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りょん.
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実は——
涼ちゃんには、誰にも言っていないことがあった。
余命宣告。
もう長くないこと。
それを知ったのは、少し前。
最初は実感なんてなかった。
でも、
検査結果を見るたび、
薬が増えるたび、
少しずつ理解してしまった。
“ああ、本当に終わるんだ”って。
「……」
それでも、
涼ちゃんは誰にも言わなかった。
元貴にも。
若井にも。
言った瞬間、
全部変わってしまう気がしたから。
2人が自分を見る目も、
ミセスの空気も。
何もかも。
だから普通にしていた。
出来るだけ、いつも通り。
笑って、
音楽して、
隠して。
でも夜になると、
急に怖くなる日があった。
“今日が最後かもしれない”
そんな考えが頭を離れない夜。
その度に、
涼ちゃんはスマホを握りしめていた。
若井に電話をかける。
元貴の声を思い出す。
ただ、
最後に声を聞きたかった。
それだけだった。
「……」
あの夜も、そうだった。
苦しくて、
怖くて、
一人でいられなくて。
だから若井に電話した。
本当は、
“助けて”って言いたかったのかもしれない。
でも言えなかった。
余命のことも、
本当の理由も。
だから、
曖昧に誤魔化した。
自分が弱ってる理由を、
別のものみたいに。
そうすれば、
2人を傷つけずに済むと思った。
「……」
でも、
若井は来た。
夜中なのに、
息を切らして、
20階まで走って。
泣きそうな顔で、
「何してんだよ……!」って。
「……」
その時初めて、
涼ちゃんは思ってしまった。
——まだ、生きていたい。
2人の隣にいたい。
そんな願いを持ってしまった。
episode2
レコーディング終わりのスタジオ。
時刻はもう深夜一時を回っていた。
「お疲れー!」
「っあー……無理、喉終わった……」
元貴がソファへ倒れ込む。
若井もギターをケースにしまいながら大きく伸びをした。
「今日さすがに疲れたわ……」
「長すぎ」
「お前が録り直ししまくるからだろ」
「いやあれはこだわりだから!」
いつものやり取り。
その声を聞きながら、涼ちゃんは静かに笑った。
いつもなら、この辺りで涼ちゃんは先に帰る。
「じゃ、お先ー」
そう言って、誰より早くスタジオを出るのが普通だった。
でもその日は違った。
「……ねぇ」
小さな声。
2人が同時に振り返る。
キーボードの前に座ったまま、涼ちゃんがこちらを見ていた。
「ん?」
「もうちょい、いる?」
珍しくて、元貴が目を丸くする。
「え、涼ちゃんから居残りのお誘い?」
「なにそれ」
少し笑う涼ちゃん。
でもその笑顔がどこか弱く見えて、若井は眉をひそめた。
「帰んなくて平気なの」
「……うん」
本当は平気じゃない。
けれど帰りたくなかった。
今日が最後かもしれない。
そんな考えが最近ずっと頭から離れない。
だから少しでも長く、2人の隣にいたかった。
元貴が嬉しそうに立ち上がる。
「じゃコンビニ行こ! アイス食いたい!」
「この時間に?」
「いいじゃーん」
結局3人でコンビニへ向かった。
夜風は少し冷たい。
涼ちゃんはいつもより少しだけ歩く速度が遅かった。
息苦しい。
でも隣に2人がいるだけで、不思議と安心した。
元貴はずっと喋っている。
新曲の話だったり、変な動画の話だったり。
その横顔を見ながら、涼ちゃんは少しだけ目を細めた。
こんな時間が、ずっと続けばいいのに。
コンビニに着くと、元貴が大量にアイスを抱えて戻ってくる。
「これ新作!あとこれ期間限定」
「買いすぎだろ」
その横で、涼ちゃんは静かにアイスケースを見つめていた。
本当は、冷たいものなんて食べられる状態じゃない。
でも今日は食べたかった。
2人と同じように笑って、同じものを食べたかった。
涼ちゃんは静かにアイスを一つ取る。
レジへ向かいながら財布を出した。
「今日は僕が払うね」とクレジットカードを出す。
「は!? なんで!?」
元貴が目を丸くする。
「いいから」
「えー怖い怖い」
若井も少し笑う。
「涼ちゃんありがと。」
その軽い空気がありがたかった。
スタジオへ戻り、3人で床に座る。
元貴は早速アイスを開けながら、
「うまっ!!」
と騒いでいる。
若井が笑う横で、涼ちゃんも静かに袋を開けた。
ひとくち食べる。
冷たさがゆっくり広がる。
「……美味しい」
小さく呟くと、元貴が嬉しそうに笑った。
「だろ、それ新作だよ。」
「あ、そうなんだ〜。」
たぶん2人からしたら、ただのいつもより機嫌がいい日。
距離が近くて、珍しく自分から誘ってくる日。
その程度だった。
元貴がアイスを食べながら涼ちゃんを見る。
「今日なんか楽しそうだね」
「そう?」
「うん。なんか珍しくノリいい」
若井も頷く。
「確かに」
涼ちゃんは誤魔化すように笑った。
だって幸せだった。
こうして3人でいる時間が。
元貴がソファへもたれながら言う。
「なんかこのまま朝までだらだらしたいわ」
「家の方がゆっくり休めるでしょ笑」
「え、涼ちゃん泊まる?」
突然聞かれて、一瞬だけ言葉に詰まる。
帰りたくない。
まだここにいたい。
その気持ちが喉まで出かけて、涼ちゃんは小さく笑った。
「……今日はいる」
「え、まじ?」
元貴が目を丸くする。
若井も少し驚いた顔をした。
でも2人は深く考えない。
ただ、“今日は甘えたい気分なんだろうな”くらいにしか思っていなかった。
涼ちゃんはそんな2人を見ながら、そっと目を伏せる。
――この時間が終わらなければいいのに。