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翌週から、高城不動産ソリューションズの社内は慌ただしくなった。
年末が近づき、雑務が押し寄せている。
それに加え、最近増えている相続物件に関する相談がひっきりなしに舞い込んでいた。
この流れは今後も加速すると予想され、社員一丸となって対応に追われていた。
明日の別荘の内見は、柊が一人で向かう予定だ。
内見を希望している菊田夫妻とは、現地で合流することになっていた。
「水島さん、ちょっと」
「はい」
柊に呼ばれた花梨は、課長席へ向かった。
「何ですか、課長」
「明日の内見で菊田様が気に入れば、すぐに契約になる。だから、書類の最終チェックを頼むよ」
「分かりました」
「それと、雪が本格的に降る前に測量の手配も」
「承知しました。値引きの方はどうなりそうですか?」
「うん、浜田様は快く応じるとおっしゃってるから、予定通りの金額になるだろうな」
「わぁ、浜田様、気前がいいですねー」
「若い学生さんたちがあの別荘を使うと知って、嬉しかったんだろうな」
「思い出の場所が賑やかになれば、嬉しいですよね」
「そうだな。まあ、しっかり契約を取ってくるから、安心して待ってろ」
「よろしくお願いします」
花梨は笑顔でお辞儀をしてから、自分のデスクへ戻った。
昼休み、花梨が休憩室へ入ると、萌香と中谷が仲良く昼食をとっていた。
よく見ると、二人は同じ弁当を食べている。
(え? もしかして、円城寺さんの手作り?)
花梨は驚いた。
これまで手作り弁当など持ってきたことのない萌香が、中谷の分まで作って持ってきたのだ。
しかも中谷は、失敗作だと思われる少し焦げた玉子焼きを、嬉しそうに頬張っている。
(ふふっ……恋をすると人はこんなにも変わるのね)
花梨は微笑みながら、今度は窓辺に目を向ける。するとそこには、萌香を面白くなさそうに睨んでいる派遣社員の女性二人がいた。
(やれやれ……妬みはいつの時代も女性の特権かしら)
花梨は思わずクスッと笑い、昼食を食べ始めた。
その日、花梨は残業していた。
気づけば、フロアには自分一人で、時計を見ると、すでに午後八時近くになっていた。
(明日も忙しいし、そろそろ帰らなくちゃ)
そう思いながら私物をバッグにしまい、エレベーターへ向かった。
オフィスビルを出ると、冷たい夜風が頬をかすめた。
思わずコートの襟を握りしめ、花梨は足早に駅へ向かう。
人通りは少なく、コツコツと靴音だけが響いていた。
その時、花梨は違和感を覚えた。
気になってすぐに辺りを見回したが、特に異変はない。
(気のせい?)
そう思いながら歩く速度を上げると、再び違和感を感じた。気になった花梨が足を止めて後ろを振り返ろうとした瞬間、前方から声が響いた。
「花梨!」
その声が誰のものか、花梨にはすぐに分かった。
「課長!」
「間に合った……」
「どうしたんですか? 今日は支店長のお供で直帰だったのでは?」
「うん、思ったより早く終わってね。さっき佐竹君に電話したら、君がまだ残業してるって聞いたから寄ってみたんだ」
「え、わざわざ……?」
「うん。軽く食事でもして帰ろう」
「はいっ!」
花梨は嬉しかった。
最近は忙しくて、二人きりの時間がなかなか取れなかった。
年末まではこの忙しさが続くと思っていたので、柊が気遣ってわざわざ会社まで戻ってきてくれたことが嬉しい。
ほんの些細なことなのに、心が温かくなるから不思議だ。
その時、柊が何かに気づいたように、花梨の背後をじっと見つめた。
そして、突然こう言った。
「花梨、キスして」
「え? 」
急にそんなことを言われたので、花梨は驚く。
「いいから、今すぐキスして!」
「課長……急にどうしたんですか?」
「花梨に触れていない時間が長すぎて、もう限界だよ……」
甘えるように懇願する柊の声に、花梨は頬を赤らめる。
「でも、ここは会社の近くですよ?もし誰かに見られでもしたら……」
「暗いから大丈夫だ。それに、うちの会社は社内恋愛禁止じゃないからな」
「それはそうですけど……」
「ほら、花梨! 『甘える練習』の続きだと思って、早く!」
「えーっ? どちらかというと、課長の方が甘えてるような気がしますけど?」
「花梨……お願いだよ……」
柊が熱のこもった瞳で見つめ、少しかすれた声で囁くと、花梨の胸がキュンと疼いた。
(ふふっ、甘えた課長なんて初めて見たわ。こんなにストレートに懇願されると、なんだかくすぐったい)
そう思いながら、花梨は覚悟を決める。
そして、そっと柊の首に両腕を回し、思いきり背伸びして彼の頬にチュッとキスをした。
その瞬間、柊が彼女の腰に手を回しグッと引き寄せた。
「キスはそこじゃなくて、ここだろう?」
からかうような眼差しで花梨を見つめると、柊はゆっくりと唇を重ねる。
「んっ……」
それは熱を帯びた濃厚なキスだった。
晩秋の夜、街灯に照らされた二人のシルエットが夜の街に浮かび上がる。
今の二人は、誰が見ても恋人同士そのものだった。
柊のキスを受けながら、花梨は瞼を閉じ、うっとりと身を委ねる。
そんな彼女を愛おしそうに抱きしめながら、柊は情熱的なキスを続けた。
しばらくして柊が目を開けると、そこには悔しそうに立ち去る後藤卓也の姿があった。
花梨の背後に卓也がいることに気づいた柊は、彼女に気づかれないよう、そっと彼を遠ざけたのだった。
柊は歩き去る卓也の背中をじっと睨みつけた後、再び花梨に甘くとろけるようなキスを注いだ。
コメント
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なーっ。 もえぴーが、弁当作る、て。 彼ピーには 焦げても旨い 卵焼き
萌ピーもすっかり春…🌸💕 彼のために一生懸命お弁当作り…🍱♥️意外に可愛いところあるのね〜💕🤭 中谷くんなら家柄も申し分ないから、もし彼が婿に来てくれるのならパパとママにも反対されず後押しして貰えそうだしね…😉良かったね〜!👍 そして柊さん、さすが!!! 甘えてると見せかけて、花梨ちゃんに気づかれることなく白タクを撃退⚔️👊 お見事で〜す‼️😎👍💕💕
わぁ柊さんすごい!!バッチリ撃退しましたね。 ちょうどよく花梨ちゃんと会えてよかった😊 少し焦げた卵焼き、きっと美味しかったんだろうな〜