テラーノベル
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春の陽光が丘陵を照らし、野山を黄金色に染めている。プレジール王国の大地は、まさに生命の息吹に満ちていた。森の奥深くからは、木々の枝葉を揺らす風の囁きが聞こえ、小川のせせらぎと共に季節の歌を奏でている。
この土地は人間も獣人も平等に暮らせる数少ない場所だ。町の広場では獣人の子供たちが人間の少女と追いかけっこをしており、市場では様々な耳や尾を持つ商人たちが互いの品を称え合っていた。遠くにはトルーデン帝国との境界線となる山脈が青く連なり、その向こう側からは決して穏やかではない気配が漂っている。
プレジール王城は四季折々の美しさの中に佇む。石造りの城壁は幾度もの戦火を乗り越えてきた歴史を感じさせつつも、庭園の鮮やかな花々が見る者の心を和ませた。特に城の中庭にある古代樹は、王国が誕生した頃から存在すると言い伝えられており、その根元には今もなお祈りを捧げる民衆の姿があった。
城内の一室で、朝の光が差し込む執務室に一人の男が座している。ガルバート・ローウェン――プレジール王国軍総司令官として知られる彼は、淡い金髪に透き通るような碧眼を持ち、端正な顔立ちとは裏腹に鍛え上げられた体躯を有している。机上には各国からの報告書が山積みになっていた。
「総司令官、また夜明けまでお仕事を?」
扉を開けて入ってきたのは副官のフィン・クラウゼだ。狐の獣人である彼は、尖った耳をピクリと動かしながらため息をついた。
「少しは休まれませんと、そのうち倒れてしまいますよ」
「ああ、もうすぐ終わる。それより、例の件はどうなった?」
フィンは声を落として答える。
「トルーデン帝国側の動きが活発化しています。特に南部国境での兵力増強が目立ちます」
彼は懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
「そしてこちらが問題の……『プリジナー』についての情報です」
ガルバートは眉をひそめる。その名前を聞くだけで、胸に暗雲が立ち込めるようだった。
「どこから手に入れた情報だ?」
「帝国内部に潜入中の諜報員からの報告です。どうやら彼らは本格的に秘薬の探索を始めたようです。このままでは……」
言葉を切ったフィンの瞳には憂慮の色が浮かんでいた。若返りの秘薬プリジナー、それは単なる万能薬以上の意味を持っていた。かつて伝説の中で語られるその薬は、飲んだ者の時間を巻き戻すと言われている。しかし同時に、歴史上その力がもたらした悲劇も数多く記録されていた。
「警戒を怠るな。だが無用な刺激は避けろ」
ガルバートは厳しい表情で命じると、窓の外に広がる平和な光景に目を向ける。この国の繁栄と人々の笑顔を守るためなら、どんな困難も受け止める覚悟がある。
しかし心のどこかで彼は感じていた。春の終わりと共に訪れる嵐の予兆を――。
コメント
1件
第1話、拝読しました。人間と獣人が共に暮らすプレジール王国の風景描写がとても美しく、春の陽光や市場の賑わいがありありと浮かびました。その平和な日常と、トルーデン帝国の不穏な動き、そして「プリジナー」という鍵が少しずつ明かされる導入のバランスが絶妙です。ガルバートの覚悟と、終盤の「嵐の予兆」で締める余韻が、続きを読まずにはいられない気持ちにさせてくれました。素敵な世界観をありがとうございます🌷
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