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「で、何があったの?」
優しい口調で聞く天乃は、こんな真冬にソファに座ってアイスを食べていた。そしてオレもアイスをもらってベッドに座らせてもらっている。
正直申し訳ないが、今はなんだかお言葉に甘えたい。
「………母さん、に……怒られた。」
一言、アイスを食べながらの口でそう答えると、天乃は「そっかぁ。」とアイスを見つめながら答えた。
でも、そこから先の言葉が出なかった。親友に言ったとて何か変わるもんなのか、困らせるだけじゃないのか、傍迷惑なんじゃないのか…そんな無数の考えがいくつも脳裏を横切る。
「…おれはさあー───・・・」
ふと、天乃がアイスを口にしながら声を出した。
「別にそんな頑張る意味ないと思う。」
答えてくれた言葉は、意外にも予想外のもので。でも優しい声色で、つい泣きたくなる。
「勉強も、運動も、家事も、気分取りも、友達作りも、無理するのも………」
いくつもいくつも例を挙げながら、淡々と答えていく天乃にオレは目が離せなかった。
「───泣くのを、我慢するのも。」
ふと言われたその言葉で、胸がぎゅっと苦しくなった。多分、その言葉を言われて安堵したんだと思う。泣いてもいいんだ、って。泣くのって我慢しなくてもいいんだ、って。それでもやっぱり怖くて。それでもその言葉はオレには図星で。
「なんでかって言えば、人生なんて結局はどっちかにしか転がらないんだよ。勉強頑張っても、未来のオレたちは結局好きなことを仕事にしてるかもしんないし…」
好きなことを頑張っていても、将来はいろんなことにチャレンジしてそれが本職になってしまっているかもしれないし。と、数多もの運命を天乃は淡々と続けていた。
そんな天乃の手に握られているアイスは溶けきっていて、ジュースのようになっていた。
それでもそんなのも気にせずに天乃は話し続ける。
「塾が嫌になってやる気が出ないなら本末転倒だし、親に嫌味ありな言葉で言われたらそれこそもう嫌だー!…ってなるし?」
───結局、運命はどうなるかわかんないんだよ。と天乃は結論づけた。
それもそうだと、納得してしまった。勉強を頑張った人でも結局は好きなことを仕事にした人なんてこの世には大勢いる。
運動を頑張った人でも、結局は家で仕事をやっている人なんてこの世には大勢いる。
それはその道が続けられない人もいるし、敢えて続けなかった人もいるんだと、胸に刻み込まれた。
「───だから、らだぁは大丈夫!泣き叫んでもいい人間だし、1人になってもいい人間だし、好きなことする人間でいいし。」
オレもその1人の人間!この世の人口全員がその人間!と天乃は笑顔で答えながら手に溢れてしまったアイスを洗いにいった。
(……へへ、なんだそれ。)
涙と共に、笑みも溢れた。なんだか、嬉しいんだよ。”解放される”って、このことなんだな。
帰ってきた天乃は、笑顔でオレの前に座った。
「ほら、らだぁ。文句言うならオレに!!でも貸し1だからね!」
「───うん。」
オレはその後、泣き叫んだ。
塾に行きたくないのに強制されたこと、なんで強制されてまで行かなきゃいけないのか、勉強をもうしたくない、運動も疲れた、人に合わせるのも疲れた……いろんなこと。
でもそれと同時に、天乃と一緒にいたら楽しいこと、天乃と離れた瞬間に家が辛くなること、天乃がいれば、どこでも行けるような気がしたこと……全部全部吐いた。
天乃は、オレの話を親身になって聞いてくれた。泣き叫んで語彙力がぐちゃぐちゃなオレの話をよく理解して聞いてくれたことは、今でも感謝している。
「ねね、らだぁ。」
涙が止まらないオレに、天乃は笑顔で声をかけてくる。
「オレから一つ呪いかけてもいい?」