テラーノベル
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朔也と美宇は、札幌での三日間を終え、斜里に帰る日を迎えた。
展示した作品はほぼ完売し、個展で買えなかった客からの注文も次々に入っていた。
「帰ったら、また忙しくなるな」
そう言って朔也は笑ったが、美宇は誇らしかった。
婚約者の作品が世に認められたのだ。これほど嬉しいことはない。
二人は、企画を担当してくれた高梨亜子に礼を述べ、残りの日程についてもお願いした。
朔也に恋心を抱いていた亜子は、二人の仲の良さを見て早々に諦めたようだ。
最後は親しげにこう言った。
「最終日までしっかりやり遂げますので、お任せください」
その言葉にはプロ意識が感じられ、二人は安心して札幌を後にした。
帰り道、三日間を無事に終えた安心感から、二人はのんびりドライブを楽しんだ。
途中、牧場のレストランに立ち寄り、真っ白な雪原を眺めながら食事を満喫した。
牧場特製のチーズを使った熱々のピザは格別で、美宇は大喜びした。
あまりの美味しさに食べ過ぎてデザートまでは手が回らなかったため、二人はチーズケーキを買って帰った。
今夜の夕食後に食べるつもりだ。
店を出てしばらく走ると、ようやく斜里の街が見えてきた。
たった三日離れただけなのに、美宇はなんともいえない懐かしさに包まれる。
まだ長く暮らしたわけではないのに、この街はすでに彼女の故郷になっていた。
それは、愛する人と穏やかな日々を過ごせる場所でもあった。
「もうすぐ着くよ」
「早く帰りたいわ。たった三日留守しただけなのに、なんだかすごく懐かしい」
「そうだね。札幌は便利だけど、やっぱりこの街の静けさが好きだな」
「私もよ」
美宇はそう答えると、雪に包まれた街並みを嬉しそうに眺めた。
途中でスーパーに寄り、食材を買ってから自宅へ戻った。
夕食は、朔也がステーキを焼き、その隣で美宇がサラダを作った。
二人はワインとともに夕食を楽しみ、食後には牧場で買ったチーズケーキを味わった。
長いドライブで疲れていた二人だったが、夜は深く愛し合ったあと眠りについた。
波の音を聞きながら、美宇は朔也の腕の中でうとうとし始める。
朔也はそんな美宇の頭を、いつまでも優しく撫でていた。
翌朝は、美宇が先に目を覚ました。
朔也の腕に包まれながら、心地よく目覚めた。
しかし、起きた瞬間、ふと何かの異変を感じる。
それが何なのかはすぐには分からない。
美宇が不思議に思っていると、朔也も目を覚ました。
「おはよう美宇。どうしたの?」
じっと考え込んでいる美宇に、朔也が声をかけた。
「ねぇ、なんかいつもと違うの」
「違うって何が?」
「分からないけど……何かが違うのよ」
そのとき、朔也は窓の外へ視線を移し、すぐにその異変に気づいた。
「美宇、外を見てごらん」
「外?」
「そう、海だよ」
「……」
美宇は毛布にくるまると、ベッドから身を起こした。
カーテンの隙間から見えるオホーツクの海は、今朝はどこか違って見える。
「あっ!」
「分かった?」
「うん。もしかして流氷?」
「正解! 接岸したみたいだな。静かだろう?」
「本当……波音がまったく聞こえない……」
美宇は毛布をまとったまま急いで窓辺へ行き、外を眺めた。
朔也の言った通り、海はしんと静まり、氷の塊が押し寄せている。
二人が札幌へ行っている間に、船は陸へ揚げられ、流氷を迎える準備も整っていたようだ。
そのとき、朔也が言った。
「見に行ってみる?」
「うん!」
美宇は嬉しさのあまり、大きく頷いた。
それから二人は、海へ向かった。
いつもは絶え間なく波が打ち寄せる浜も、今朝は氷に覆われていた。
そこには、音のない世界が広がっている。
押し寄せた氷は透き通るような淡いブルーで、山の向こうから昇る朝日に照らされると、その青はさらに濃く変化する。
幻想的な光景に、美宇は思わず息をのんだ。
「これが……これが本当のオホーツクブルー?」
「そうだよ」
「朔也さんの作品と同じ色……なんて美しいの!」
「美宇、僕はね、この青色を表現したかったんだよ」
「そうだったんだ……これが本当のオホーツクブルー……」
そのとき、海から吹いてきた風が美宇の頬を優しく撫でた。
氷の海を渡ってきた冷たい風なのに、火照った美宇の頬には心地よく感じられた。
(恋風……)
そのとき、いつか本で読んだ言葉が、美宇の脳裏に蘇った。
『恋風(こいかぜ)』
恋心の切なさを、風が身に染みる感覚にたとえた言葉。
(オホーツクブルーの恋風……)
ふいにそんな言葉が頭に浮かび、美宇は思わず頬を緩めた。
極寒の中にいても、不思議と寒さは感じなかった。
(それは、隣に彼がいるから……?)
朔也を見上げながら、美宇はそんな風に思った。
彼がそばにいてくれる限り、どんな寒さの中でも温かいのだと。
そして、自分も彼を包み込む温かな『恋風』になりたい……心からそう願った。
「美宇」
「ん?」
「幸せになろうね」
「もう十分幸せよ」
「あはっ、そっか」
朔也はそう言って笑い、美宇を抱き締めた。
二人はオホーツクブルーの海から渡ってきた恋風に吹かれながら、静かに唇を重ねた。
<了>
本日完結いたしました。
最後までお読みいただき、心から感謝申し上げますm(__)m✨
このあと引き続き、明日一話、明後日一話、二日にかけておまけのショートストーリーが続きますので、
どうぞお楽しみに! 瑠璃マリコ🌌
コメント
85件

素晴らしいストーリーでした。 陶芸が好きな2人の出会いが美宇さんの悲しい思いを打ち消すのは素敵でした。 欲を言えば美宇さんの人物陶芸がどんな評価がくだされたか知りたいと思いました! お疲れ様でした。
愛する人と二人きりで眺めるオホーツクブルー🩵💙 ロマンティックで素敵…✨️✨️ 完結おめでとうございます💐🎉✨️ ショートストーリーも楽しみにしております🎶
マリコ先生…完結おめでとうございます🎉お疲れ様でした!2人の情景が目に浮かびながら勝手に妄想して楽しんでいました🩵ショートストーリー楽しみにしています🩵きっと読んだらもっとおかわりしたくなるかも😂あ〜やっぱりマリコ先生のお話好きだわ😍ゆっくりしてくださいね🩷