テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
顔合わせを済ませた翌週の金曜日、瑠衣はコンクール用のスコアを探しに、音羽奏とハヤマ銀座店で待ち合わせをしている。
銀座のハヤマに来たのは、音大時代に来て以来。
その間にハヤマ銀座店は建て替えしたようで、お洒落な自社ビルに変わっていた。
外国人観光客たちが、様々な言語を発しながら目の前を通り過ぎていく様子を瑠衣はボーっと見ていると、待ち合わせ時間の正午に奏が現れた。
「瑠衣ちゃん! 先日はお疲れ様でした」
ボルドーのワンピースの裾を揺らし、黒の艶髪を靡かせながら手を振ってこちらに向かってくる彼女は、同学年とは思えないほどの落ち着いた雰囲気。
「かっ……奏ちゃん。この前はありがとう。楽しかった」
「じゃあ、早速スコアを探しにいこうか」
二人は店内に入り、楽譜売り場へと向かっていった。
銀座のハヤマ旗艦店の楽譜売り場は、広いフロア全体に各楽器ごとに振り分けられている。
特に輸入版の楽譜は、同じ楽曲でも色々な出版社の楽譜があり、品揃えが豊富だ。
トランペットのスコアが並ぶ棚の前で、瑠衣と奏は、最終的に絞った二曲のスコアを探し始めた。
「あ! 瑠衣ちゃん、『トランペットラブレター』のスコアあったよ! しかもアルトサックスを加えたトリオ版と、フルートとハープ版もある!」
二人は原曲版とトリオ版のスコアを手に取り、ざっと眺めていく。
『トランペットラブレター』は、石川亮太が作曲したトランペットソロとピアノの楽曲。
バラード調の優しい旋律と、コード進行が美しくも感動的な曲。
ズーラシアンブラスのインドライオンのテーマソング的楽曲とも言われており、数年ほど前まで、『トランペットラブレター』のみ課題曲とした『トランペットラブレターコンテスト』も開催された事があったという。
動画サイトにも数多くの演奏動画がアップされており、トランペットやコルネット、ユーフォニウムを始め、アルトサックスやクラリネットなど木管楽器で演奏されている動画、トリオ版の動画や作曲者本人がソプラノリコーダーで演奏している動画もアップされている。
「トリオ版、私買おうかな。サックスだったら怜さんも吹けるし、三人で演奏したら楽しそう」
「じゃあ私は原曲のスコアを買うね」
「まず一曲見つかって良かった。もう一つの候補曲のスコアを探してみようよ!」
瑠衣と奏は、もう一曲のスコアを時間を掛けて探したが結局見つからず、一旦ハヤマ銀座店を後にした。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!