👓「ごほごほ…うぅ…。」
風邪を引いたのは、完全に油断していたせいだった。
寒さが和らいだ春先、ほんの一晩、夜風に当たっただけ。普段ならどうということはないのに、たまっていた疲れもあったのだろう。コナンは、翌朝には頭が割れるように痛み、咳と高熱で身動きもままならなくなっていた。
阿笠博士は気を利かせて蘭には連絡せず、博士の家で寝かせてくれた。ただ、薬と食事を用意するだけでもてんてこ舞いで、博士ひとりでは正直手に負えない。
🧢「こんな時こそ、アイツやなぁ……」
博士が連絡を取ったのは、関西からたまたま東京に来ていた服部平次だった。
🧢「おーい、工藤? お前大丈夫かいな」
突然現れた服部に、布団の中からぼんやりとした視線が向けられる。
👓「……なんで、来たんだよ」
🧢「博士が心配してたからや。ええから寝とけ。顔真っ赤やぞ」
服部は手慣れた様子で濡れタオルを絞り、熱を持つ額に載せた。コナンがわずかに顔をしかめる。
🧢「ガキに戻ってるとはいえ、熱で鈍ってんのがよーわかるな。お前、推理とかできん状態やろ」
👓「……るせぇ……」
声に力がない。だが、それでも反論するあたり、まだ服部は少し安心した。
とはいえ、その夜が本番だった。熱がぐんと上がり、うなされるように寝返りを打つコナンの様子に、さすがの服部も顔色を変える。
👓「蘭……ごめんな……」
布団の中から聞こえたその名前に、服部はしばし動きを止めた。コナンの寝言はいつになく弱々しく、胸を締めつけるような響きがあった。
🧢「……ほんま、お前は強がりすぎや。頼るっちゅう選択肢、なんで頭にないんやろな」
誰に言うでもないそのつぶやきを残して、服部はまた冷えたタオルを取り替える。
翌朝。熱はまだ下がりきってはいなかったが、コナンの目は幾分かしっかりしていた。
👓「服部……昨日……来てたのか」
🧢「おう。博士がひっくり返りそうになってたからな。ま、たまには世話される側も経験せえや」
👓「……悪かったな……」
🧢「礼言うのは、完治してからにしとけ。今はまだ寝とく時間や。薬、買ってきたるわ」
くるりと背を向けた服部の後ろ姿を、コナンは薄く笑って見送った。
👓「……ありがとうな、服部」
扉の向こうに消えていったその言葉は、届いたかどうかはわからない。
けれど、きっと――届いていた。
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