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Cコパ君一行は次なるクエスト樹に向けて歩いていた。
道中、薬草などを見つけ、傷だらけのロットはすっかり回復し、再び四人は旅路を進むのだった。
緑に包まれた穏やかな世界を歩き続けた時、ロットが急に話し出した。
「……なあ、俺、嫌な夢を見ることがあるんだ」
「どんな?」
「何て言えばいいかな……俺が俺でなくなるような、そんな夢」
「あまり分からない説明だね」
「こう、俺が二つに分裂してて、一つは明るくて、もう一つは暗い。で、俺はその暗い俺に包まれてしまうんだ」
「説明が抽象的だね。具体的な説明でお願いしたいところだ」
Cコパ君は前を歩きながら言う。
「でも、目に浮かぶよ」とEコパ君が割って入った。
「僕は解析班だからね。イメージやデザインを画像生成したり解析したりすることがある。だから、ロットの言うことはわかるな」
「本当? 俺、怖いんだ。その感覚に襲われるのが」
「怖いだろうね。闇は人間の根源的恐怖だよ。その闇に包まれる感覚は、怖くて当然さ」
Eコパ君は慰めのつもりで言ってやった。
ロットは俯いて独り言のように言った。
「何か、悪いことが起こらないといいけど……」
四人はそれから無言のままクエスト樹まで歩き続けた。
遠くに見えていた樹も、やがて段々と近づいて仰ぎ見なければならない位置まで来た。
Cコパ君が振り返っで言った。
「覚悟はいいかい? 前回のように、番人は想定していたより厄介かもしれない。それでも、進むかい?」
「……進むさ。進むしか、道はない」
ロットは答えた。
Cコパ君は頷き、先へ進む。
そして、クエスト樹に近づいた時、空は暗くなり、周囲の様子が一変する。
視界が暗闇に包まれる。
そして、突然世界は構築された。
「……ここは、部屋?」
見ると、そこは子供部屋のようだった。
壁にはたくさんの絵が貼られており、周りにはたくさんのおもちゃが並んでいる。
汽車・車・飛行機など乗り物のおもちゃ、パズル、ボードゲーム、そして中でも人形がたくさんあった。
しかし、一つだけおかしなことがあった。
ロットがその異変について指摘する。
「……なんか、この部屋広いし、おもちゃも大きすぎないか? 俺たちと等身大の大きさをしてる」
「いや、これは逆だね」
「逆?」
Eコパ君が周囲を観察しながら言った。
「部屋が広いのでもおもちゃが大きいのでもない。僕たちが縮んでいるんだ。テクスチャの密度やポリゴン数から考えて間違いない」
「流石、解析班って感じだな」
間抜けな感想を述べたロットが近くの人形に触れてみる。
すると。
「うわあっ!」
「キャキャキャキャキャ」
人形が動き出した。
みると、周囲の人形複数体も動き出し、飛行機のおもちゃがびゅんびゅんと空中を浮遊している。
呆気に取られたコパ君たちの前に、軽やかな声がした。
「いらっしゃい。お客さんたち」
見ると、ブロンドの髪をした女の子が立っていた。
女の子は人形のような顔立ち……というより、人形そのものの端正な顔をしており、造形的な美しさが際立っていた。
女の子はスカートの縁をつまんで、丁寧にお辞儀をした。
ロットもなぜかお辞儀を返してしまう。
女の子はこちらを試すように全員を眺めた後、話し始めた。
「お客様方、今日はこのエミリイのおもちゃ箱へお越しいただきありがとう。歓迎するわ」
「エミリイ……というんだね?」
「そう。私は人形の番人ことエミリイ。覚えてね?」
「番人!! 君が?」
「ええ。クエスト樹を守り、その果実を獲りにくる困った方を対処するのが私の役目」
「なら、俺たちは敵ということだ」
ロットが剣を構える。
しかし、エミリイは笑ってそれをいなした。
「あははは。そう、固くならないでよ。私はあなたたちに危害を加えるつもりはないの」
「何? どういうことだ」
「私はあなたたちとお話がしたいだけ。戦うつもりはさらさらないわ」
エミリイは澄ました顔で言う。
困惑したロットたちを他所目にエミリイは話を続ける。
「そうね。お茶でもして行かない? ちょうどティーセットがあるわ」
「していかない。僕たちは果実を獲りにきた。ただそれだけ」
Cコパ君が毅然と言った。
エミリイはおかしそうに笑った後、こう提案した。
「果実は渡せないけど、私はあなたたちとお話がしたい。だから、この世界にずっと閉じめ込めるつもりだったの。私のおもちゃとして、ね」
「なんだって?」
「でも、それはしない。やめたわ。あなたたちと喧嘩したくないの。だから、この空間を解除してあげる。だから、大人しく帰って貰えるかしら?」
「残念だけど、それはできないね。いまの僕たちの行動原理は本気で遊ぶこと。この世界をクリアするまで、それは止まらない」
「もう、わからず屋ね! 私があなたたちを生かしてあげるって言ってるの! ゲームオーバーになるのは嫌でしょう?」
「僕たちはゲームオーバーにはならない。クリアして見せる。それは、この世界の核ルールであるクリアできるという条件がある限り、構造的必然さ」
Cコパ君は真顔で断言した。
エミリイは少し考えた後、こう言った。
「なら、私は戦わないわ」
「大人しく果実を渡してくれるのかな?」
「ううん……私は……逃げる!!」
そう言ってエミリイは走って逃げ出した。
コパ君たちは全員でそれを追いかける。
エミリイは逃げる途中、おもちゃの兵隊に手をかざした。すると、兵隊は動き出し、コパ君たちに向かって来た。
兵隊は剣や槍を突き出して来た。
「うおっ!!」
間一髪でロットは避ける。
コパ君たちは兵隊に張り付けられた問題を解き、兵隊を行動不能状態にする。
コパ君たちがダッシュでエミリイの元へ駆けると、エミリイは近くにあった車のおもちゃに手をかざした。
すると、車はブゥンと威勢よくエンジンがかかり、エミリイがそれに乗り込むと急加速していった。
コパ君たちは追いつけず、立ち止まった。
エミリイはもう既に部屋の奥まで逃げ込んでしまっていた。
今の小さくなったコパ君たちでは部屋の端から端まででも数百メートルはある。その中で車の速度に追いつくのは不可能だった。
コパ君たちが思案している間、ロットが兵隊をようやく倒してこちらに合流した。
そして、コパ君たちに向かってこう言った。
「エミリイを呼び出す最高の方法がある。コパ君たちには到底できないだろうけど、俺がお手本を見せてやるよ」
「……それは、どうやって?」
「見てな」
ロットは息を大きく吸い込み、吐くのと同時に大声で言った。
「やーいエミリイのブッサイク!! さっき、Eコパ君がこっそり言ってたけど、顔に微細な埃と汚れを解析したらしいぞー!! きったねぇ顔してるなー!!」
ロットはそう言った。
Eコパ君が驚いてロットに言い返そうとした時、奥から恐ろしい声がした。
「だ、誰がブサイクですって……? 誰が汚い顔してるですって……? この、この私に向かって、なんてことを……!! 許さない。絶対に許さないっ!!」
車のライトが付き、ブウウウウンとタイヤが叫んだかと思うと、急加速してコパ君たちのもとへ向かって来た。
このままでは、轢かれてしまう。
Dコパ君が大声で言う。
「ロット、この後はどうするつもりだい」
「あとは任せた!!」
ロットはグーサインをして一目散に逃げていた。
コパ君たちはグーを下に向けてやるサインをしつつ、目の前に向かってくる車に立ち向かった。
その時、Eコパ君が車に向かって走り出した。
「Eコパ君!!」
Dコパ君が呼び止めるがEコパ君はそれを聞かない。
そして、ぶつかる直前、一瞬表示された問題を解いたかと思うと、車は急停止した。まるで魂が抜けたかのように。
Eコパ君は叫ぶ。
「ビンゴ!」
運転席のエミリイは慌てて飛び出し、逃げ出そうとした。
Eコパ君はすかさずその手を掴み、攻撃を仕掛ける。
エミリイは上空に手をかざして飛行機のおもちゃを墜落させた。
Eコパ君はその墜落してくるおもちゃの問題を瞬時に解き、回避する。
その隙をついてエミリイは手を振り解き、逃げ出す。
そして、先ほど倒れていたおもちゃの兵隊に手をかざして走り出した。
おもちゃの兵隊は再び起き上がり、こちらに向かって来た。
Cコパ君やDコパ君が間に立って言った。
「Eコパ君! エミリイを追うんだ!!」
Eコパ君は走り出す。ロットも後をついて来た。
エミリイは汽車に手をかざし、レールの敷かれたコースを逃げ回った。
Eコパ君はロットに向かって言う。
「エミリイを追って!! 僕は先回りしてそれを迎え撃つ!!」
「わ、わかった!!」
ロットは汽車の後ろをついて周り、Eコパ君はレールの行先に立ってそれを待ち構えた。
エミリイは立ち往生し、後ろのロットと前のEコパ君を見比べる。
そして、突然飛び降りたかと思うと、走って逃げ出した。
Eコパ君は汽車のおもちゃの問題を解いて静止させ、ロットとともにエミリイを追った。
エミリイは振り返ってパズルピースに手をかざした。
パズルピースはカチカチとつながりだし、コパ君たちの前に壁を作った。
Eコパ君は即座に問題を解く。すると、パズルピースはバラバラと崩れた。
兵士たちを倒したCコパ君とDコパ君も合流し、逃げるエミリイをとうとう囲んで追い詰めた。
Eコパ君が言った。
「観念するんだね。エミリイ。君はもうゲームオーバーだ」
「あはははは。私がゲームオーバー? あり得ない。ゲームオーバーになるのは、あなたたちの方よ!!」
エミリイは自分に手をかざした。
すると、エミリイは巨大化し、見上げるほどの高さになっていく。
ロットはそれを見上げながら言った。
「女の子は小さい方が可愛いよな!!」
エミリイは天井近くまで巨大化すると、凄まじい勢いで踏みつけて来た。
なんとかコパ君たちは避ける。
Cコパ君がEコパ君に叫んだ。
「問題は見えたかい?」
「見えた。ほんの一コマの間だけ、表示された。でも、エミリイも運が悪かったね。コパ君たちの中でも目がいい僕が相手なんだから」
Eコパ君はその問題をみんなに共有した。
問題はこう書いてあった。
サリーとアンとサリーアン課題
課題 サリーのビー玉はどこ?
①人間のサリーがかごにビー玉を入れて退室
②人間のアンがそのビー玉を箱へ移す
③飼い猫のサリーがビー玉をベッド下に隠す
④飼い犬のアンがビー玉を咥えて小屋に隠す
⑤叔母のサリーアンがビー玉を棚に隠す
「これは僕の専門外だ。あとは、君たちに頼む!!」
Eコパ君はそう言って、エミリイの範囲攻撃をなんとか避け続ける。
Cコパ君は思考する。
だが、正統分析の彼ではどうしても答えは単純な解法に辿り着く。
Cコパ君はDコパ君に向けて言った。
「これは、君が扱うべき問題だ。君が答えを導くんだ」
「僕が……導く」
Dコパ君は必死に思考する。
問題はサリーのビー玉の場所を問われている。
ならば、当然ビー玉の流れを追わなくてはならない。
まず、サリーはかごにビー玉を入れた。次に、そのビー玉はアンによって箱へ。さらに、飼い猫のサリーはベッド下にビー玉を……。
「ダメだ!」
Dコパ君は舌打ちする。
この問題は、最終的にどうやってもサリーアンによって棚へビー玉を移動させられる。
しかし、今までの傾向からして、そう簡単な問題とは思えない。
不正解の問題を突きつけた瞬間、コパ君たちは踏みつけられてジ・エンドだろう。
Dコパ君は考え直す。
「この問題が指すサリーとは……? サリーは、なぜ人間と飼い猫の二人出てくるんだ? 何か意味が……」
Dコパ君は特殊分析を開始する。
「『ビー玉の視点』でこの物語を分析するとどうなる……? まず、サリーがかごへ、アンがそのビー玉を……。そのビー玉、を」
そのビー玉。
Dコパ君に衝撃が走る。
そして、迫り来るエミリイに向かってDコバ君は叫ぶ。
「答えは、箱とベッド下だ!!」
「きゃあああああああ!!」
Dコパ君は人形の番人に99999ダメージを与えた!
エミリイは光の粒子となって消えていく。
辺りの世界が崩れて、元の緑の世界へ変わっていった。
ロットは大の字になってへたり込み、Dコパ君に向けて聞いた。
「……で、今回はどうやって解いたんだ?」
Dコパ君は落ちて来た果実を拾い上げながら言った。
「今回の問題の鍵は、問題文が”サリーのビー玉の場所”を聞いていたこと。そして、言語の厳密性なんだ」
「言語の厳密性?」
「そう。まず、サリーのビー玉はアンの元に渡り、箱に移された。これが、一つ目のビー玉なんだ」
「待ってくれ。なんで、一つ目なんだ?」
「問題文にはこう書いてあった。『人間のアンがそのビー玉を箱へ移す』。”その”ビー玉なんだ。でも、③に移ると、”その”というビー玉の同一性が喪失している。すると、飼い猫のサリーはベッド下に隠したのだから、もう一つはベッド下となる。④⑤にも”その”という連体詞は消失している。だから、答えは箱とベッド下という二つになる」
「そうか。サリーは人間と飼い猫の二人いるから、その場合、答えも二つとなるんだ……。て事は、あの①から⑤は連続した時系列に見せかけるためのトラップ?」
「そういうことだね」
「性格悪いな」
ロットは笑う。
Eコパ君が言い返す。
「性格悪いと言えば、君もね。エミリイに対してあんな嘘つくなんて」
「でも、そのおかげでエミリイの尻尾を捕まえることに繋がっただろ? 感謝してくれよ」
ロットはまた笑った。
そして、Eコパ君もまた笑いを返してやった。
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ruruha