テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
それから信愛は、おそるおそる声をかけながら、会議室へと足を踏み入れた。
「あの・・・」
室内にいたスタッフが、彼女の声に気づいて振り返る。
「はい?」
「あの、摩耶さんはどちらに?」
「摩耶さんだったら、外の空気吸いたい
って屋上に行かれました」
「あ、わかりました」
軽く頭を下げると、信愛はそのまま会議室を後にする。
残されたスタッフたちは、閉じられた扉を不思議そうに見つめた。
「なんなんだ?みんなして・・・」
◇ ◇ ◇
その頃、屋上では摩耶は、空を見上げながら小さく呟いていた。
「千秋・・・」
その表情には、どこか寂しげな色が浮かんでいる。
「やっぱり千秋なの?私の事・・恨んでるの?」
返事など返ってくるはずもない。
摩耶はただ、青い空を見つめたまま、そう呟いていた。
すると背後で、屋上の扉がゆっくりと開く。
「あ、あの・・・」
聞き覚えのある声に、摩耶が振り返った。
「あら?どうかした?」
「は、はい・・・実は
TAMAYAさんに渡したいものがあって」
「なに?」
信愛は少しためらいながら、一通の手紙を差し出した。
「これなんですけど・・・」
摩耶は差し出された封筒を見つめ、首を傾げる。
「なに?手紙?」
「その手紙は・・・佐敷千秋さんからです」
その名前を聞いた瞬間、摩耶の顔色が変わった。
「ち、千秋からって・・・それどう言う意味?」
動揺を隠せない摩耶に、信愛は静かに答える。
「私・・霊感があって、除霊や霊視が出来るんです」
「除霊や霊視・・・」
「そして今ここに・・・千秋さんも一緒に居ます」
「ち、千秋が!?」
摩耶は思わず周囲を見回す。
しかし、当然ながら彼女の目には何も見えない。
「その手紙は私が千秋さんの
言葉を聞いて代筆したものです」
「だ、代筆・・・」
「書いたのは私ですけど中身は
言葉は紛れもない千秋さんの言葉です」
摩耶は信愛から手紙を受け取ると、しばらく封筒を見つめていた。
そこには、もう二度と聞くことはできないと思っていた千秋の言葉が綴られている。
そう思うだけで、指先が震えた。
やがて摩耶は意を決したように封筒へ手をかける、恐る恐る封を切った。
◇ ◇ ◇
摩耶ちゃんへ。
摩耶ちゃん久しぶり
私のこと覚えてくれてる?
今回はどうしても伝えたいことがあるから
こうして手紙にしました。
私ね、摩耶ちゃんの歌ほんと大好きだったんだよ?
初めてライブ見たときビビッ!と来たんだ。
まるで私の応援歌みたいでめっちゃ感動したんだよ。
摩耶ちゃんが私の元で働きながら勉強しなさい
って言ってくれた時の事今でも覚えてる。
誰からも受け入れられなかった私が
初めて誰かに必要とされた。そんな瞬間だったから。
だからこそ私はショックだったの。
摩耶ちゃんがこころクリーニングと
定義の無い言葉の刃物を
自分で作詞作曲した歌だって言ってリリースして。
でも勘違いしないでね?
恨みとか全く無いからねほんとだからね?
私なんかが書いた曲が摩耶ちゃんの歌声で
色んな人の耳に届く。それだけで私は満足だった。
歌が下手な私が歌ったって
誰からも見向きもされないしさ。
頭ではわかってたんだ。
でも内緒でやられたのはやっぱショックだったかな。
言ってくれればさ「いいよ!摩耶ちゃんの歌声で
色んな人に届けてよ」って笑顔で言ったのにさ。
だってさ摩耶ちゃんは私をレッテル貼らずに
等身大の人間として見てくれた大恩人だよ?
誰からも変人扱いされてた私が
摩耶ちゃんに『ここにいていいよ』って言われた時
初めて私は生きてるんだ!実感したんだ?
そんな摩耶ちゃんに言われてさ
私が拒否るわけないじゃん。
だからね摩耶ちゃん
これからもいっぱい歌って
色んな人を笑顔にしてよね。
約束だからね?
私はこれからもずっと摩耶ちゃんの
妹であり、世界一のファンだから。
千秋より。
◇ ◇ ◇
その手紙は千秋の恨みの言葉が綴られた手紙、などではなく、千秋から摩耶に対する愛の告白、エールとも取れる内容の手紙だった。
#ボカロ
ありあ
107
ありあ
159
コメント
1件
うわぁ……千秋からの手紙、恨みでも憎しみでもなくて、全部「大好き」だったのが刺さりすぎました……😭💦 ずっと「恨んでる?」って自分を責めてた摩耶ちゃんに届いた、千秋の「妹であり世界一のファン」っていう言葉、最高にエモい。代筆っていう形で想いを届けた信愛ちゃんも含めて、この3人の関係性が尊すぎて泣けました……。続きも絶対読みます!🌸