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(彼女を…………食事に誘ってみるか?)
魔が差したように純は思いつき、唇を歪めさせた。
(いやいや、ダメだ。彼女は人妻だ……)
彼の中に善良な心と邪な心が、グイグイとせめぎ合う。
スマートフォンの画面を見ながら、右手の人差し指をタップしようとして固まった状態の純は、側から見たら怪しく映っているだろう。
(ひとまず誘ってみるか。返信がなかったら、まぁそこまでって事で……)
純は、メッセージの続きを打ち始めた。
『──もし、相沢さんが良ければ、ですが、今度、食事に行きませんか? 時間のある時に、返信して頂けたら、と思います。 谷岡純』
念のため、内容を確認して、彼は送信ボタンをタップした。
電車が吉祥寺に到着し、公園口の改札を出て自宅マンションへ向かう。
井の頭公園の横を通り過ぎた時、スマートフォンが震え出した。
確認をすると、恵菜からの返信。
『谷岡さん、返信ありがとうございます。お食事の件ですが、今日、助けてくれたお礼に、私のお気に入りのレストランでご馳走したいと思っています。土日祝祭日は休みですので、谷岡さんの都合に合わせます。 相沢恵菜』
思ってもいなかった内容に、純は息を呑んだ。
(おいおい……マジか? いいのかよ、俺とメシ食いに行って……。けど、彼女の事をもっと知るチャンスなんだよな……)
彼は立ち止まり、返信を打つ。
都合は、純に合わせてくれるとの事で、数日後の土曜日を指定。
時間は、恵菜とゆっくり時間を過ごしたいという気持ちが先走り、正午に立川駅の壁画前で待ち合わせをする事にした。
メッセージの内容を確認した後、送信ボタンをタップする。
『送信しました』のダイアログが表示されるのを確認すると、ジワリと笑みが溢れ、止まりそうにない。
「ヤベェ……楽しみ過ぎて、今日は寝られなさそうだよ……」
昂る気持ちを抑えるように、空を見上げると、もうすぐ丸くなりそうな月が、柔らかな光を放ちながら、純を包んでいた。
***