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恵菜が西国分寺で下車した後、純はドア付近に立ち、闇の中に流れゆく景色を見つめていた。
(彼女…………何を抱えているんだろうな……)
この日、彼女は彼に、様々な表情を見せてくれた。
中でも、公園で見せてくれた恵菜の控えめな微笑みが、純の心の奥に焼き付けられて離れない。
彼が『帰ったら晩ご飯の準備とか、しないとならないんですよね』と聞いた時、彼女は戸惑いながら苦笑していた。
(あの時、何か言い掛けていたが…………何を……伝えたかったんだろうな……)
恵菜の事を考えているだけで、胸の奥が締め付けられそうになってしまう。
彼女の事が気になって、もっと知りたいと思う純がいる。
(今まで女と知り合っても、その場限りだったり、少し会って自然と繋がりが切れても、何とも思わなかった俺が…………人妻相手に……こんな気持ちになるとはな……)
初めて抱く気持ちを持て余しながらも、純の胸中に浮かぶのは、恵菜の柔らかな笑顔だった。
中央線が東小金井駅を出発した時、スキニーチノのポケットに捩じ込まれた純のスマートフォンが、ブルブルとリズムを刻み出した。
引っ張り出し、画面を確認すると、恵菜からのメッセージ。
「あっ……」
純は小さく声を漏らした後、すぐに内容を確認した。
『谷岡さん、今日は助けてくれて、ありがとうございました。ご迷惑をお掛けして、本当にごめんなさい。今、無事に家に着きました。ありがとうございました。 相沢恵菜』
彼女からのメッセージに、純の唇がフッと緩む。
「…………律儀だな」
純も返信のアイコンをタップして、メッセージを打つ。
『相沢さん、お疲れさまです。無事に自宅に着いたようで良かったです。俺も、あと少しで自宅に着きます。 谷岡純』
彼は送信のアイコンをタップしようとしたが、ふと指先を止めた。