすぎるほど考え、
もう一人は何も考えていないように見える。
性格も違う。
物の見方も違う。
戦い方さえ、まるで違っていた。
それなのに――。
不思議と、戦場では誰よりも噛み合った。
スブタイが敵を誘えば、ジュベが待ち構える。
スブタイが退路を開ければ、ジュベがそこへ敵を追い込む。
スブタイが十手先を読んで罠を作れば、
ジュベは説明される前から、その罠の最も重要な場所にいた。
言葉など、ほとんど必要なかった。
戦場に立った瞬間だけ、
二人はまるで同じものを見ているかのように動いた。
その二人を、草原の王テムジンはことのほか愛した。
一人は、戦場そのものを組み立てる男。
一人は、その戦場で敵の喉笛へ食らいつく男。
まったく違う二つの才能。
だが、それを組み合わせた時に生まれる力を、
テムジンは誰よりもよく理解していた。
「スブタイ」
ある日、テムジンは言った。
「お前は戦場を作れる男だ」
そして、隣にいたジュベを見る。
「ジュベ」
「おう」
「お前はそこで暴れてろ」
ジュベは声を上げて笑った。
「ほら、簡単な話じゃねえか」
スブタイは眉をひそめる。
「その戦場を作るのが大変なのですが」
「細かいことを気にするな」
「そこが大事なのだ」
また、話は噛み合わなかった。
それを見ていたテムジンだけが、
腹を抱えて笑っていた。
テムジンが草原を統一し、ジンギス・カーンと呼ばれるようになった。
そして、その偉大な王が世を去った後も――。
二人の関係は、何一つ変わらなかった。
何十年という歳月が流れた。
若かった二人の髪には、いつしか白いものが混じるようになった。
共に戦った仲間も、一人、また一人と草原から消えていった。
それでも二人は、まだ馬上にいた。
そして再び、西へ向かっていた。
今度の遠征を率いるのは、ジンギス・カーンの孫――バトウ。
その大遠征軍の先鋒を任されたのが、
スブタイとジュベだった。
幾千里もの草原を越え、
2つの部族を滅ぼし、
二人はついにヴァンガルド帝国グルジアル領へと姿を現した。
視線の先には、要塞があった。
丘の上からそれを眺めながら、スブタイは黙っていた。
隣ではジュベが、馬上で大きく伸びをしている。
「多いかな」
「どうだろう」
「で?」
ジュベが横目でスブタイを見る。
「どうする?」
スブタイは答えなかった。
ジュベは笑った。
そして腰の剣を軽く叩く。
「最後に殴るところだけ教えてくれ」
スブタイも、わずかに笑った。
何十年経っても、
やはり話は噛み合わない。
この地を治めるのは、ギオルギル。
ヴァンガルド帝国の歴戦の武将である。
東方より正体不明の騎馬軍団が迫っている。
その報せは、遠くヴァンガルド帝都にも届けられていた。
「三万にも満たぬ騎馬兵だと?」
皇帝セヴェリウス・ヴァンガルドは、報告書から顔を上げた。
「はい。二万ほどかと」
「ずいぶん遠くまで来たものだ」
皇帝は小さく笑った。
油断していたわけではない。
東方から現れた軍勢が、
ここへ至るまで二つの部族を滅ぼしてきたことも知っている。
だからこそ南部の諸侯と遊牧民には動員令がすでに出されている
ギオルギルには要塞死守を命じた。
グルジアル領には三万五千の兵がいる。
十分な兵力だった。
少なくとも――
これまで彼らが知っていた戦争であれば。
東方から現れた軍勢が、
ここへ至るまで2つの部族を滅ぼしてきたことも知っている。
皇帝はまだ知らなかった。
敵軍の先頭にいる二人の老人が、
若き日のジンギス・カーンとともに草原を駆け、
4匹の狗と呼ばれた将の2人だと。
スブタイ。
ジュベ。
二人は丘の上から、最初の標的となった要塞を眺めていた
ジュベが口笛を吹く。
「ずいぶん遠くまで来たなあ」
「ああ」
この日、エウロピアは初めて、草原の軍隊と出会った。
そして――
自分たちの知る戦争が、世界のすべてではなかったことを知る。
コメント
1件
おお、第2話はスブタイとジュベの対比がめっちゃ渋くて痺れたわ。考え抜くスブタイと野生の勘で戦うジュベ、全然違うのに戦場だと噛み合うのが熱い。「見れば分かるだろ」のとこでスブタイが黙るシーン、二人の違いが一発で伝わってきた。テムジンが笑いながら見てるのも含めて、この空気感がたまらん。で、最後の「自分たちの知る戦争が世界のすべてではなかった」で止まるところが憎いな。次が気になる🔥