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「熱、ある?」
匡の声がすぐ耳元で聞こえる。
また、あの夢か。
「飲み過ぎたせいよ」
夢の中の私とは違う台詞を口にする。
酔ったにしては、暑い。
そして、重い。苦しい。
「あつ……」
本当に、熱でもあるんだろうか。
ふっと重みが消える。
金縛り?
今度は打ち所、悪かったかな。
寝返りを打つと、ベッドから浮いた肩が冷やりとした。
「なぁ? 千恵」
少しだけ寒い肩に、柔らかな何かが押し付けられる。
「ん……」
寝言に返事をしたらあの世行き、とか聞いたことがあるような、ないような。
あ、寝言を言ってるのは私か。
「なんで離婚した?」
夢のクセに、嫌なことを聞かないでよ。
あ、悪夢……か。
「うわ……き」
「俺は浮気しないよ」
なぜか、笑えた。笑った。
「ふふ……。知ってる」
「知ってるんだ?」
「うん」
このまま、夢の向こうに堕ちていきたかった。
久し振りのふかふかのベッド。
実家では、床に布団を敷いて寝ている。
文句は言えない。
娘が出戻ってくるかもと、ベッドを用意しておいてくれる親なんていない。
結婚する時、部屋を空にした。
子供を連れて帰省した時は、その部屋で布団を並べて寝た。
今は、段ボールとスーツケースの横に布団を敷いている。
そろそろ、ベッドやチェストを買わなければ。
明日にでも見に行くか……。
「寝るなよ、千恵」
「……ムリ」
「ほら、腰上げろ」
「ムリ……」
ぐっと腰が浮く。と、急に足元がスースーした。
さすがに、夢ではないとわかる。
一瞬で覚醒し、重い瞼を上げると、真っ白な世界。
抱き締めている枕ごと身を捩ると、ぼんやりと人の姿が見えた。
は……?
病院でないことは、わかる。
手の甲で目を擦り、目を見開く。
今度ははっきりと、枕を抱いている自分が見えた。
「はっ――!?」
飛び起きる。が、失敗した。
腰を浮かされていたからだ。
「ちょ――」
背中はベッドに沈んだままだが、頭だけ上げて足元を見る。
「匡!? なにやって――っ!」
聞くまでもなかった。
プリーツのワイドパンツは脱がされ、ガードルとショーツも脱がされ、そりゃ寒いはずだ。
そして、無防備に晒し出された足の間に、匡が座っている。正確には、寝そべっている。
うつ伏せで、膝を曲げて宙で爪先を泳がせている。
彼がふっと笑うと、私の下生えがくすぐられた。
笑い事じゃない。
私は彼の眼前で、ぱっくり膝を割って、さあ見てちょーだいと言わんばかりに恥部を晒している。
出産を思い出すような格好だ。
だが、当然だが、匡は医者ではない。助産師でもない。それ以前に、私は妊婦ではない。
となると、この格好の意味は一つだろう。
「――キモチイイことに決まってんだろ?」
草むらから顔を覗かせるニヒルな蛇かワニにでもなったつもりか。
「笑えないんだけど!?」
「うん。笑わないでいいから」
「そういう問題じゃ――!」
前髪を掻き上げるように下生えを手で押し上げると、遮るものがなくなった膨らみに、匡は容赦なく吸い付いた。
「――っあ……」
忘れかけていた感触に、思わず甘い声が漏れる。
舌先が膨らみをチロチロと舐め、くすぐったくてキモチイイ。
だが、素直に感じている場合ではないと、自分に喝を入れて身を捩る。
「匡!」
足をバタつかせて、ずりずりとベッドの上を這う。が、力強い腕に両太腿をしっかり抱え込まれ、這った分だけ引き戻されてしまった。
「こら、暴れんな」
「やっ! 暴れるでしょ! 何考えてんの?!」
「ん? やらしーこと」
ウインクでもしそうな軽いノリでそう言うと、匡はまた私に吸い付く。
「やめなさいってば!」
女性の身体の中で、唯一快感を得るためだけの場所をじっくり舐め上げられると、勝手に背が仰け反り、立てていた肘から力が抜ける。
背中がシーツに触れ、柔らかなマットに沈む。
「や――、は……っ」
こんな快感、久し振り過ぎて、身体が過剰反応する。
ダメダメダメーーーッ!!
「匡! いくら欲求不満でも、元カノに手を出すなんて悪趣味!」
ふっと口が離され、舐められていたソコが外気に触れて冷やっとした。
「欲求不満な命の恩人に、お礼をしようとは思わないのか」
「はぁ?」
「俺が受け止めなかったら、お前、顔面から床に倒れ込んでたぞ?」
目が回って立っていられなくなったような記憶はある。かなり朧気だが。
「お前、酔うとすぐ寝ちゃうからな。危なすぎ」
「何年前の話――」
「――階段から落ちるとか、シャレになんねーぞ」
「え――」
『なんで知ってるの?』と聞きたいのに、いきなり挿入ってきた指に身体が跳ね、聞けない。
真っ直ぐ挿入ってきた指が、ゆっくり抜かれ、抜き切れる前に差し込まれる。
「あ、あ……っ」
「きっつ。お前こそ欲求不満どころか、処女に戻ったんかってくらいご無沙汰だろ」
恥ずかしいなんて思う余裕も与えられないほど、激しく指が抜き差しされる。
「や、あ……、んっ」
「お前を抱かずに浮気するとか、旦那バカだろ」
『もう旦那じゃない』と言いたいのに、言葉は意味のない嬌声に変わる。
「う……あ、ん」
再び膨らみを口に含まれ、同時に指が増やされた。思わずきつく目を閉じる。
僅かな痛みは、押し寄せる快感の大波の前では、蟻に噛まれたレベルだ。
アルコールで靄がかった思考、久し振り過ぎる快感で過剰反応する身体。
だから、じわじわと昇りつめる感覚をコントロールできず、私はされるがままに達した。
「ふっ……く――」
唇を噛み、息を止めて、シーツを握る。
腰が跳ね、間違いなくそれに気付いているのに、匡の愛撫は止まらない。
「はっ、あ、ん――っ」
ぴちゃぴちゃとわざとらしく音を立てられて、恥ずかしいのにそれすらどうでもよく思えるほど気持ち良い。
また、誰かに抱かれる日がくるなんて、思ってもいなかった。
別れた旦那とは、いつからかも思い出せないほど前からレスで、このまま『母親』として生きていくんだろうなと、思っていた。
なのに……。
まさか、『女』に戻る日がくるなんて。
ま、いっか。
不意にそう思った。
もう、誰に操を立てる必要もない。
結婚していれば旦那、シンママなら子供に罪悪感を持つのだろうが、今の私はただの女。
そっか、私がいいならいいのか。
そう思ったら、ますます身体が反応した。
「ひゃ――!」
閉じていた目を見開くが、眩しさにまた閉じた。
他のことを考えていたからか、一度引いた波が、ハッとした時には津波になって押し寄せてきた。
「ダメ! ダメダメダメッ!!」
背を反らせながらも、両手で匡の頭を掴む。
鷲掴みと表現するのが適切だろうというほど力いっぱい髪を掴んだ。
膨らみの奥の芽を集中して舐められ、膣内《なか》の指が柔らかく湿った壁をひっかくように擦られる。
キモチイイ、しか考えられない。
いや、考える余裕もない。
感じるだけだ。
「あっ、ん――っ!」
達する直前、無意識に目を見開いた。
飛び込んできたのは、自分のあられもない姿。
身動きできないほど強く掴まれていたはずの太腿は、何の拘束もないのに大きく開き、付け根に匡の後頭部。そして、彼の髪を掴む私の手。更には、真っ赤な顔で自分を見つめる自分。
涙で滲んでいるとはいえ、はっきり見えた。
そして、果てた。
「は……、あ……っ」
再びきつく閉じた瞼から溢れる涙は、快感からか、羞恥心からか。
こめかみを伝う雫が、止まらない。
身体中がの筋肉が強張り、腹部の痙攣が止まらない。
なのに、頭の中はふわふわして蕩けている。
自分の息遣いだけが聞こえる世界に浮かんでいるか、波に浮かんで身を任せているようだ。
「寝るなよ、千恵」