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必死の形相でふゆさんを助け起こした少女が、薙刀を雑乱に振るい、人影を牽制している。
しかし、その切先に力は無い。
ただ恐怖に憑かれ、滅多矢鱈に振り回している格好だ。
これを意に介さず、胡乱な人影がぬるりぬるりと二名の元へ歩みを寄せる。
嫌な予感。 心臓が早鐘を打った。
それを言うな。
その言葉だけは、決して口にしてくれるな。
「さもなくば……、一族郎党 根絶やしにしてくれる」
悲鳴が上がった。
耳を劈くような悲鳴だ。
それに被せて、下卑た笑声が頭の中を掻き乱した。
涙が出た。
憤り、哀しみ、遣る瀬無さ。
あらゆる負の感情が、一気に襲いかかってくるようだった。
知らず知らず、拳を固く握り込んだ所為で、手汗まみれの掌に、爪がふかく食い込んでいた。
これが、これが憎悪かと、私はその時初めて、この胸に伸し掛かる暗いものの正体を知った。
同時に、あの人影の正体も。
あれは言わば妄念だ。
“こうしたい” “ああしたい”
その人物が生前に抱いていた妄執が、形となって顕れたモノ。
“こうしたかった” “ああしたかった”
ただただ、“果たせなかった”欲望が独り歩きした化物。
「姫さま! 姫さましっかり……っ!」
「あぁ………ッ、あぁぁぁぁぁぁ!!」
こうしたかった……、だって?
あの妄念の主は、本当にこんな事を望んでいたのか?
本当に、こんな光景を心から願う人間がいるのか?
分からない、分からない。
そんなの、人間じゃない。 人間であっていいはずが無い。
人影。 あいつが、ふゆさんを虐めてる。
助けたい。助けなきゃ。
本当に?
それが今、本当に私のしたいこと?
「あ……、ちが……う………?」
ふゆさんが泣いている。 泣き叫んで、お父さんを呼んでいる。 お母さんに助けを求めている。
なのに人影は笑ってる。
あいつ……、あいつ………ッ!!
そうだ……。 そうだよ。 そうだった。
赦せない。
私が、いま一番したいこと。
赦せない赦せない!
私は、この手であいつを
「……………っ?」
唐突に、後頭部をポンと軽く叩かれた。
顔を上げる。
よほどヒドい顔をしていたのだろう。友人は眉を八の形にして苦笑いを加えたのち、まるで憑物を落とすような所作で、私の背中をポンポンと打った。
「ごめんなさい……」という、彼女らしからぬ頼りない声音と共に。
「あ………?」
胸間に溜まったどす黒いものが、見る間に洗い流されてゆくのを感じた。
いやそもそも、そのどす黒いモノの正体が、今となっては判らない。
ただ、得体の知れない感情に囚われていたのは確かだと思う。
幼なじみの二名は……、大丈夫だ。
こちらを心配そうに見つめている。
ふゆさんと束帯姿の少女もまた、同じように私の顔を覗き込んで
「え……?」
これは、どういう事だ?