テラーノベル
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💙「ありがとうございました」
今日も、何事もなく一日が終わった。
収録も順調。共演者さんやスタッフさんにも笑顔で挨拶して、メンバーともいつも通り。
特に変わったことはない。
少なくとも、表向きは。
家に帰って、靴を脱ぐ。 バッグをテーブルの上に置き、中身を出して整理する。
スマホ、鍵、財布などなど。
いつもと同じ場所に戻していくこの時間が、少しだけ気持ちを落ち着かせてくれる。
風呂に入って、スキンケアをして、鏡に映る自分を見る。肌の調子は悪くない。明日もカメラの前に立てる顔だ。
ベッドに横になり、スマホを開く。SNSを軽く流し見しながら、今日の自分を振り返る。あのトーク、もう少し上手く返せたかもしれない。あそこで笑いを取りにいけたな、とか。反省は尽きない。
そろそろ寝るか、とスマホを置いた時だった。
胸の奥に、かすかな違和感が走る。
嫌な予感がした。
ゆっくりとTシャツをめくると、白い肌の上に蕾が浮かび上がっているのが言えた。
💙「……はぁ」
蕾は、俺の意思なんて関係なく、静かに花開いていく。黄色の花弁がゆっくりと広がり、甘い香りが部屋に滲む。
感情によって色が変わる。
綺麗だなんて思いたくない。
俺はプラントだ。
プラントの花は、オーナーを強く惹きつける。抗えない衝動を生ませ、時には依存させる力を持つ。だからこそ恐れられ、嫌われ、差別されら存在だ。
芸能界にいるプラントは少ない。いたとしても、徹底的に隠してるはずだ。
俺みたいに。
💙「なんで俺なんだよ…」
小さく呟いて、花の根元に指をかける。抜くしかない。誰にも知られるわけにはいかない。メンバーにだけは、絶対に。
歯を食いしばり、一気に引き抜く。
💙「う”…ッ ぐっ」
💙「いっ……!」
鋭い痛みが胸を走り、思わず息が止まる。慣れたはずなのに、毎回ちゃんと痛い。じんわりとした熱が残り、視界が滲む。
手のひらの上には、黄色の花。
こんなものが、自分の体から咲くなんて。
これが誰かを狂わせるなんて。
知られたら終わる。仕事も、居場所も、全部。
俺はただ、普通にアイドルをやりたいだけなのに。
💙「……大丈夫」
一人で抱え込むのは、もう慣れている。弱さを見せるくらいなら、自分で処理した方が早い。そうやって今までやってきた。
甘い香りがまだわずかに残る部屋で、目を閉じる。
明日もきっと、何事もない顔で笑っているだろう。
それが俺の役目だから。
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