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これは、清一と充がラブラブになるちょっと前の話である。
「圭吾ー、今日はいいもの買って来たんだ」
学校の一階にあるホールに並ぶベンチに一人。購買部で買ったばかりのちくわパンの袋を開けて、『さぁ食うか』と思っていたら、いつものタイミングで琉成が来やがった。
(監視でもしてるのか?)
俺のスマホにGPSのアプリでも忍ばせてやがるんだろうかってくらい居場所を的確に突き止めて、いつも俺が間食をしようとすると琉成が現れる。
「いいもの?」
(今俺の手の中にあるちくわパンよりもいい物が世の中にあるのか?いいや、無い)
「ほい」
琉成はそう言いながら、俺の目の前に薄緑色をしたビニール袋を差し出してきた。
「何だ?これ」
俺の手にはちくわパンがあり、受け取れない。袋と琉成の顔を交互に見ていると、袋を開いて中身を俺に見え易いようにしてくれた。
「バイト代が出てたからさ、商店街のパン屋に行って圭吾の好きそうなパンを沢山買って来たんだ。メロンパンだろ、パニーニ、唐揚げパンとか……まぁそんな感じのもん」
甘い匂いとしょっぱい匂いが混じった袋の中身は見ているだけでも全てが美味しそうで、宝箱でも覗いているような気分になった。
「これ、全部食べていいのか?」
期待に目を輝かせて目の前に立つ琉成を見上げて問いかける。すとる奴は、よりにもよって「圭吾にあげるから、俺に食べさせて!」と言い切った。
「…… 俺、先に帰るわ」
ちくわパンを口に咥え、咀嚼しながら座っていたベンチから立ち上がる。
『いいもの買ってきた』と期待させておいてコレは、今までで一番ムカついた。どうしてよりにもよって俺の好きそうなパンばかりを買い、目の前に差し出しておきながら、食うのは琉成なんだ。
楽しみにしていたちくわパンの味までもが、気分が悪いせいで美味しいと思えない。腹に入ったので空腹は紛れたが、ただそれだけだった。
「え、何で?圭吾何で怒ってんの?俺ちゃんと買って来たのに」
足早に立ち去ろうとする俺の肩を琉成が掴んで止める。
(本気でわからないのか?あ、いや……コイツなら有り得る)
同じ言語を操っているとは思えないくらいに言葉が通じず、普段からいい不明な持論を押し付けてくる事が多いからだ。
「まぁ確かに。俺の買ったパンを毎度毎度奪うよりは、た・し・か・に・マシだな」
「だよな?そうだろう!」
琉成が誇らしげに笑い、二、三度頷いた。
『そのデカイ図体の中身は空っぽだな』と、吐き捨ててやりたい気持ちになったが、言った所で言葉通りにしか受け止めないコイツでは、真意なんぞ伝わらんだろう。
「成長期で常に空腹の俺の口には入らん事を怒ってるって、マジでわかんねぇの?」
「……あーそっか。んじゃ俺が食わせてやるよ!だから圭吾も、俺にちょうだい」
「まどろっこしいだろ!アホか」
「それじゃダメだよ!圭吾のモノが欲しいんだもん」
「俺の、が?」
「うん、圭吾のが。全部欲しい、全部喰べたい」
「全部お前にやったら飢え死にするわ!」
眉間にしわを寄せ、琉成の手からパンの入った袋を奪い取る。「——あ!」と声をあげた琉成を無視して、俺はその場から、怪盗ばりに脱兎の如く走り出した。