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「先輩!!分からない場所があって…」
「どれ?」
「えーと…ここで…」
「あぁ…そこはね……」
後輩に頼られるのは好きだ。
教えるのも好き。
元々教師を目指していた私にとって、やっていてよかったと思えるから。
「先輩、助かりました!ありがとうございます」
そう言って深くお辞儀をする。
後輩と少しだけ世間話をして、仕事へ戻ろうとすると、後輩に呼び止められた。
「あの…!先輩、ひとつ聞きたいことが……」
「なぁに?」
「その…十二村先輩についてなのですが…」
嗚呼、そういえばこの子は入ったばかりだった。
そのことを思い出した。
多分、聞きたいことは十二村先輩のあの行動についてだろう。
でも、この子には重すぎる内容かもしれない。
言うか迷っていると、後輩の顔が目に入った。
真剣でありながらも、十二村先輩のことを心配している、そんな顔だ。
そうね……いつかは真実を言わないと。
この子にも、十二村先輩にも。
「あの行動についてよね?」
「!はい……。」
「少し重いかもしれないけど大丈夫?」
「はい!」
その返事は元気だった。
十二村先輩について言おうとすると、後ろから声がした。
「なんの話してるんすか?」
十二村先輩だ。
十二村先輩がいつの間にか私の後ろにいた。
びっくりして、振り返る。
明るくそして、私たち後輩にも優しい先輩だ。
でも、あの日から少し変わってしまった。
「十二村先輩……」
後輩もいきなり来るとは思っていなかったようだ。
…多分、これはいい機会かもしれない。
「十二村先輩」
「なんすか?」
「なんで……
口無先輩がそこにいるかのように振る舞うのですか?」
「……何言ってるんすか?」
「口無パイセンはおれの隣にいるじゃないっすか」
「もしかしていじめとかそういうのっすか?ほらパイセン、びっくりしたような表情してるっすよ」
あたかも、そこに口無先輩がいるかのように振る舞う十二村先輩。
口無先輩は、十二村先輩の相方的な存在で、二人ともすごく仲が良かった。
でも、その口無先輩はここにはいない。
「十二村先輩、もう口無先輩はタヒんでいるんです。だから、いつまでも過去に囚われていたらダメです。目を覚ましてください。」
そう口無先輩はタヒんでいる。
とっくの昔に。
トラックに轢かれそうになった十二村先輩を庇って。
「何言ってるんすか?パイセンは生きてるっす。おれの隣にいるのが証拠っす。」
「あ、パイセンが勝手に殺すなって言ってるっすよ。謝ってっす」
十二村先輩が見えてるのはきっと本物ではない。
別のなにかの可能性が高い。
「だから、口無先輩はもう………!!」
「…うるさいっすね……」
「え……?」
十二村先輩が小さくそう言ったことに対して驚きが隠せない。
その言葉に続けるかのように、怒るかのように十二村先輩は口を開く。
「パイセンは、生きてるんす!!今、おれの隣にいるんす!!」
「おれとパイセンはずぅっとおれがタヒぬまで一緒にいるんす!!」
こんなに怒ったような声で言う十二村先輩は初めてだ。
少し怖い。
「はぁ……。パイセン、もう行くっすよ。」
そう言って十二村先輩はどこかへ歩いていった。
十二村先輩の左手はまるで誰かと手を繋いでるかのように出していた。
口無先輩はタヒんでいる
これが真実。
後輩は困惑している。
多分、この子は口無先輩という人がいた事も知らなかっただろう。
そのあとは、十二村先輩について軽く話して、それぞれ仕事へ戻った。