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夢を見た。
変な夢だ。
そう断言出来るくらいには、かなり。 だけど夢ってそんなもんだろう?あまりに可笑しすぎて、目が覚めたら忘れているなんか常だしな。
——なんて話しを何気無く琉成にしたら、当然の流れで「どんな夢だったの?」と訊かれた。
ただ『変な夢だった』と言えただけで俺の中では終わった話しだったし内容までは話す気も無かったのに、断ったら「気ーにーなーるー!」と琉成が言いながら騒ぎだした。俺のベッドの上でバタバタと両手足を振って暴れ、子供か?ってくらいに駄々をこねている。
「なんでだ?別に、ただの夢だろ」
あんまり覚えていないし……と言いたい所なのだが、珍しく七割くらいは話せる程度に記憶しているのが辛い。内容が、内容なだけに。
「圭吾の事は全部把握しておきたい。そんなの、俺は彼氏なんだし当然でしょう?」
大の字に寝転びながら言われても、漫画みたいにはキュンッともドキッとも出来なかった。 コイツに惚れている女子達ならば黄色い悲鳴モノの台詞なのかもしれないが、何とも思えないのは同性故にだろうか?それか、ガキくささのせいかもしれないな。
(……って。いやいやいや!全部把握とか、普通に怖いからだろ!)
俺のプライバシーも尊重しろってんだ。と、 表情を変えぬまま、脳内で即座にツッコミを入れた。
それにしても、コイツが俺の彼氏、彼氏、彼氏かー。今となっては事実なのだが、なんかムカつく。自分で選んだ選択だってのにだ。
「で?で?どんな夢だったの?」
「何の脈略もない内容だっつーの。つうかさ、サラッと怖い事言うなや」
「怖い事?……何か言ったっけ」と、琉成がキョトン顔をする。って事は素で言ったって事で、余計に怖い。俺の全てを知ったからって何が楽しいのやら。
「んで?どんな夢だったの?俺以外との浮気とかだったらお仕置きしちゃうけど、それでも正直に話してね?」
「……ソレを言われて、それでも話す馬鹿正直なのは充くらいなもんだろ」
「そうだねぇ。んで、『夢の中であっても浮気なんかしたくなかったぁ』って恋人に泣きついて、丸く収まるタイプだよね。いいよなぁ、どう転んでも結果的に得する奴って」
「何だ。俺にも泣きついて欲しいのか?」
「そうだね。圭吾の涙は美味しいし、ソレもアリかな。浮気は夢でも許さないけど」
高揚した顔で言われ、背筋に寒気が走った。どんだけ俺の体液が好きなんだコイツは。
「で?で?」
どうしたって内容が気になるみたいで話を戻されてしまう。どうやら俺にはもう、話す以外の手立ては無い様だ。
「……別に、アレだ。可愛い男の子が出て来てな、感謝感激って顔をして俺に言うんだ。『僕は昨日貴方に助けて頂いた、鶏の王子です』って」
「鶏の王子って!“男の子”の時点で鶏要素無いじゃん。しかも王子ならヒヨコであるべきだよね」
そう言って、琉成が腹を抱えて笑い出した。 こうなってくると正直テンションが上がる。くだらない話でもこうやって面白そうに聞いてくれるから、コイツが自分の事を全く話していなかろうが話題に事欠かず、今まで友人として楽しく過ごせてきたのだろうな。
(……こんな一面も、俺に合わせて演じている『だけ』ではないといいんだが)
「んでな、唐突に昨晩の回想が始まるんだよ。確かに昨日俺は焼き鳥を食わずに残してたんだ。当然夢の中でだけどな。『腹一杯だし、もういいか』って。そしたら偶然その焼き鳥が実は王子だったらしく、魔法使いの呪いがうんたら言い出して、長々とまぁどうでもいい過去の話をし出す訳だよ。んで俺はそれ聞きながら『焼き鳥になってる時点で、もう死んでね?』って思ったんだけど、その辺はあやふやなんだから、所詮は夢だよな」
「え、圭吾が食べ物残すって……有り得ないね。夢だわ、ソレは」
「食いつくのソコなのかよ。ってか、最初から『夢だ』って言ってるだろ」
本気で驚いた顔をされたが、そこまで驚く様な事だろうか。まぁ、勿体無いからと料理を残した事が一度も無いのは確かだが。
「んでだ、長話しが終わったと思ったら、今度は『願い事を叶えてあげる!って言いたい所なんだけど』って気不味そうな顔をしながら、『そこまでの力は無いけど、貴方が“妄想した事を相手に体感させる”魔法をかけてあげるね』言うわけだ」
「……妄想を、体感させる?」
「あぁ。意味わかんねぇだろ?んな事言われたってさ。だけど夢ん中の俺は信じちゃっててな、次の日になって色々試してみようとするんだけど何も起きねぇの。したら夜にまた鶏王子が現れて、『妄想と想像は違う』って指摘されてさ。でもそんな差なんかわかる訳ねぇし。俺はそもそも日頃から、『妄想だ』『想像だ』言われてもその定義どころか、んな事する暇があったら飯食うか、勉強でもしてるっつーの」
「あぁ、そりゃ何も起きなかった訳だ」
「な」と言い、琉成の顔を軽く指差した。
「それでそれで?」
「…… 以上だ」
「——え⁉︎嘘だぁ、んな訳無いでしょ」
ガバッと慌てて起き上がり、ベッドの端に座っていた俺の間近まで迫ってきて、琉成が疑り深い瞳をしながら人の顔を下から覗き込んできた。
「確かに何かはあったろうけど、話せる程にはちゃんとは覚えてない」
瞳を見ながら、キッパリ断言する。これ以上訊かれても語る気なんか微塵も無い。 今回の譲れない一線が此処なのだ。
「えぇー勿体ない。そんな美味しいシチュエーションを覚えてないだなんて」
どこまで信じてくれたのかは不明だが、どうやらこれ以上の追求はしないでくれそうだ。
「俺だったら、そうだなぁ……。講義室とかトイレでとか、カフェや更衣室とかもいいなぁ。とにかくさ、色んな場所に圭吾と一緒に行ってぇ、オモチャとかでねちっこくイジメちゃう妄想をわざとして、人前でもめちゃくちゃにしちゃうのに」
真っ赤な頬を両手で包み、照れ臭そうに言われてもキモイだけだった。
そして……ドンピシャでその通りの行為を夢の中でされた事を思い出してしまい、無表情のまま頭の中から必死にその記憶を追い出そうと努めたのだが……どうやら無理っぽいみたいだ。