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——琉成に催促され、口にはせぬまま夢の中での出来事を思い起こす。
一昨日、『助けてくれてありがとう』だなんて、昔話の鶴みたいに鶏王子が現れて、意味不明な力を授けて消えやがったが全然使えず、クソの役にも立たなかった。
そうしたら昨日再び現れて、今度は『んじゃその力は別の人にあげちゃいましょうか。貴方には……そうですねぇ、満腹になれる胃袋とかはどうです?』って提案してきた。んな物が可能なら、じゃあ最初からそっちをくれよって感じだったが、こっちはありがたく頂く事にしたおかげで、今の俺はとても満たされている。
『おはよう、圭吾』
午後一の授業に間に合う様に大学へ行くと、午前から来ていたっぽい琉成に声を掛けられた。
何時に到着するとも何も言っていなかったし、SNSだとかでの連絡すらも今日はしていなかったのに、よくまぁ俺の居場所がピンポイントでわかるもんだ。
『おはよう。今朝はお前の方が早かったんだな。起こしていってくれりゃぁ良かったのに』
『いつもみたいにお腹空かして起きると思ったけど寝たままだったから、かなり疲れてるのかな?と思ってさ。朝ご飯はあれでひとまずは足りた?』
今朝は、まだ寝ていた俺達の代わりに琉成は四人分の朝食を用意してから大学へ行ってくれていた。入居時の取り決めでは、食事は各人でどうにかする約束をしていたのに、最近では暇さえあれば用意してくれている。だがまぁ、俺もよく全員分の料理を作っては放置しているので、普段のお返しといった所だろうか。
いつも通り俺の分だけ異常な程の大盛りだったが、今日はそれを食べ切るのが正直辛かった。普段なら余裕な量だったので、鶏王子の魔法?とやらは本物だったのだなと実感する事が出来た。
『……もしかして具合悪いの?だから起きられなかったとか?』
『ん?どうしてだ?』
不安そうな顔で訊かれても、何の事だかわからない。
『だって、圭吾が歩きながら何も食べていないから!』
ごもっとも過ぎて反論出来ない。だからといって馬鹿正直にお礼の話をした所で信じてなんぞもらえる筈がないので、『……んな日もあるだろ。体はいたって健康だよ。アレだ、やっと完全に成長期が終わった的なヤツじゃね?』と答え、心配そうにしている琉成の頭をくしゃりと撫でた。
『んな事よりも、もうすぐ授業が始まるよな。どこに座る?』
『圭吾に任せるよ、俺は何処でもいいから』
『んじゃ前の方がいいな』
琉成を目で追う女性陣の視線が煩いと気が散ると思い、そう提案する。 前の方へ歩きつつ、『わかった、じゃあそこにするか』と話しながら適当に席を取り、荷物を置いて座った。
二人でくだらない話をしていると、あっという間に休憩時間が終わって午後からの講義がスタートした。
淡々と授業が進み、十二、三分くらい経過した頃だろうか。
急に首筋に妙な感触が走った。ぬるっとした、それでいて熱く、まるで舌が肌をなぞった様な感触だ。何事かと思い周囲を見渡したが、後ろに座る人がこっちに手を伸ばして何かしたような様子は無いし、隣に座る琉成もそれは同じだった。
シャープペンでトントンと軽くノートを叩いて手遊びはしているものの、真正面を見て先生の話を真面目に聞いている。
(気のせい……か?)
不思議に思いながらも首を撫で、変な感覚を拭おうとしながら、自分も正面に顔を向けた。
しばらくはそのまま何も無かったのだが、単調な授業内容に少し眠気を感じ始めた時、今度は太腿を撫でられた気がして慌てて視線を脚へと落とした。だが今回も気のせいだったのか誰の手も置かれてはいない。琉成は相変わらず真剣な様子で授業を聞いているし、反対側には三人分の空席が続いているので、そちら側から誰かの手が伸びてきた可能性も有り得なかった。
(寝ボケていたのかもしれないな、ちょっと眠かったし)
自覚していなかっただけで多分数秒程度寝落ちしていたんだろうと結論付けたのだが、太腿を撫でられる感触がなかなか消えてくれない。自分で強く触り、払う様に強く擦ってもそれは変わらず、段々と痴漢でもされているみたいな気持ちになってきた。
何なんだコレは!と思った辺りで、ハッと鶏王子の姿が頭に浮かび、『その力は別の人にあげちゃいましょうか』と話していた一言が脳裏をよぎった。
勢いよく琉成の方へ顔を向けると、その事に気が付いたのか、奴もこっちを向いて首を傾げる。
どうしたの?と不思議そうな顔をしてはいるが、ただそれだけだ。とてもじゃないが人の脚を撫で回す様な妄想をしている男の顔では無かった。
何でもないと言うように軽く手を振り、正面に顔を戻す。でも脚には撫でられる感覚が今尚続いたままで、しかもその手は徐々に内腿へと移動していっている気がする。
(待て待て待て!巫山戯んな、コレは誰の妄想だ⁉︎)
そうは思うも俺に対してこんな事を考えそうな奴なんか隣に座る琉成くらいしか思い浮かばず。再び奴の方に顔を向け、今回はキッと睨みつけてみた。
『どうかしたの?大丈夫?』
小声で言いつつ、琉成がこちらに顔を寄せる。心配そうに気遣う声は優しいし、表情は穏やかなままなのだが、触れられる感触はとうとう後ろの方へと移動していき、人の尻を両手で掴んで揉み始めたのだから堪ったもんじゃない。
『授業に集中しろ!』と、語気を強め、小声で言う。
『してるよ?』
不思議そうな顔をしているので、もしかしたら琉成は、自分が変な能力を使える様になっている事には気が付いていないのかもしれない。
(ちょっと待て。 ……コレ、俺がバラしたら確実に死亡フラグが立つんじゃね?)
妄想の中でどんなプレイを強要されるのかと思うと、背筋が凍る。現実ですら既にローターやらコックリングやらといったアホらしい物を使われて死ぬ目に合っているというのに、これ以上追加されるとかマジで勘弁してくれ。
(何だって鶏王子は、よりにもよって琉成なんかに厄介な能力を移しやがったんだっ!)
今度会ったら絞め殺してやる。そう心に誓いながら、『……ならいいんだが』と言い、ひとまず授業にまた頭を切り替えようとした。
だが、お尻を揉んでいた手が止まり、その手がゆっくりと尻の奥を目指し始めた。そのせいで肩が跳ねたが、自分が今何をしているのか全く自覚していない琉成は、キョトン顔をしている。なのにそんな顔付きのまま人のケツのナカに指をつぷりと入れる妄想をし始めたせいで少し声が出そうになってしまった。 慌てて口を手で塞ぎ、背中を丸める。
(今は授業中だっていうのに、馬鹿琉成は俺の体を使ってなんちゅう妄想をしてんだ!)
顔が真っ赤に染まり、肩で呼吸を繰り返す。他の事を考えて気を散らそうとしても慣れた様子で的確に前立腺の辺りを撫でるわ内側から叩くわされるせいでそれも出来ず、否応無しに勃起してしまう。隣の席に置いていた鞄に手を伸ばして膝の上に置き、この状態を隠そうとしたが、不審な行動のせいでもしかしたら琉成にはバレたかもしれない。
『すみません!友人の体調が悪そうなんで、退席してもいいですか?』
手を挙げてそう発言し、許可を貰うと、『行こう。ひとまずトイレに向かおうか』と声を掛けてきた。
鞄で前を隠したまま力無く頷き、どうにかこうにか歩いて講義室から退室していく。その間中介助されたままだったので、授業をしてくれていた助教授に『無理するなよ』と心配されてしまった。
順当に卒業しなければいけない身だ。授業の中座なんぞ絶対にしたくなかったのに、それどころでは無い事が悔しくってならない。だけど今は差し迫った問題をどうにかせねばと割り切り、素直に琉成と共に退席したのだった。